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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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五十二話 すう、夢を見る

 気づけばすうは背の高い草に囲まれていた。


「……?」


 疑問を覚えて辺りを見回そうとし、気づく。

 顔を動かさなくとも周囲全ての状況をすうは把握できていた。草が風に揺られる振動も、体の下側に感じる土の臭いも、すぐ横を通った虫の姿も。


 ただ全身でそれらを感じながらも視界は寝起きのようにぼやけている。

 その感覚をすうは知っている。自分がスライムだった時のものと同じ。


 いや、今すうの体はスライムに戻っていた。


「……」


 しかしすうは焦りも驚愕もなく、のそのそと草の下を這う。


 ——ゆめ?


 水の中を揺蕩うような曖昧な意識の中、ただまっすぐにすうは進んでいく。何かを求めるように。

 やがて、目前の地面に現れたものの前ですうは止まった。


 小さいが、真っ暗な、穴。


 小動物の巣に似たそれへ、すうはゆっくりと近づく。周りの土はふかふかなのに、穴の端は干からびていてすうの体が触れるとボロリと崩れた。


「……」


 すうはその穴の中へそっと進んでいく。何を考えているのか自分でもわからないが、入らないといけない気がした。

 ただその時、後ろからいきなりがさがさと草をかきわける音が響いて。


『ぎゃっ』


 短い鳴き声にすうははっと目を覚ました。




 いつも通りの真っ白な天井がそこにあった。


「……?」


 夢を、見ていた気がする。

 ただ内容は思い出せない。夢とはそういうものらしいが変に気になってしまう。


 ぼやけた目をこすりつつ、すうは壁にかけられた時計を見上げた。もう朝だ。

 そして同時に気づく。


「あれ? コンビニ、いたの、に?」


 すうの意識はコンビニの前で、小兵に背負われたところあたりで途切れている。

 だがここは検査施設の部屋。しかもベッドの上で、ふとんまでかけられていた。あとついでにドアも直っている。


 どうやらあのまま小兵が運んでくれたらしい。


「……むぅ」


 つまり背負われたまま戻ってきたということだ。その光景を想像するとちょっと頬が熱くなる。

 すうは頬をぎゅっと引っ張り、むずがゆさを振り払うように今日の予定に意識をやった。


「ぼうぐ、と、ポーション。あと、たべもの」


 装備や道具、そしてなにより食べ物の重要さは異形トカゲとの戦いで痛感した。

 それらを買いそろえておかなければいけない。


「そういえば……じがみ、も、いってた」


 道具等をそろえるのが大事だと語っていた地神(じがみ)。

 同時に『キミは落ちる』と言われたことも思い出し、すうは首をぶんと振った。


「はなし、はんぶん」


 小兵の言葉を反芻し、気を取り直して予定を確認する。


「まどうぐ、も」


【隠れ蓑】や【雑器】もどきの性能を把握しておかないといけない。

 ダンジョンへもぐって使い心地を確かめなければ。


 結構やることは多かった。今日のうちにこなさなければ、とすうはベッドから起き上がる。


 試験はもう明日だ。


「……りん」


 試験の結果で勝負をしている少女を脳内に浮かべ、すうは昨日の話を思い出す。


 児童養護施設で酷い扱いを受けているらしい凛たち。

 彼女たちはダンジョン課にも相談し、相手にされなかったようなことを言っていた。


「まつのき、さん。しってるか、な?」


 なんとなく気になり、すうは松ノ木が来たら聞いてみることにした。


 しかししばらく待っても松ノ木は来ない。

 もう朝ごはんも食べた後なのに。病院にいた時はほぼ毎日来ていたはずなのだが。


「んー?」


 というか昨日も会っていなかった。すうは眉を寄せる。

 小兵に連れられてだいぶ早い時間に検査施設を出たからだろうか。しかしすれ違うことすらなかったような。


 疑問に思っていると、ドアがノックされてすぐ開かれた。

 顔を出したのは松ノ木——ではなく、小兵だ。


「すうちゃん、おはよう」

「お、おはよ、う」


 ぎこちないながらも挨拶を返す。

 いきなり小兵が出てくるのももう何度目か。すうも慣れつつあった。なぜか小兵はちょっと残念そうだが。


「今日はたしか防具や消耗品を買うんだったよな? 迎えにきたぞ」

「ありが、とう……まつのきさん、は?」

「んー、仕事が忙しいらしくてな。今日は来れないんだと」


 きょろ、と目を違うところへやる小兵。

 おかしな様子にすうが口を開こうとすると、さっと隣まで来て頭に手を乗せられた。そのままぐらぐら揺らされる。


「なんだ? 寂しいのか? よしよし」

「ぬあぁぁ!? ちがちっちが、う! きのうの、ことっ、ききたかった、だけ!」


 ぱっと手が離された。ぐらぐらする頭を押さえすうはうずくまる。


「ふぐぅ……!」

「あー、あの子たちのことか。……大丈夫、心配いらない」


 妙に確信のこもった断言だった。


「ま、すうちゃんは試験に集中しようか」

「あ、うん」

「合格できないとか言って来た地神を見返してやろう。ついでに試験の後はボコボコにしてやろうな!」

「いや、むり」


 歯を剥きだしにして親指を立てる小兵へすうは首を横に振った。

 見返すまではともかくボコボコにはできる気がしない。なぜか小兵は威圧感が漏れ出す程拳を握り込んでいるが。


「あの野郎、わかりにくい忠告しやがって」

「なんの、はな、し?」

「気にするな。それじゃ行こうか」


 小兵はすうの頭にぽんと手を乗せ、部屋を出て行こうとする。

 だがドアに手をかけたところで思い出したように振り返った。


「そうだ。試験中にダンジョン内で探索者と争うことがあったら、前に教えた通りにやるんだぞ」

「……なぐる?」

「そう」


 凛たちとのファーストコンタクトでそれは失敗したはずなのだが。

 そもそも試験の中で凛たちと殴り合おうなどと、さすがにすうも考えていない。


「やらない、けど」

「まあ万が一の時にはって話だ……ああ、もちろん一番重要なのは生きて帰ることだからな」

「ん」


 それには素直に頷いて、すうは小兵と外へ出た。

 そして防具やポーションの知識を教えられながら購入し、『神迷』で魔道具ともども試しをして、その日は終わり。


 翌日。

 試験の日がやってきた。


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