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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人化を覚えていざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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六話 スライム、少女になる

 二階層の洞窟は規模の大きさの通り、道も幅が広い。

 そのせいで魔物が隠れる場所も多かった。


 スライムもまた岩の陰や通路の向こう側に張りつき、探索者から隠れたものだ。


 しかし今のスライムは堂々と通路の真ん中を歩いている。


 前から話し声がして、少しだけスライムは身構える。

 曲がり角から出てきた探索者がスライムに気づいた。だが彼らはぎょっと目を丸くしたものの、スライムが胸を張って歩いていけば攻撃することもなく見逃した。

 スライムは安堵と、歓喜に口の端を吊り上げる。


 胸を張る、歩く、口の端を吊り上げる――まるで人間のような仕草。

 そう、今のスライムは人間だった。


 腰にまで届く真っ白な長い髪が歩く度に揺れ、真っ白な肌は一度も日に当たったことがないかのようだ。

 ぱっちりした目は慣れないように瞬きを繰り返し、小さな唇で息をつく。

 凹凸の少ない体で胸を張り、纏った布が落ちないよう両手でつかみ、胸の前で握りしめていた。


 顔も体も完全に人間のそれだ。


 四階層にある鏡でスライムも自身の姿を見ている。

 当時はこれで地上に行けると大喜びしたが、少し違いもあって気になっていたのだ。


 まず背が低い。

 大抵の探索者より遥かにスライムの体は小さい。この体躯が不自然なものかどうかスライムには判断がつかなかった。

 スライムの好物を取るに足らない扱いした者たちも小さかった。しかしそれと比べても頭半分は低い。

 人型になる際、スライムは見た中で最も強い探索者を模倣した。それが確かこれぐらいの小ささだったはずだが、正確なサイズはスライムには朧気だ。


 次に言葉が拙い。

 スライムが見てきた探索者は誰も彼も流暢に会話をしていた。スライムの口はあれほど滑らかに動かない。単語をきれぎれに紡ぐのがせいぜいだ。


 その他にも、体が上手く扱えず転んだり。

 服がなく魔道具の布を纏っているだけだったり。

 問題はある。


 それらのせいで、魔物が人間に化けていると見破られないか心配していたのだ。


 しかし思いきって姿を現してみれば、驚かれはしても攻撃されない。

 少なくとも外見には問題ないとわかって、スライムは堂々と姿を見せて二階層を歩いていた。


 いや、もし多少の問題があろうともスライムは地上へ強引に出ただろう。


 スライムはきっ、と前を睨む。

 目の前には一階層へのぼる階段があった。


 一階層から逃げてどれだけ経ったか。

 スライムはあの時から一度も人の食べ物を口にしていない。


 人の体は得たのだ。攻撃もされないのだ。言葉なんか喋らなければいいのだ。

 とにかく何かを食べたい。食べたい。食べたい。

 たとえ命を失おうが美味を一口でも味わえたらスライムは満足だったのである。


 一階層への階段を、よだれを垂らしながらのぼりきる。

 現れたのは懐かしい故郷、草原だ。

 草の香りを懐かしく思うより先に、そこら中から食べ物の匂いが漂ってくる。


 草の中に埋もれていたスライムの時より人間の視点はずっと高い。ちらちらと人が食べ物を口にしているのが見えてしまう。


 ぐー、と大きくスライムのお腹が鳴った。


 人間の体は、液体生物だった時に存在しなかった空腹も再現している。

 このぐーぐーいう音もスライムの飢えを促進させていた。


 スライムは腹を押さえて足を速める。

 辺りの探索者の目が自分に向いていることな気にもせず、草原を突っ切り、一階層の階段を転げながらのぼりきる。


 その時スライムの体に異変が起きる。

 あれほど求めていた地上へ近づいているのに足取りが遅くなるのだ。全身が震え、とてつもない忌避感を覚える。


 まるで地上へ行くなと何かに命令されているようだ。体中から汗が噴き出る。従うべきだと体が言っている。


 ――その全てをスライムは無視した。


 覚えた違和感も忌避感も飢えで塗りつぶす。

 求めてやまなかった地上が、『ファミレス』がある地上がすぐ目の前にある。

 スライムの体が嫌がろうと精神の飢えが階段を踏みしめ続ける。


 息を荒くしながらスライムは階段をのぼりきって、外の世界へと踏み出し——。




 数十分後、スライムは十数の人に囲まれていた。


「あなたは一体……?」


 しかも目の前にいるのは、スライムが見た中で最も強かった探索者の女である。

 その背丈はスライムよりちょっと高いぐらいで、自分の記憶は間違っていなかったんだなぁとスライムは現実から逃げるように考えていた。


「もしもし? 聞こえてる?」


 そして女の手がスライムに伸ばされ……そこでスライムの意識は遠くなっていく。

 もともと空腹だったうえに、スライムは意識していないが眠ってもいなかったのだ。


 さらにダンジョンからの何かしらの束縛を振り切った疲労で、スライムの意識は落ちていく。

 それでもスライムは、命より飢えを強く感じて。


「ご、はん……」


 最後に残したのはそんな一言だった。


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