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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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六十二話 すう、三人組と三階層攻略

 三階層に降りると辺りが少し明るく広くなった。


 すうたちが並んでも余裕がある程の通路を青いライトが照らし出している。

 一階層の強い照明よりは暗いが、二階層の不気味なほどの薄暗さはない。


 ただ一番の違いは、両側にある水槽だろう。

 ごつごつした岩で縁取られた壁の水槽にはガラスがなかった・・・・


 手を伸ばせばそのまま水へと入っていく。もしバランスを崩せば体ごと突っ込んでしまうだろう。

 だが水が通路側に溢れ出てくるようなことはなく、表面が波立ちもしない。


 区切られた水そのものが壁になっているエリア。

 それが三階層だ。


 ダンジョンでしかありえない幻想的な光景。

 しかしダンジョンということは魔物もいる。

 そしてこちらから出入りできるということは、当然魔物も飛び出してくるということで。


「はっ!」


 通路の中央で凛の鋭い声が響く。

 気合と共に放たれた蹴りがサメの横腹に叩きこまれ、ざらついた体がくの字に曲がって壁へ叩きつけられる。


 三階層の魔物は二階層よりも強く、巨大になる。

 今までの魔物は大きくともすうの身長ぐらいのサイズしかでてこなかった。しかし叩きつけられたサメはすうを頭から呑めそうな大きさだ。



 そしてそんな三階層で、現在すうたちは大量の魔物に囲まれていた。


「どうして、こうなった」

「あんたのせいでしょーーがっ!!」


 叫ぶ凛……凛たち三人の戦いをすうは横目に見る。


「もう二体、いや三体くる! 右と上!」


 後ろからうるが警告すれば他の二人は即座に反応した。


「前に出ます!」


 上半身を覆うほどの盾を構えた杏子あんずが踏み出し、凛がその後ろへ回る。


 杏子の前から額がごつくなった二体の魚が突進してきていた。

 二体のずっと上、天井スレスレにはひれを波立たせたエイ。凛たちをうかがうように旋回している。


「んんっ!」


 杏子の盾へ魚二体の額が衝突する。

 ゴォン! と衝撃音が響くが、杏子は床を踏みしめ一歩も下がらず受け切っていた。


「ふうっ」


 後ろから凛が飛び出し、動きの止まった二体へ全力で拳を振るう。

 魚たちはめきりと顔ごと頭を叩き潰された。


 だが隙を晒した凛に対し、旋回していたエイの魔物が一気に落下し強襲してくる。


「させない」


 エイに対し、潤が折り畳み式の弓へ矢を二本つがえて撃ち放った。鋭く風を切った矢はエイの体へ突き刺さり、びくんと空中で動きが停止する。


「ふん!」


 その間に体勢を変えた凛は体を捻り、勢いの乗った上段蹴りがエイの体を抉り潰す。


 どたりとエイは床へ墜落した。


「他は!?」

「それで最後。おつかれ」


 潤の言葉で凛と杏子はゆっくり力を抜いた。

 そして一連の連携を横目で見ていたすうはつい手を叩いていた。


「すごい、ね」

「……あんたに言われたくないわ」


 凛が嫌そうな顔で指を突きつけてくる。


「あたしたちよりたくさん! 一人で! もっと早く! 倒したやつが褒めてくんな! 嫌味!?」

「む」


 すうは目を下ろす。

 たしかに周りには溶け始めた魚たちの死骸が積み重なっているが。


「しかもそのキモい手で拍手とか……!」

「むぅ」


 さらに【異形器グロテスク】はそれらを食い散らかしているが。


「べつに、かんしん、しただけ」


 現状からふいと目を逸らす。

 実際にすうは珍しく純粋な気持ちで褒めていたのだ。

 少なくともあの連携はすうにはできない。仲間がいないとかではなく、いたとしてもだ。


 息を切らせながらも凛はさらに口を開く。


「つーか、なんであんた、まだここにいんのよ。多分もっと早くいけるんでしょ。まさか、同情してるなんて言わないわよね」

「ちがう」


 無理矢理でも凛たちは立ち直った。

 なら別にほっておけないとかそんなことは考えない。


 じゃあどうして一緒に進んでいるのかと言われれば、理由はいくつかある


 一つは侵入者の存在だ。


「ここでも、しんにゅうしゃが、でてくる、かも。はしりまわって、ふいを、うたれたく、ない」

「ああ……」


 凛がわずかに目を伏せた。


「それに……」


 すうは言いかけて心の中にその言葉をとどめた。


 単純に、凛たちが思ったより早い、と。

 脚が速いというのもある。ただそれより魔物が現れてから討伐するまでの流れがスムーズだ。


 流石に本気ならすうの方が早いが、警戒しながらだと追いつかれる可能性もある。これ以上褒めたりはしないが。


 そして、最後に。


「わなも、あるし」

「あんたが引っかかったみたいなのがね……!」


 罠の存在がすうに走るのを躊躇わせていた。

 実はこの魔物たちの群れ、罠によって引き寄せられたものである。


 少し前、通路の真ん中に不自然に設置されたサメの模型が現れた。

 魔素を感じ取ったすうはそれを魔物だと思って壊してしまったのだ。


 凛がなにやってんの!? と叫んだ直後。

 大音量のアラームが鳴り響き、辺りの水槽から一気に魔物たちが殺到してきて……まあ、今に至るというわけだ。


「なんのために潤が先頭に立ってると思ってんのよ! わざわざ追い越して壊して!」

「じんせい、いろいろ」

「あんたねー!」


 一応発見自体は魔素感知センサーですうにもできる。ただ侵入者へ先に気づかれるかもと考えると起動させたくもない。

 だからこうして一緒に進んでいるわけだ。


 ……さっきは潤が無警戒に魔物へ近づいているように見えて、壊してしまったが。


 そういえば『神迷』の三階層でも石像を壊すと魔物が出てきたりしたなぁ、などとすうは考える。


「あんな怪しい模型があったら普通手出ししないようにするでしょ!?」

「こひょう、りゅう。こわして、すすめ」

「な、こ、小兵さんの……!?」


 実際に言われたことなので間違ってはいない。

 問題があるとすれば今回のすうはアレが罠だとすら気づいていなかったことか。罠も魔物もすうにとっては同じ魔素の塊なのだ。


「落ち着きましょう、りんちゃん。模型か魔物かはぱっと見でわかりませんから」

「そういうのは斥候の役目。簡単に見分けられたら困る」


 二人がフォローに入ってくれて、先へ進むことになった。

 今度こそ潤の前に出るなと言われつつ早足に通路を抜けていくと、やがて行き止まりに当たった。


 鮮やかなサンゴや海藻が生えた壁を前に凛たちが眉をひそめる。


「この先、道はあるはずなのに」

「ん」


 すうの魔素感知センサーでも壁の向こう側に道が続いている。


「つまり、これも罠」


 潤がそっと壁へと触れる。


「シャッターがおりて、閉じられてる感じ。近くにスイッチがある」


 よく見るとサンゴの隙間から灰色の人工物が覗いている。


「たぶんこの辺に」


 潤は近くの壁を叩き始めた。音の違う場所を指で探り、ナイフを差し込ませる。するとがぱっと壁が開いた。

 中にはケーブルや穴やスイッチが色々入っている。


「おお、すごい」


 素早い手つきにすうも思わず声を漏らすと、潤の口元がわずかににやけていた。

 すぐ手で口を覆って作業へ戻ったが。


「後はどれが正解か……」


 潤がポーチから解除をするためのなんらかの道具を取り出した。


 それを眺めていると、そっと杏子がそばへ来る。


「すうさん、ありがとうございます……二人が、少しでも立ち直ってよかった」


 そっと話しかけてくる杏子を目だけで見上げる。

 確かに最初はぎこちなかった三人は少しずつ動きが良くなってきている。


 ただ二人が、というのが気になった。


「あんず、は?」

「……私は、なんというか。少しだけ怪しさを感じていたので」


 凛たちを気にしながら声をひそめる杏子。

 すうの方からさらに近づいて、ごく小さな声でも会話ができるぐらいぴったりとくっつく。


「どういう、こと?」

「……使間先生は、数日前に『水族館』のとても詳しい情報をくれたんです」


 だが『水族館』は色々と変わったダンジョンなのだ。


「普段『水族館』は何かの実験に使われたりしているとか……かなり情報は制限されていて、魔物の種類すらあまり手に入らないんです」


 思ったより厳重らしい。


「だからどこで手に入れたんだろうと思って聞いたら……職員に、知り合いがいると。そんな情報を聞いてしまっていいのかなと、少し罪悪感はあったんです。でも絶対に合格したかったのもあって、大丈夫だろうと受け取っていたんですが」

「ふぅん」


 普通に相槌をうちながら、小兵から聞いてよかったのかとすうは不安になってきた。


「あれは今思うと……盗みだしたり、したんじゃないかと」


 杏子の声が震え始める。見上げれば顔色も悪い。

 すうは松ノ木を思い出し、落ち着かせるため杏子の手を握った。


「あ……」

「しゅうちゅう。ダンジョン、で、ゆだんは、だめ」

「……はい。そうですね」

「あと、わたしも、こひょうから、じょうほう、きいてる」

「えっ」

「だから、まあ、いいんじゃ、ない?」


 杏子たちがダメだとすうも怪しくなってくるのだ。

 杏子はぽかんとしていたが、やがてクスクス笑いだす。


「慰めてくれてますか?」

「……」


 違う、と思う。

 思うが、すうにもよくわかっていない。

 自分と凛たちを重ね合わせたことで同情しているのだろうか。


 もやもやむずむずしてきた。すうは話を無理矢理に変えようとする。


「ちなみに、じっけん、って、なん、の?」

「えぇと、魔物に関するものでした。概要しか乗ってませんでしたが」


 幸いにも杏子は話しに乗ってくれた。



「たしか——魔物の行動の規則性と、変化・・について」



 すうは首を傾げる。


「へん、か?」

「規則的に動くのが魔物ですけど、たまにすごく変わった動きをする個体がいるんです。その調査じゃないでしょうか」

「ふーん。わたし、みた——」

「え?」

「なんでもないなんでも」


 危なかった。

 やっぱり喋りすぎると迂闊なことを言いそうになる。


 すうが口を閉じたのと同時、潤がスイッチを作動させたのかシャッターが開いた。


「行くわよ!」

「はい。……すうさん。お話、聞いてくれてありがとうございます」


 杏子が微笑んだ。

 すうは見つめられてまた目をそらした。




 そうして罠を解除しながら、三階層を進んでいき——やがて、一時間ほどたったころ。


 すうたちは三階層のボス部屋へと辿り着いた。


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