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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人化を覚えていざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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五話 スライム、地上を目指す

 ダンジョン・カロリーブロックを、食べ飽きた。

 少女はそう言ったのだ。


 ダンジョン・カロリーブロックはスライムの好物である。

 例え何度も食べたから好きになったという単純な理由だとしても、好きなのだ。


 それを食べ飽きたというのはスライムにとって衝撃的な発言だった。

 さらに少女たちの会話は続く。


「肉汁たっぷりのハンバーグとか食べたい!」

「ふわふわパンケーキ。デミグラスソースのかかったとろとろのオムライス」

「せめてファミレスに行きたいですね」

「杏子は謙虚すぎでしょ!」

「私達にとってはファミレスも贅沢でしょう」

「お金が欲しい」


 スライムは語られるものを何も知らない。

 だが聞いただけで、極まった飢えが突き抜けるほどに――「おいしそう」だと思えた。


 「はんばーぐ」とは? 「ぱんけーき」とは?

 そして、「ふぁみれす」とは?


「美味しいものが持ち込めたらいいんですけどね。ダンジョン用加工食品は高すぎますからね」

「貧乏な私たちは地上で食べるしかないってね! あーもう! 早く帰ろ!」


 半分ほど食べたブロックをしまい、目じりに浮かんだ涙を拭って少女たちは立ち上がる。

 その体はわずかによろめいていた。傷をかばっているのも見て取れて、先ほどの会話が愚痴を吐き出して強がっていただけというのがわかる。


 だがスライムにとっては獲物が弱っていたというだけでしかない。

 そして弱っていることすら今となってはどうでもよかった。


 今スライムの思考は珍しく空転している。

 これまで食べていたものより、はるかに美味しいというものが地上にある。その事実に驚愕しすぎて、さっきの食べ物の名前を反芻するだけになっていた。


 はんばーぐやふぁみれすがぐるぐる回る中、スライムはやがて答えを出す。


 地上へ行く。


 いつだってスライムの行動方針は食欲によって決められてきた。

 未知の食べ物があるなら、どこまでも行くだけだ。


 しかしスライムはもちろんわかっている。

 地上とは探索者のような生物が大量にいるところで、魔物であるスライムがそのまま出て行けば狩られてしまうのだ。


 まばらにしか探索者のいないこの場とは違う。

 逃げることすらできずに死ぬだろう。


 ならどうすればいいか。

 スライムの体がいくらでも変化するとはいえ、人間そのものになることはできない。

 しかしスライムの知識には心当たりがあった。


 魔道具だ。


 ダンジョンからたまに発見されるという、不可思議な効力を持った道具。

 探索者にも使う者がおり、その中には体を変化させるようなものがあった。


 スライムの次の目的が決まった。

 魔道具を使い、人となる。


 食べ物を持った少女たちが離れていく。だがスライムはそれにも興味を示さない――いや、嘘だ。

興味は示している。今すぐ食べ物だけでも奪い取りたいほどに。

 しかしスライムの精神には、ある言葉が引っかかっていた。


『こんなカロリーブロックもう食べ飽きた』


 繰り返すが、ダンジョン・カロリーブロックはスライムの好物だったのだ。

 それが大したものではないという扱いを受けて、スライムはもやっとしたものを抱えていた。

 端的に言うと悔しかった。


 地上を目指す理由の99パーセントは食欲だが、ほんの1パーセントの悔しさがある。

 そしてだからこそ、必死にダンジョン・カロリーブロックを奪おうとすると、自分が滑稽になる気もしていた。


 スライムは少女たちが見えなくなるまでその場にとどまり、やがて猛然と駆け出した。

 魔道具によって人間に変化し、地上の「ふぁみれす」とやらを目指す。

 その目的を抱えて。



 スライムの思考を加速させるのは、いつだって飢えだ。


 駆けずり回り、駆けずり回り、ただひたすらに飢え続けて。


 ――やがてスライムは『神迷』の五階層までを『踏破』した。


 そして。

 スライムはとうとう見つけ出したのだ――自分の体を完全に変化させる魔道具を。


 浅い階層へと持ち帰り、誰にも見られない洞窟の奥でひっそりと白い光が輝いて。





 やがて、ボロボロの服を着た少女がダンジョンから出てきたという噂が広まることになる。


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