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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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六十話 すう、ダンジョン用糧食Ⅱ型(カレー)を食べる

 三階層へ降りる階段の近くですうは座り込んでいた。


「ごはん、ごはん」

『ぎゃっ、ぎゃっ』


 お楽しみの時間である。ギャーもつられたように鳴いている。

 バッグを下ろして開けば、中には何度も使ったポーションの空き瓶と、それ以外はぎっしりごはんが詰まっていた。


「これに、しよ」


 うきうきと中身を漁ったすうは、やがて一つの袋をずるりと取り出す。

 直径がすうの頭ほどもあり、中のものの形がわかるぐらいぴっちり閉じられているものだ。


『ダンジョン用糧食Ⅱ型 (現代ダンジョン向け迷彩)』


 ダンジョンで手軽に量を食べられるよう作られた食事。

 ダンジョンの中で目立たない色になるよう、なるべく種類をわけているのだとか。この袋は灰色に近い。


 そして下には料理名。


『カレー』


 色々なところで見た文字だ。

 すうは口元を緩める。


「はじめて、たべる」

『ぎゃ?』


 小兵から『とりあえずカレーならハズレはない』と言われて買ったものだ。


 上部を切れば、中にあるのはどろっとした液体……カレーが入ったパウチ。

 ぴっちり閉じこめられた大きめのウインナーが二本。

 白米の入ったパックが二つ。


「さいこう……!」

『ぎゃー!』


 大量のごはんに体を左右へ揺らす。ギャーも揺れている。


「あたためる、いしが……あった」


 ころりと出てきた小さな包みを開けば、中にはすうの親指程の石が二つ、厚い布にくるまれて入っていた。


 熱石ねついし

 ダンジョンの浅層から採れる鉱石の一つだ。

 名の通りものすごく熱くなる。


「これを、ぶつける」


 二つをガンとカチ合わせれば石の内部の魔素が一気に活性化したのを感じる。

 すぐ熱くなり始め、すうは慌てて袋の中へ熱石を袋の中へ放り込んだ。


「で、ごふん、まつ」

『ぎゃ』


 そうするとお米やカレーがあつあつで美味しく食べられるのだという。


 しかしまだ準備は終わっていない。

 この袋をうっかり床へ置いたりしてしまったとしよう。するとすぐさまダンジョンに溶かされてしまうのだ。


 故に放置はしておけない。

 かといってずっと自分の手に持っていると魔物へ対処できない。


 だがそんな問題は多くの先人たちによって解決されている。


「とけない、よう、ひもも、つけて」


 ダンジョンはなんでも溶かす。

 だが生物と、生物が身につけているものは溶かさない。


 歩いていても靴は無事だし倒れても服や装備が欠けたりはしない。

 その法則を利用して、ダンジョン用糧食には紐つき輪っかが備え付けられていた。これで安心して目を離せるのだ。


すうは自分の手に輪っかを通してしっかり固定する。


「これで、じゅんび、かんりょう」


 そしてさらにすうはバッグを漁り始めた。

 この五分の間にもう何品かごはんを用意するつもりだ。それだけ聞くとまるで料理上手のようだが実際は缶詰を取り出すだけである。


 そして缶詰を入れていた袋を取り出そうとし、すうは異変に気づく。

 バッグの中が妙にぬるりとしていて、いい匂いがする。


「え、あっ!?」

『ぎゃっ!?』


 慌てて缶詰を入れていた小袋をすうは取り出す。ギャーが腕から転げ落ちそうになっていた。

 取り出した小袋の中では、缶詰のいくつかが見るも無残に潰れてこぼれていた。


「ああ……っ!」


 悲痛な声を上げるすうは、缶詰を買う時に小兵から言われたことを思い出していた。


『え、すうちゃん普通の缶詰買うつもりか?』

『そう、だけど』

『やめとけ。戦闘の衝撃に耐えきれなくて潰れたりするぞ。ダンジョン用糧食Ⅰ型ぐらい頑丈じゃないと』

『でも、それ、おおきすぎ。すこし、しか、はいらない』


 結局すうはたくさん入る方がいいと普通の缶詰を詰め込んだ。

 実際、少なくとも三階層までは大した戦闘をしない予定だったのだ。


 それがあの敵たちのせいで派手に動くことになってしまった。


「あいつらの、せい……!」


 すうは憤りつつも理解していた。

 自分が欲望を優先した結果がこんな悲劇を生んだのだと。


 一応、ぶちまけられたのはあくまで小袋の中だ。全て食べきることはできるが、味が混ざって——。


「……そうか、ぜんぶ、たべれる」


 ぽつりと呟いた。

 はっとすうは首を横に振る。その欲望でこんなにぐちゃぐちゃになってしまったのに。


 でもこうなってしまったからには食べないといけない。一回で食べきらないようにと小兵には言われたが、痛んでしまうといけないのだ。


「しょうがない、しょうがない」


 どこか弾んだ声ですうは缶詰を出した。

 これには紐が付いていないので手に持ちながら食べるしかない。それだと魔物に襲われた時に困るが、その時はその時だ。ダンジョン用糧食を作った人たちが見たらなんだこいつという目になることだろう。


「【異形器グロテスク】」


 指の先端だけを鋭く尖らせて『やきとり』の缶詰を開ける。

 中から現れたのは、細かく切り分けられた鶏肉がぷるんとしたたれに埋もれている光景。


「いただき、ます」


 すうは手を合わせ、カレーの袋に入っていたスプーンでたれごと鶏肉をすくい、口へと運ぶ。


「んん……!」


 もぎゅ、と噛めば水分の少ない鶏肉が崩れていく。ぷるんとしたたれと合う食感だ。

 味付けはしょうゆ風で、あまじょっぱさが鶏肉にも染みている。


『ぎゃ!』


 食べているとギャーもすうの腕から缶詰へと首を伸ばし、鶏肉を飲み込んでいた。

 味わうようにまぶたを閉じて、飲み込み終わるとすぐにまた新しい肉へ食いついている。


「む、おもったより、たべる」


 がつがつと競うように『やきとり』を食べ終わった。

 次の缶詰へ手を伸ばそうとして気づく。


「カレー、あったまって、る!」


 缶詰にショックを受けている間に五分は経っていた。

 取り出したカレーの袋は、温かいというよりもはや熱い。


「ごはんは、カレーと、いっしょ、に」


 まずごはんの蓋を剥がす。ほかほかの白米がみっちり詰まっている。

 そこにカレーの袋を開けて、どろりとしたこげ茶色の液体を上にかけた。


「……! はなに、がつんと、くる」

『ぎゃっ!』


 袋を開けた瞬間にスパイシーな香りが直撃した。

 さっきやきとりを食べたにも関わらず、すうとギャーのおなかがぐうと鳴る。


「もう、たべる!」

『ぎゃ!?』


 ウィンナーは後で乗せよう。とにかく今はカレーを食べたい。

 すうはスプーンを手にした。


 すくうのはまずカレーだけだ。

 湯気の立つ姿にすうは耐えきれず口からスプーンを迎えに行く。


「……!」


 ——あつい、からい、あと、すごい。


 最初に広がったのは、何種類もの調味料が重なりあう豊かな香り。舌で、口で味わうそれは、ただ嗅いだ時より何倍も深い。


 辛さはじんとくるが強すぎず、舌の上に心地よい刺激を残した。


 ごろりと入った肉は硬いがすぐほぐれる。崩れた肉がカレーとお互いの味を増していた。にんじんは甘く、じゃがいもはほくほく。どれもカレーと共に引き立てあっている。


「おいしい……!」

『ぎゃ……!』


 いつの間にかギャーも食べていたらしい。口の端にカレーをつけたまま、目を見開いてふるふる震えている。


「つぎは、お米、と」


 すうは米とカレーを一緒にすくう。その比率はちょうど半分ずつだった。

 さっきよりやや落ち着いて食べる。


「——!」


 さらにおいしさが増した。

 まろやかな米の甘味がカレーの香りと混ざり合い、食べる手が止まらなくなる。


「ま、まだ、ウィンナー、が……」


 すうはどうにか手を止めつつ、ウィンナーの袋を逆さにする。

 大きめのウィンナーがどんとカレーの上に堕ちた。


「おお……っ」


 とんでもない光景だ。すうは思わず歓声を上げた。

 つるりとしたウィンナーをバランスをとりつつすくい、かぶりつく。


 ぶつり。薄い皮が弾ける小気味よい音と共に、熱い肉汁が出てくる。肉のうまみを感じながら、飲み込まないようにしつつすうはごはんとカレーも口の中へ放り込んだ。


「んんっ……!」


 思わず目を閉じる。頬が緩む。

 カレーの中の肉とはまた違う。一品で完成するような肉々しさがカレーとごはんに殴り込んできている。そんな贅沢な味。


 すうは夢中になってスプーンを往復させる。


 カレー、ごはん、ウィンナー、あと缶詰も複数試しながら。

 食べるたびに舌が、胃が、心が満たされる。

 幸せが重なっていく。


 冷たく薄暗いダンジョンの中で、ここだけは暖かな空間が広がっていた。



 しかしやがてその幸せも終わってしまう。


 パックの中には少しの米と、わずかに残ったカレー。

 惜しみつつもすうはそれらを口に運んだ。大切に味わいゆっくりと飲み込む。


「ごちそう、さまでした」


 満足な息を吐いて、すうは手を合わせた。


『ぎゃ』


 その隣でギャーもまた目を閉じてちょこんと頭を下げていた。




 そして、すうがカレーを堪能しているころ。


 二階層の中を、三人の少女たちが地図を片手に進んでいた。

 すうとは比べられないもののその足取りは速い。だがそれは実力と余裕に裏打ちされたものではなく、焦りが滲んでいた。


 先頭の少女——小笠原おがさわら りんが口を開く。


「ここまででもいなかった……! どんだけ先に行ってんのよ!」


 苛立ちだけではない様々な感情が乗った声に、後ろから追いかける二人が声をかける。


「ねえ、どこかで迷ってる可能性も」

「そうですよ。……私たちは、こんな地図を使ってるんですし」

「ない。絶対にあいつはもう下に降りてる。……こんなところに留まってるような奴じゃない!」


 怒鳴り声に寄ってきたのかすぐ前の角から魚の魔物が姿を現した。


「うるさいっ!!」


 拳の一撃でその顔を潰して凛は水しぶきを上げて駆ける。


「早く、追いついて……聞かないと。なんで階段に《風追い》のメンバーがいるのか……」


 ぎり、と凛の拳が強く強く握りしめられた。


「使間先生のパーティーメンバーに、あいつが、本当に襲われたのか! 聞かないといけないのよ!」


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― 新着の感想 ―
カレーが食べたくなりました(๑╹ω╹๑ ) こういうのいいなぁ
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