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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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四十九話 すう、カップラーメンを食べる

 すうたちは出入場管理施設から出て伸びをしていた。


「ようや、く……」

「思ったよりもかなり早く終わったな」


 疲れた顔でへたりと力を抜いたすうに比べ、小兵は首を傾げている。


 小兵の言う通り話は長引かなかった。

 ダンジョンの管理員だという人間に、隠し部屋を発見した時の状況や異形トカゲとの戦闘をしっかりと話したぐらいだ。

 そしてすうが語り終えた時点で話は終わり、また後日連絡されるらしい。


 腕輪もその時に預けた。向こうで鑑定もしてくれる上に、ドロップアイテムの調査として行うためお金はかからないと言われている。

 それらのやり取りを含めても、かかった時間は十分にも満たない。


「なのになんですうちゃんはそんなに疲れてるんだ?」

「こひょう、が、おそい、から」


 体をだらりと下げたまま、すうはジト目を小兵に向ける。


 話が早く済んで意気揚々と二人は個室を出ようとした。だが小兵だけ呼び止められて部屋の中に残ったのだ。

 結果すうは一人で探索者たちの行き来する施設で待つことになってしまった。


 すうは人間の群れが苦手だ。

 しかも相手は魔物を相手にする探索者である。そんな者たちが集まる広い待合室の中でずっと佇んでいたのだ。

 話しが長引いているのか小兵はなかなか戻ってこなくて、回復したはずのすうの疲労は再び重くなっていた。


「じろじろ、みられる、し……なんか、しせん、するどい、し……」

「あー。たぶん隠し部屋の発見者として噂になってるんだろうな」


 小兵が苦笑している。

 そういえば『隠し部屋』『特例の子が?』という呟きが多かった気がする。

これからずっとあんな感じになるのだろうか。すうはうんざりした気分になる。


「そう嫌そうにしなくても。一応も一緒にいたから、すうちゃんだけが注目されるってこともないだろう。手柄の横取りみたいになるが」

「そっちの、ほうが、いい」


 報奨金は欲しいが注目はいらない。すうの態度に小兵はやはり苦笑しつつ、ぽつりと呟いた。


「……そろそろ隠し切れなくなってきたな……」

「ん?」

「いやなんでも。それじゃあカップラーメン買いに行こうか」

「おお!」


 すうたちは前に行ったコンビニへと急ぐ。




「いらっしゃいませー」


 さすがにバイトさんがまた現れることはなかった。気だるそうな声を聞きながら、カップラーメンの棚へ。


 棚には前と変わらず様々な種類のカップラーメンがぎっしりだ。

 パッケージに描かれている中身はどれも魅力的で、すうは真剣にそれらを見つめる。


「どれに、しよう」

「全種類買えばいいじゃないか」


 そんなすうの横ではどさどさとかごにカップラーメンを入れていく小兵の姿。


「……おおぐい」

「いや全部この場で食べたりしないわ。というかすうちゃんもこれぐらい買えるだろう。お金あるんだし」

「おかね、は、とっときたい、から」

「うん?」


 とは言いつつも、かごの中に積み重なったカップラーメンを見ているとあまり悩んでいるのもバカらしくなってきた。

 すうはこれと決めたものを一つ選ぶ。


 それは白地のカップに赤い文字で『ヌードル』と書かれたシンプルなデザインだった。


「一番王道なやつだな」


 笑う小兵にと共に前と同じく外へ出る。


「いただき、ます」


 そして待ちきれず、すうは包装を剥がして一気にふたを開けた。

 しかしその中身を見て疑問を浮かべる。


「……かたそ、う?」


 カップラーメンの中身はかちかちに固まった何かしかない。

 すうが期待していたのは他のカップにも描かれていた躍動する麺だ。一応よく観察すれば麺っぽく見えなくもないが、明らかに違う。


 困惑していると隣から小さく笑い声が聞こえてきて、すうはジト目になりつつそちらへと目を向ける。

 自分の分を開けつつ小兵がにこにこしていた。


「せつめい」


 もうからかうような顔にも慣れたすうが端的に言えば、小兵は笑いつつ口を開く。


「カップ麵はお湯を入れて食べるものなんだよ。あとふたを剥がし切ってもいけない」


 すうは自分の手元に目を落とす。そこには完全にふたの剥がれたカップラーメンが。


「さきに、いって……!」

「いや一応作り方はふたとかカップに書いてあるからさ。気づくかなーと思って見ててな? 大丈夫、ふたは輪ゴムとかで押さえればいいから」

「でも、おゆ、もない」

「そっちも大丈夫。入れてきてる」


 笑みをおさえきれていない小兵の手にはいつの間にかポットが握られていた。


「え、いつ……」

「気をつけろ。お湯入れるぞ」

「あ、うん」


 ポットから熱湯が注がれていき、ふたを輪ゴムで止めて、としている間に小兵の手からポットは消えていた。

 一体どういう原理なのか。

 気にはなるものの、まあ小兵だしとなかば理解を投げ捨ててカップラーメンへと目を戻す。


「これで、たべられ、る?」

「いやこのまま三分待つ」

「……さんぷん、って、どれぐら、い?」

「これぐらい」


 小兵が携帯を差し出してきた。三分のタイマーが少しずつ減っていくのが映し出されている。


「ながい……!」


 十秒ほど経ったあたりですうは呻き声をあげる。

 もうふたの下からいい匂いが漂ってきているというのに、まだ待たなければいけないのか。


「待つだけの三分ってめちゃくちゃ長いよな。普段はあっという間なのに」


 余裕そうな小兵を睨んだり、割りばしというものの使い方を教えられたり、時々奇妙な声を上げたりしつつ。

 やがて三分。


 携帯のアラームが鳴ると同時、すぐさま輪ゴムを外してすうはふたを開ける。

 その途端、しょうゆに似た濃い香りが湯気と共に立ち上ってきた。


「おお……!」


 中にはさっきの塊はどこへやら、透明感のある茶色のスープの中に、ふわっと麺が広がっていた。

 すうはカップを持ちつつ改めて手を合わせた。


「いただき、ます」


 割りばしをパキッと割る。持ち手が偏って不格好になったが、それはどうでもいい。

 すうはカップへと突っ込んで柔らかそうな麺をそっと掴み、持ち上げた。

 細く波打つ麺が一気に引き上げられる。


「……!」


 すうは麺へと食いつき、思い切りすすった。

 ずーっと唇をくすぐりながら細い麺は一気に口の中へ入ってくる。熱湯による熱さは探索者の頑丈さでねじ伏せ、歯切れのいい麺をすうは味わった。


 ビリビリ舌に響くような味付けの濃さだ。抜けていく風味もはっきりと強く、鼻に残った魔物の肉の生臭さを洗い流していく。

 すぐに噛み切れる麺を何度も何度も嚙みしめ、堪能し、飲み込んだ。

 喉を過ぎた後も、口の中に暖かな香り。


「はー……」


 じんと残る熱にすうは長く息をはいた。


 今日の朝からずっと食べていなかったごはんが体に、心に、染みわたる。


「おい、しい」


 垂れてきた鼻水をすすりつつ、すうは食べるのを再開した。

 次は具だ。小さなブロック状の肉はこりこりしておいしい。ただどんな肉なのかはわからない。ひき肉に近いとは思うのだが。

 たまごは溶けるように口の中から消えた。強い塩味の中に甘さがある。

 そしてえびに、ねぎに、どの具も麺や汁と合っていてお互いを引き立てていた。


 夢中で食べて、食べて。

 やがてカップを逆さに汁までぐいと飲み干した。


 息をついて、すうは手を合わせる。



「ごちそうさま、でした」



 やはり魔物の肉とは違う。あれは空腹が限界に達した時の最終手段なのだ。

 口の端を舐め、目を閉じて余韻に浸るすう。


「やっぱりドロップアイテム集めようとすると荷物が増えるわね」

「もう少し『水族館』の魔物を調べましょうか」

「そうする」


 だがふと、聞き覚えのある声が響いてきて目を見開いた。

 するとコンビニへと歩いてくる一団を発見する。


 黒髪、金髪、銀髪の三人の女の子たち。


「ん? げっ」


 向こうもこちらに気づいたようで、真ん中の黒髪——小笠原おがさわらりんが顔をしかめた。


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