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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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五十六話 すう、助ける

異形器グロテスク】。


 それが異形トカゲからドロップした腕輪の名前。

 『神迷』の管理施設へ預けていた時、ドロップアイテムの参考としてついでに鑑定もしてもらっていたようで、その時に判明したのだ。


 同時に、【異形器グロテスク】は【雑器バスタード】とかなり違うものであることもわかった。



「いく、ぞ。ギャー」

『ぎゃっ』


 ホームガードことギャーを腕に貼り付けたまま、すうは長剣の形になった【異形器グロテスク】を構え、通路を抜けた。


 途端、空気が一気に変わる。

 薄暗くひんやりした今までの通路から一転、辺りは眩しい程に明るくなりむわっと蒸し暑さが襲って来た。


「……かわ()


 そして、細められたすうの目に入ってきたのは自然の景色だった。

 広がるのは木や草の生い茂った、苔むした岩場。岩場の間の砂利道に足首ほどの深さの小川が流れ、そこかしこに池が形成されている。

 一見すると自然系のダンジョンのよう。


「でも、そらは、ない」


 見上げれば、あるのは青空ではなく灰色の天井。そして輝いているのは太陽ではなく大きな照明だ。さらに足元の砂利を蹴ってみれば、ゴンと金属質な音が返ってきた。

 よく観察すると砂利の下には今までと同じ通路がある。草もどうやってかそこに直接生えていた。


「へんな、かんじ」

『ぎゃ』


 聞いてはいても違和感のある光景に眉を寄せていると、突如として近くの岩がごとごと動きだした。


「きた」


 池に浸かっていた岩。いや、岩に擬態していた魔物はざばりと起き上がり、巨大なハサミを振り上げた。

 カニの魔物、ストーンクラブだ。


 すうの腰ほどまであるそのカニは、池の中でも素早く脚を動かし横向きにすうへと接近してきた。


「キシキシッ」


 甲殻の擦れる音を響かせ、左腕の倍ほどもある右のハサミですうを挟み潰そうとしてくる。『神迷』と違い『水族館』は一階層でも敵が好戦的だ。


「ためす」


 だがすうはそれを避けず、変貌した【異形器グロテスク】の剣で受けた。

 ガギンと硬いもの同士がぶつかり合い、カニはそのままギリギリ力を込めてくる。


 だが【異形器グロテスク】の剣身は全く軋む様子すらない。

 逆に、すうはハサミの内側へと刃が当たるよう力ずくで位置を変え、そのまま押し込んでいく。

 するとカニのハサミはすぱっと、何の抵抗もなく切り落とされた。


「キシシッ!?」


 戸惑っているカニの頭部へとそのまま剣を振るえば、その体をあっさり両断する。


「きれあじ、よし」


 他のダンジョンでも一階層ならなんの問題もない。

 すうはそれを確認してもう一体にも止めをさそうとする。


「む?」


 だがそいつが変な動きをしているのに気づく。

 そのカニは左右にゆらゆら体を揺らし、ハサミをしゅっしゅっと交互に前へ突き出している。


 いや、よく見ればその腕はハサミではない。丸く黒いその手は、まるでグローブのようだ。

 すうはハッと気づく。

 そのカニはたしか、あまり見かけないというレアモンスター。


「ぼくしんぐ・くらぶ……!」


 小兵が驚くぞ、と言っていた魔物だった。


「キィッ」


 カニは鋭い声を上げて隙ありとばかりに突っ込んできた。その移動方法はなんと横側に進むのではなく、拳を構えながらの前方ダッシュ!

 剣を構えるすうに、ボクシング・クラブは横から殴ってくるとみせかけ、本命の右こぶしを下から拳を突き上げてくる——!


「ふつうに、おそい……」

「キーッ!!?」


 ただすうからすると普通に見切れるので普通に頭部に剣を突き立てた。

 というか一般的にも遅いぐらいだ。前にそのままダッシュしてきたのにはすうも多少警戒したが、横側に進むよりもずっと遅かった。


 まさかまだ何かあるのかと構えていたが、ボクシング・クラブは断末魔を上げて倒れたまま動かない。

 たださっきのカニと違い、その体は真っ白に染まっていく。まるで燃え尽きたかのように。


「なんだった、の……?」


 たしかにすうは驚いた。驚くほど弱かった。たぶん小兵もこれを見たら笑うだろう。

 とりあえず試し切りにはなったとすうは結論づけた。


「まあ、いいか。あれ・・、つかおう」


 すうは【異形器グロテスク】をカニの死体へと近づける。


 【異形器グロテスク】と【雑器バスタード】の違い。

 それは名前の変化だけでなくその能力故だ。

 基本的な体の武器化と、は召喚獣の使役、そしてもう一つは——。


『きゃあああ!?』


 【異形器グロテスク】を使おうとした時、奥の方から悲鳴が響いてきた。

 他の特例探索者だ。


「む……」


 ただごとではない声だ。恐らく魔物に襲われてピンチになっている。

 試験中であること、小兵からの忠告をすうは考えて。


「たすける、か」


 人は人を助けるものだろう。

 小兵のアドバイスも頭の片隅に置きながら、すうは高い岩場へと跳びのぼる。

 だが辺りを見ようとしても木々が邪魔だった。魔素感知センサーで探すのも難しい。


「ひとは、わかりづ、らい」


 全身魔素の魔物と違い、体内に取り込んでいるだけの探索者は見つけにくいのだ。

 愚痴りつつもやがてすうはある場所に目を止める。


「みつけた」


 奥の池の近くに四人組のパーティーがいた。少年二人、少女二人だ。

 少女の一人が池に沈みかけている。近くにいるカエルの魔物が引きずり込もうとしているようだ。


 一人の前衛らしい少年が助けようとしていて、残り二人はさっきのカニ(通常固体)を相手にしている。

 しかし二対一でもカニにてこずっている上に、もう一体小川を泳いで魔物が近づいていた。彼らは気づいていない。


「ちょっと、まずい!」


 すうは岩場を蹴って跳んだ。池も小川も飛び越えて一気に彼らへ迫っていく。


「たすけ! ひつよう!?」


 彼らの視界に入るぐらいの距離まで近づき、岩場の上から小兵の教え通り声をかける。

 三人が慌てて固まる中、カニを相手にしているリーダーらしき少年が叫んだ。


「助けてくれ!」


 答えを聞いた瞬間、すうは岩場を蹴って飛び降りた。

 池に潜み舌で少女を捕らえるカエル、その脳天へと頭上から剣を突きこむ。ドパン、と水が跳ね、頭部を破壊されたカエルは即死した。


 その死体を蹴って池の端に着地。カニもすぐ仕留めようとするが、相手にするリーダー少年がちょうどバランスを崩し、カニのハサミの餌食になろうとしている。


「ん……」


 駆けてカニを倒すのは簡単だ。だが当の少年の体が邪魔で、駆け寄る間に少年が一撃を食らうだろう。

 別に一撃で死ぬことはないだろうが、すうは念のため、【異形器グロテスク】の切っ先をカニへと向けた。

 そしてイメージするのは異形トカゲの首——伸縮自在のムカデの体。


「——のびろ」


 バキキッと剣身が波打ち、瞬きより速くムカデの外骨格を形成していく。その姿は全身が真っ白だ。

 先だけは剣の形のままの白いムカデを即座に射出する。


 勢いよく伸びたムカデ剣は少年の体を掠めてカニの頭部へと突き刺さり、絶命させた。


「うわっ!?」

「な、なにこれ、魔物!?」

「もどれ」


 驚く少年少女を横目にすうはすぐさま剣を戻す。そしていつもの剣の形にして、横へと剣を突き出した。


「ギョッ……」


 小川から槍のように突撃してきたすうの頭ほどの魚が貫かれ、びくんと跳ねる。

 ただそれ以上は抵抗してこない。死んだようだ。


「おわ、り」


 すうは肩の力を抜く。

 少年少女は呆然としているが、大した怪我もないようだ。


 ただ池に落ちた少女は呆然としたまま沈んでいっているのだが。


「たすけない、の?」

「え? あっ!」


 放っておいてもいいのだろうか、と指させば慌てて皆で引き上げにいった。

 三人もいるし、魔物も近くにはいない。手助けはいらないだろうと判断し、すうは【異形器グロテスク】へと目をやる。


「へんかも、つかえる」


 【異形器グロテスク】が変化するのは武器だけではない。

 異形トカゲがそうしていたように、様々な魔物の部位を再現し、組み合わせることもできる。

 とはいえこちらは変幻自在とはいかず、二階層の魔物に限るのだが。


 それでも便利だし、変化速度も【雑器バスタード】とは比にならない。


「ただ……」


 すうは眉を寄せる。


 そう、いいことばかりでもないのだ。

 【異形器グロテスク】は【雑器バスタード】より燃費が悪いらしい。


 変化時間が短いと、鑑定してくれた管理施設の職員には言われた。

 様々な機能がついているからだろうと言われたが……魔素を感じるすうにはその理由がわかる。


 【異形器グロテスク】は不安定なのだ。

 起動していない時でも魔素が常にわずかに漏れている。【隠れ蓑ハイド・コート】にそんなことはないのに、だ。

 普通の【雑器バスタード】は変化させた後に魔素を消費しないという。


「ねんぴ、わるい」

『ぎゃ?』


 ギャーへと目をやれば、わかっていなさそうに首を傾げている。

 この召喚獣も魔素の消費に関係しているというのに。


 普通、召喚獣を呼び出すかどうかは使用者が決められるらしい。だがこいつはつけた瞬間に必ず出てくるし、それなりの魔素を使い続ける。

 数十分変化させているだけで、ダンジョンの中でも魔素を賄えなくなり使えなくなるのだ。


 普通に扱おうとしたら多くの魔石を常に携帯していないといけない。職員にそう言われた時は「こいつやっぱりひじょうしょく」とギャーを食べようとしたほどだ。召喚獣が倒されると復活するためにさらに魔素を消費すると言われてとどまったが。

 しかも一応名前を付けたとはいえ、ギャーが何の役に立つのかは結局わかっていない。


 とはいえ燃費の問題はもう一つの機能・・・・・・・が判明したことで解決している、のだが。


「げほっ、あ、あの」

「む?」


 考えこんでいると、池から引き揚げられた少女がすうを見上げていた。鼻や口から水を吐いているが命に別状はなさそうだ。


「た、たすけてくれて、ありがとうござ——ひっ!? きゃああああ!?」


 お礼の途中で少女が悲鳴をあげた。


「どうした!? また魔物——うわっ!?」

「ひえっ」

「ひゃああ!?」


 他の三人もまた後ずさった。

 彼ら全員の目はすうの右腕に注がれている。


「あー、おちつい、て」


 言いつつ、すうは複雑な目で右手の【異形器グロテスク】を見る。


 右手から伸びた剣は、今、柄の近くから切っ先の中心まで真っ二つに割れていた。

 そして割れた部分から鋭い牙がいくつも生えて、まるで口のように——いや、それは本当に口だった。


 剣そのものが口になり、バリバリとさっき貫いた魚を噛み砕いているのだ。

 根本あたりには爬虫類の目がぎょろりと開いて、まるで右腕に化け物が宿っているようにも見える。


 そして魚を飲み込めば、次は溶けかけているカニへとその体を伸ばし、喰らっていく。


 その度に【異形器グロテスク】には消費した魔素が少しずつ満ちていくのを感じ取っていた。


 これが【異形器グロテスク】のもう一つの効果。

 魔物を喰らい——魔素を回復する。


 魔石が無くとも魔物さえ食べていれば消費は考えなくていいのだ。

 その効果が判明した時、確かに自分に合うとすうは考えた。


 問題はこの見た目だ。


「うわっ、めっちゃ食べてる……」

「あれ、魔道具、でいいのよね……?」

「変身した魔物とかじゃ……ない、よね?」


 そう、今のすうの右手はほぼ魔物なのだ。

 初めて発動した時も、近くを通った探索者から魔物扱いされた。なんなら小兵からも魔物じゃんと言われた。


 その度にすうは心臓が跳ねる思いになる。

 指をさされた魔物だと言われたら、自分のことがバレたのかと感じるのだ! 【異形器グロテスク】のことだとわかっていても反応せずにはいられないのだ!


 なんなら生物系の変化もあまり使いたくない。

 使い勝手は素晴らしいのに最悪のストレスも一緒についてくる。【異形器グロテスク】は妙な方向に厄介な魔道具だった。



「はぁ……」


 ため息をつきつつ、さっさとこの場を離れようと【異形器グロテスク】を腕輪にまで戻すすう。


「あ、あの……」


 だがその時、最初に悲鳴を上げた少女がおそるおそる近寄ってくる。

 そして意を決したように、こう言った。


「あなたは、先生——使間しまさんが派遣してくれた人ですか?」


 少女の目は、希望を見つけたように輝いて……だが、どこかへばりつく泥のような淀みがあった。


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