四十三話 すう、巨大トカゲを倒す
ちょっとグロいです
どこにも出口が無く断絶された隠し部屋の巨大円形広場。
その中央に突然湧き出た巨大な魔物へ、すうは剣を構える。
魔物の見た目は、その巨大さ以外は二階層のトカゲと変わらない。
ただその異様な威圧感は三階層のボスを思い出させた。
三階層のボスもまたトカゲの姿。しかし三階層ボスは全身を硬く鋭い鱗で覆っていたのに対し、巨大トカゲはぬるりとした光沢があり丸っこい。
巨大トカゲの肉体が完全に構築されると、縦に割れた瞳がぎょろりとすうへ向く。同時にその巨体がいきなり駆け出した。
『ギギギギ!!』
「む……!」
正面からの突進。すうはすぐさま横へ跳んだ。
一拍置いてすうの横を巨大トカゲが駆け抜けていく。眼がすれ違ったすうを追っているが、体は急に止まれないようだ。
ザリザリ腹を地面へこすりつけながら停止しようとして、そのままずっこけるようにごろんと地面を転がった。
「なに、あれ?」
バタバタもがく巨大トカゲに、追撃しようとしたすうは思わず足を止めた。
巨大トカゲはそのうちようやく起き上がった。もがいている間もその目はすうをロックオンしていて、性懲りもなくまた突進をしてくる。
「……」
そのまま避ければまた通り過ぎてずでんところげる。
だが今度のすうは避けたと同時に走り出して巨大トカゲの背へ追いついていた。
もがく体へ当たらないようにしつつ後ろ足を切りつければ、あっさりと刃が通り深い傷を刻む。
『ギギギギ』
ただあまり効いてはいないのか巨大トカゲの動きは止まらない。聞いたことのない鳴き声を上げ、その場でもがきつつ立ち直り、すうへと噛みついてきた。
しかしすうはすでに後ろへと下がっている。巨大トカゲは何もない場所に食いついただけだ。しかも何度も宙をばくばく食べて、ようやくなにも口へ入っていない事に気がついたのかちょこんと首を傾げている。
その光景にすうもまた首を傾げた。
「……よわい」
威圧感こそボスと同等に感じる。巨体が迫ってくるのも当たれば脅威だ。しかし動き自体はそこらのトカゲと大して変わらない。どころか大きい体を上手く扱えてないせいで鈍くすら感じる。
今もまた突進してきたが、今度は足の傷でバランスを崩してすうへと辿り着くことなく途中で地面へ倒れ込んでいた。
感じる威圧に対してあまりにどんくさい。
体も特に魔素の薄い所を狙ったわけではないのに斬れた。皮が厚い分一気に切れないぐらい。
総じて、弱い。
「なんか、まそ、も、ばらばら、だし」
すうから見れば、どうも巨大トカゲの魔素の流れは濃淡というか強弱がはっきりしすぎなのだ。
うまい事循環していない部分があって、その切れ目ような部分に刃を入れれば簡単に切り落とせるだろう。
「さっさと、たおす」
魔物が弱いのはいいことだ。この魔物を倒せばここから出られるかもしれない。
おなかをさすって、すうはもがきながら立ち上がった巨大トカゲへ追撃をかけにいく。
『ギギギギギ』
後ろから近づいたすうへ、巨大トカゲは薙ぎ払うように尻尾を振り回してきた。初めての効果的な攻撃だ。
「ふんっ」
しかしその抵抗をすうは真正面から受けた。
勢いのついた尻尾へと、両手で構えた剣を押し当てるように振るう。魔素のつぎはぎ部分を狙った刃は分厚い肉を一気に切り飛ばした。
『ゲ、ギッ』
さらにそのまますうは後ろ足の付け根へ剣を突き刺し全力で横に裂く。後ろ足が落ちて機動力が削がれた。
巨大トカゲは全身を波打たせ暴れ出すが、その抵抗も些細なものとすうは体を踏んで一気に首へと駆けた。
だが首を斬り落とそうと剣を振り上げた時、巨大トカゲが身を投げ出すように地面を転がる。
「ふぐっ!」
いきなりの回転。だがぎりぎり魔素の動きからそれを察知していたすうは、巨大トカゲの体を蹴って避難しつつも、剣を振り切った。
手ごたえとともに地面へ着地し、すうは顔を上げる。
『ぎ、ギギ』
少し離れたところで巨大トカゲが呻いていた。
左後ろ足や尻尾の半ばが断ち切られている。最後に斬ったのは右の前足のようだ。そっちもちぎれかけていた。
「これで、さいご」
魔物を殺すのにためらいはないが苦しむのを見ていたいわけでもない。
すうは剣を構えて巨大トカゲの首へ近寄った。
『げぼぁっ』
その瞬間、突如起き上がった巨大トカゲの口から黄みがかかった液体が吐き出された。
すうの全身を飲み込むほどの量が一気に広がり。
「おわり」
最後の抵抗を予想していたすうは、液体が吐き出される直前に巨大トカゲの懐へと飛び込んで射線から外れていた。
そして上から下へ体全体を使って剣を振り下ろし——巨大トカゲの首が落ちる。
びくんと巨体が痙攣し、それを最後に横たわった。
死体へとダンジョンから魔素が集まり始めて少しずつ分解されていく。
「……なんだった、の? これ」
得体のしれない登場の割に強くはなかった。なんなら動きは少し面白かった。
すうは首を傾げつつも、とにかくおなかが空いた。
「これ、たべれたら、いいのに、な」
巨大トカゲを一瞥し、背を向けて離れる。そうしてすうは目を閉じ辺りに意識を向けた。
「どこか、あいてる、ばしょ」
魔物を倒したことで出口が開かれていないか。
魔素の流れからそれを感じ取ろうとすると、一気に動き出した流れがある。
すうの、すぐ後ろに。
「っぐぅ!?」
いきなり膨れ上がる魔素。それを感じて飛びのこうとしたすうの横腹を重い衝撃が殴りつけた。装備と反射的な防御で軽減されているにもかかわらず息が詰まる。
吹き飛ばされ地面を転がるすうは、すぐさま立ち上がり——そして、それを見た。
「げほっ、しんでた、のに……!?」
それは死んだはずの……いや、いまだに死んでいる巨大トカゲの姿。
落ちた首はそのまま、体だけがのそりと起き上がっていた。
首の断面からは血が滴り落ちつつもすうの方を向いている。そして、落とした首もぎょろりとすうをねめつけた。
確かに魔素によって分解され始めていたはず。
それは普通の魔物なら死ぬ時の光景だ。すうは何度もそれを感じてきた。
だが巨大トカゲへと集まった魔素は、分解するどころか巨大トカゲへとへ流れ込んでいる。
まるで倒れることなど許さないかのように。
その光景に得体の知れない執着のようなものを感じ取り、すうはゾッと背筋を震わせる。
震えるすうの前では流れ込んだ魔素のおかげか巨大トカゲのちぎれた足や尻尾が再生していた。
「……ちが、う?」
足も尻尾も、違う。
前足の断面から生えるのは何本もの黒く細い、蜘蛛のような脚。
後ろ足と尻尾からはべたついた粘液がじゅるりと噴き出し体を支えていた。
そして——首の断面からも。
ズボッと肉を突き破って首から何かが生えた。
ムカデ……だがムカデそのものではない。
頭が切り落とされたムカデの胴体だけが、ギチギチと蠢いている。
呆然とするすうの前でムカデの体はずるずると長く伸び、やがて手を伸ばすように、地面に落ちたトカゲの頭の断面へ入り込んでいく。
やがて、頭がぐいと持ち上げられ……生まれたのは、歪に首が長くなったかのようなトカゲ。
いいや。
それはもはや、ただ異形と呼ばれるものだった。
「なに……これ」
【ぎyTくlしtちぎltPぢうぅbAAぁ!!】
異形がわめき叫ぶ。
産声を上げるかのように。




