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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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四十五話 すう、空腹は最高のスパイス


 異形トカゲの再生力と読めない魔素。

 倒す手段が見つからない相手との命がけの戦いが始まった。


 異形トカゲの攻撃は主に伸縮自在の首と蜘蛛の脚によるものだ。すうが切れないとわかったからか、噛みつきや液体だけでなく首そのものを鞭のように振り回してきて厄介だ。

 蜘蛛の脚は近づいたすうを振り払い、貫くために使われる。何本も生えている脚は異形トカゲの体を支えながら不規則に襲ってきた。

 さらに油断したらまき散らされる粘液にからめとられてしまう。


 そんな相手にすうは必死で抗った。

 逃げられない場所に、すうより足の速い相手。距離を取ることもできず、少しでも狙いを定めさせないため巨体の周りを回るように動き続ける。

 だが魔素の流れが読めない相手に完全な回避は困難だ。責めすぎず決定打をもらわないようにしても腕に、足に、体に傷は増えていく。


 途中からすうは相手の魔素を感じようとするのをやめていた。

 異形トカゲの動きはどうせ読めない。自分の体の動きと周りの地形だけを把握し、まかれた粘液へ引っかからないように注意し続ける。


 それが功を奏したのか、すうは少しずつ異形トカゲとの戦いへ慣れてきた。魔素ではなく動きそのものから次の行動を予測する、というある意味で当たり前の行動をようやく学び始めたのだ。

 さらにもう一つ気づきがあった。


 異形トカゲが生やすパーツは。二階層の魔物のものだけ。

 ムカデに蜘蛛、べたつく粘液はスライム。複雑に組み合わさっているとはいえそれぞれは見慣れた動きで、すうにも対応がしやすい。

 理解してからはすうの方から仕掛けることもできた。攻めに転じる時だけ魔素を読み、切り裂く。そんな技術を身につけ傷を与えられていった。


 しかしそれらは本当に少しずつでしかない。

 巨体に対して有効とはいえず、異形トカゲはどんどん別の魔物の体を生やしていくだけだ。


 一応異形ゆえの弱点もある。

 異形トカゲ自身も生やすパーツは選べないのか、不必要なものができる場合があるのだ。腹の部分に腕が生えて動きづらくなったり、背中に生えた翼でバランスをくずしたり。


 しかし結局読みづらい上に、それが不規則な動きとなって対応しきれない。


 さらに問題がもう一つ。


「おな、か……すいた」


 空腹が限界に達していた。


 最初はむしろ集中力が増していたのだ。空腹を我慢している原因がこいつだと怒りで体を動かすこともできた。

 しかし今、戦い始めてからどれだけ時間が経ったのか。


 剣が上手く握れない。足が震える。

 意識がぼんやりとしてきた。


 すうはようやく実感した。

 人間はおなかが空きすぎると弱る……どころか、死ぬのだと。道理でダンジョン内でわざわざごはんを食べていたわけだ。あれは娯楽ではなかったのだ。

 スライム時代なら空腹を感じても疲れはなく死にもしなかった。いや、厳密には空腹すら感じてはいなかったのだ。飢えていたのはすうだからだろう。


「あさ、たべて……れば」


 美味しく食べたいと思わずに、朝ごはんを食べておけばよかったか。

 だけど味を損ねたくなかった。美味しいのだ。地上のごはんは美味しい。だから美味しく食べたい。


 考えが纏まらない。ぐわんと頭がくらむ。

 ——足がもつれたところに、振り回された首が直撃した。


「……ッ!」


 左腕からみしりという音が響き、胴体にまで貫通した衝撃で息が詰まる。すうは吹き飛ばされ、受け身も取れず地面へと叩きつけられた。


「……」


 左腕が動かない。至るところが痛む。立ち上がれもしない。

 すぐに異形トカゲは迫ってくるだろう。

 ただ、体の痛みより死ぬことへの焦りより。


「……おなかすいた」


 おなかがすいた、ああ、おなかがすいたのだ。

 もはやすうの思考はそれだけに染まっている。他のことはどうでもいい。戦いよりなにより何かを口に入れたいおなかがすいたおなかがすいたおなかがたえられないなにかたべたい。


「な、んでも、いい」


 なにかないか。

 首を辺りへ巡らせたすうは、すぐ横にそれ・・を見つけた。


 ピンク色の断面を晒す、肉。

 最初に斬り飛ばしたトカゲの尻尾だ。


「……」


 すうはなけなしの体力を使って思いっきり顔をしかめた。

 たしかに肉だ。肉ではある。しかしこれがごはんと言えるのか。いや、言えない。最後に口に入れるものがこれでいいのか。


 食べなければ死ぬ。食べても死ぬ。ならせめて食べて死にたい。

 すうは体力を振り絞り、飛びつくようにトカゲの肉へと食いついた。


 噛んだ瞬間に生臭さが口の中を満たす。ぐにぐに硬く血の味が混ざるそれを、えづきながらもどうにか皮ごとぶちりと噛みちぎった。

 そして味わうこともなく咀嚼もそこそこにごくんと飲み干す。


 血の味と生臭さがより増して、じゃりじゃりした土の味に変な苦みが合わさって——。


「……おい、しい?」


 ぱちりと、すうは目を開いた。


 いや美味しくはない。まずい。

 まずいが、想像よりも食べられる。料理の味とは比べるべくもないがマシだ。


 そんなばかな、と尻尾へもう一度食いついたところで。


【gaばrtyggがvu!】


 上手くバランスを取れていないトカゲがどたどたと駆けてきた。首をぎゅんと伸ばし噛みついてくる。


「む……!」


 すうは地面を蹴り、回るように宙へ跳ぶ。トカゲの首は目標を見失い自分のしっぽへと食いついた。

 見開かれた縦割れの瞳は、さっきまで立ち上がれもしなかったすうの動きに驚いているようにも見える。


 だがすうにとって重要なのは、体の軽さより避ける直前に食いちぎった肉だ。

 今度はよく噛んで味わってみる。


 さっきより生臭さがマシだ。皮ごと食べていないからかもしれない。

 土臭さもなく、血と肉の風味がより直接伝わってくる。ただまずいのに変わりはない——いや。


「チキン、と、にてる……きがす、る?」


 よく噛めば、奥からほのかに料理と似た味がくる、気がする。

 すうの頭にコンビニで食べたフライドチキンが蘇った。そして少しでも料理と似た点を見つけると生臭さなんかも気にならなく……やっぱり気になるが、もうちょっとマシだ。

 そうだ。すうは『ダンジョン・カロリーブロック』しか知らなかった時とは違う。色々なごはんを知った。


 その経験が、魔物の肉にも適応されたのかもしれない。


 飲み込む。

 喉を通り、胃へと落ちていく肉の感覚に、空腹が少し落ち着いた。迫ってきた蜘蛛の脚を軽く体を傾けて回避する。


「ちょっと、マシ」


 まだふらつくが、おなかに食べ物が入ったというだけで力がわいてくる。

 さっき感じた美味しさは空腹に由来するのかもしれない。


 舌に響き脳を震わせる美味しさとは違う。

 おなかを満たし身体に染み渡るような感覚。

 それは美味に負けない味わいがあった。


「そういえば、なんか、いってた」


 すうはふとテレビで見た言葉を思い出す。


 ——すなわち『空腹は最高のスパイス』、と。


 人間のごはんならどんなものでも美味しいと、その時は気にも留めていなかったが。


「こういう、こと?」


 まさか魔物の肉にすら適用されることだったとは。すばらしい言葉を開発した人間へとすうは拍手を贈りたかった。


「もっと……」


 空きっ腹に少し食べ物を入れたらもっと食べたくなるものだ。だがさっきの尻尾は異形トカゲ自身が咥えている。もごもごと動かす口は尻尾を食べているのか。


「この……む?」


 自分の食べ物を、と一瞬怒りを抱いたすう。だがすぐにトカゲの姿を見て、気づく。


「なんだ……しょくりょう、いっぱい、ある」


 異形トカゲは異形になったとは言ってもトカゲの部分がまだ多い。

 いやあるいはトカゲ以外にも食べられるものはあるのでは?


 コウモリの翼。薄くて食いちぎりやすそうだ。

 羽虫の羽。食感はシャキシャキしているかもしれない。

 蜘蛛の脚。内側に肉が詰まっているのか?


 ごくりと、すうは喉を鳴らした。


「たべ、ほうだい」


 削っても削っても回復する巨体、しかも新たな部位(食材)が生えてくる。

 食いでがある。


 すうは思わず微笑んだ。

 限界を超えた空腹でなければ、一人でなければ、逃げられなければ、魔物たちの味に気づくことはなかっただろう。


 すうは手を合わせた。

 目の前の全ての食材に感謝を込めて


「いただき、ます」



【……!?】


 そして対面の異形トカゲは異常を感じたように首を引っ込めていた。


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― 新着の感想 ―
ちょっと戦闘しつこくてだれてたが、やっと反撃(お食事)か。 頑張れ、そして勝利の暁には居酒屋の昼ランチで焼き鳥や唐揚げをがっつり食うのじゃ
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