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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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五十三話 すう、バスで酔う

 万全の準備をしてすうは試験の日を迎えた。


 元から二階層を蹂躙するだけの実力を持ち、武器となる魔道具も手にいれ、防具や消耗品を揃え、油断もない。

 これが特例探索者だというのは何かの詐欺だと小兵に評されたほどの備え。

 朝ごはんもしっかり味わって食べて合格を遮るものなど天から隕石が降ってくることでもなければありえない。


 自身も最高の状態であると自負し、必ず合格すると意気込んでいたすうは——。


「うぼぁー……」


 現在、車酔いになっていた。


 試験の場所である『水族館』には現地集合、現地解散。

 つまり自分でその場所に行かなければならないのだ。


 しかしすうは場所を知らないし地図の読み方もわからない。同行者に連れて行ってもらう者もいるようだが……。


『ごめん、今日は用事あってついていけないんだ』


 小兵から本気で申し訳なさそうに謝られ、その手も取れなくなった。


 結果、すうは試験中にだけ出る特例探索者用バスに乗っていくことになったのだ。


 最初はまだよかった。異形トカゲ並みに大きな金属の塊へ乗り込むのを警戒したぐらいで、後は流れゆく景色の珍しさにすうは見入っていた。


 しかしバスが通るのはダンジョンへの道。すなわち壊れたままろくに整備されていない悪路である。

 でこぼこの道でバス内はがたんごとんと揺れまくり、乗り物に慣れていないすうはやがてぐったりと窓へもたれることとなった。


「ぬぁー……」


 再びガタンという音と共に体が大きく揺れ、反射的にすうは口をおさえる。

 振動で胃から食べたものがこみ上げてきそうになった。吐くことだけは許してはならないと、すうは強引にそれを飲み込む。


「さ、さい、あく」


 儚く見えるほどにその顔は白い。とはいえ探索者としてすうは相当な耐久力を持っている。車酔いだけでこうはならない。


 問題はもう一つある。

 バスには他にもたくさん特例探索者が乗っているということだ。

 すうは人の集まる場所が苦手で、そのうえ。


「ヘイ、生きてるか?」


 こうして話しかけられるのだ。


 横に座っている少年はすうの目の前で手を振ってくる。その動きがうっとうしく、払いのけながら横目に睨んだ。


「おいおい、なんだよ。俺達は心配してるんだぜ? この『黒炎こくえん』のシュンがさ……」

「ふっ、探索者が車酔いなんて聞いたことないな。なんならこの『紫電しでん』のアキラが背中をさすろうか?」

「これから試験だってのに、体調管理は大事だよ? そう、この『地神ちしん』スクラのようにね!」


 少年の横にいるもう二人の仲間が聞いてもいない名前を名乗ってくる。少年たちは隣に来てからずっとこうやって話しかけてきていた。

 すうは押しの強い人間も苦手だ。

 何度も断ったし、静かにしろとも言ったが彼らはそのうち忘れたように口を開く。


 しかも話し方がいちいちもったいぶっていてなんかムカつくのだ。黒炎とか紫電ってどういう意味だ。あと最後の地神を名乗る奴が特に凄くムカつく。


 慣れない車酔いと、苦手な人間と隣り合う状況。

 すうは既にグロッキーとなっていた。


「ぬぅ……」


 ちらりと他の席を見る。

 他の特例探索者たちは別に周りと話したりしていない。仲間同士で何か確認し合うことがあるぐらいだ。

 ひそひそと話す声があちこちからとぎれとぎれに聞こえてくる。


「……ってるけ……、やっぱり怖……」

「でも、……に迷惑が……」

「……探索者……、なりたくない……」

「……そこから、でられ……」


 なりたくないとまで言うなら来なければよかったのでは、とすうは思う。

 しかし凛たちの事情を思い出してその感想を心の奥にしまい込んだ。『先生への恩』という言葉も聞こえたし、事情があるのだろう。


 と、このように車内の空気は全体的に重いといえた。

 なぜ自分の隣はこれ・・なのか。


「おっと勝手にグミを取っていくのは反則だぜ?」「隙だらけなのが悪いだろう? ……いつの間にオレのすげえ棒が無くなった!?」「獲物を狙っている時が一番油断しているのさ」「こいつは一本取られたな。棒だけに!」

「「「はっはっは!!」」」


「……」


 すうはそっと耳を手で閉じ、窓の外へ目を向ける。彼らが食べているおやつからはいい匂いがするが、見ているとあのノリに巻き込まれそうなのが嫌だった。


 外にはバスの天井より遥か高いところにある、高架と呼ばれる巨大な建築物が見えていた。

 昔はあの上を大量の車が通っていたらしい。


 だが今はボロボロに破壊されている。

 高架よりさらに大きなものが通り抜けたかのように、半ばからへし折れていたり、上から潰されたりしていた。あれをやったのがもし魔物なら、それはすうでも見たことがないぐらい巨大なのだろう。


 小兵はそんなものと戦ったのだろうか。

 なんとなく拳を握りしめながら見ていると、ちょうど高架が下の道路に合流し、そびえ立っていた柱が無くなった。


 そして道路の向こうが開け始める。

 すうの目に映るのは倒壊した建物の跡と、その向こうに大きく陥没した砂浜。

 そして、どこまでも広がる青黒い湖——いや、海。


 ここは神戸市須磨区。

 ダンジョンから溢れ出た魔物によって破壊され、今は崩壊圏ほうかいけんと呼ばれている地区。


 そして、すうたちの目的地もすぐに現れた。

 この荒れた地の中で、綺麗に整備された、砂浜を隠すほどの大きな建物群。

 研究所だという二つの巨大な建物と、それらに挟まれるようにして特徴的な三角の屋根を持つ管理施設が建っていた。


 今回の試験が行われる神戸市須磨区ダンジョン。

 わずか一年半前に現れ、その内部の様子から、『迷宮災害』以前にここに在った施設と同じ名で呼ばれるようになった——。


 通称、『水族館』。


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