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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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四十二話 すう、隠し部屋で

 魔素の流れを感じるため過剰な程に集中し、気絶したすう。

 目を覚ました場所は謎の巨大な円形広場だった。


「ここ、どこ……?」


 すうは困惑と共に辺りを見回した。


 二階層は入り組んだ迷路が特徴の洞窟だ。

 ごつごつした岩肌に囲まれ、道の真ん中あたりだけがならされたかのように平らな地形。

 光はどこにもないのに、真っ暗ではなく先が見通せない程度の薄暗さを常に保っている。


 ここも基本は同じ。岩肌に囲まれ、薄暗さで向こう側が見えない。

 だが最も特徴的な入り組んだ迷路がなくひたすらだだっ広いだけだ。

 その割に天井は低い。いや洞窟の時と高さは変わらないのだが、広場の規模に似合わないせいで迫ってくるように思え、むしろ息苦しいのだ。


「ありえ、ない」


 すうは立ち上がってついふらふらと歩く。

 スライム時代に過ごした全てをすうは知っているはずだった。隠し部屋と呼ばれる場所を含めてもだ。


 だがこんなところは見たことが無い。


 歩き続けてもまだ広場の真ん中へはつかない。

 この広さを知らないことがあるのか。


「にかいそう、じゃ、ない?」


 あるいは別の階層なのでは、とすうは考える。

 しかし成長した魔素感知で確かめてみれば、辺りの魔素の濃さは間違いなく二階層のそれ。


 そもそも三階層の特徴は険しい岩山だ。

 山々の上を、間を、落石や魔物に注意しながら進んでいく過酷な道。

 岩山をくりぬいたように作られた隠し部屋もあるが、壁に炎がごうごうと灯っているところばかりだ。こんな湿りけと薄暗さはない。


「つまり……しらない、ばしょ」


 すうは知らなかったが、恐らくこういう場所があったのだ。

 散々二階層で過ごしたすうですら発見できない、得体のしれない場所が。


 すうは今、自分がそんなところにいるとわかって、ぎゅっと胸元を握りしめた。

 その胸に抱くのは焦りか、恐怖か。


「ふぐぅ……!」


 いやそのどちらでもない。

 しいていうなら「胸を掻きむしりたい気分」だろうか。すうの白い頬が熱く赤くなる。その落ち着かない気持ちは——すうは知らないが『羞恥』といった。


「ぜんぶ、しってる、と、おもって、た……!」


 二階層に知らない場所はない。


 そんな自負を持って、なんなら小兵にも豪語していたすう。

 だがまさかこんなにだだっ広い場所を見落としていたとは。その事実がすうにじだんだを踏ませる。


 しかもたしか小兵はこう言っていた。

 「二階層は『踏破』されている」と。

 つまりすうが知らなかったこの場所を、小兵たち探索者はおそらく知っているのだ。


 自慢げな顔をしている時にここを教えられていたら、ちょっとダンジョンに行くのが嫌になっていたかもしれない。一人の時でよかった。


「ふぐぐ……で、でも」


 感情を誤魔化すようにすうは別の方に思考を逸らす。


「なんで、こんなとこ、に?」


 自分はどうしてこんなところにいるのか。


 ついさっきまで、すうは空腹と魔力感知へ意識を割きすぎたことが合わさり、気絶していた。動ける時間はなかったはず。


「……でも、わたしなら、うごく、かも」


 すうは食欲が絡むと自分が暴走することを知っている。

他の探索者のごはんの匂いをかぎつけて、空腹で無理矢理這いまわった可能性も普通にあるのだ。

 というかスライム時代に探索者を襲いそうになったことが何度か……いや実際に襲ってはいないが。


「あ……おなか、すいた」


 そうだ。衝撃やら羞恥やらで一瞬忘れていたが、すうはおなかが空いていたのだ。

 ここが知らない場所であろうと知ったことではない。


 脱出してごはんを食べる。すうの目的はそれだけだ。


「ここ、たぶん、かくしべや、だよ、ね?」


 すうは後ろを振り返った。

 はるか遠くにあるのが今まで自分がいた場所だ。その先には壁があった。

 ちょうど壁に足を向けて倒れていたらしい。

 ここが隠し部屋だとすれば、おそらくその近くから入ってきたのだとは思うが。


「……いりぐち、ない」


 すうは唇を尖らせた。


 隠し部屋にはたまにそういうことがある。

 入ってきた場所が閉じて魔物を倒さないと開かなくなったり、あるいは別の場所まで行かなければならなかったり。


 ここもそういう感じなのだろう。

 普段なら、向こう側が見えないほど広いこの隠し部屋を探索しなければいけないところだ。


 だが今のすうにそんな手間は必要ない。


「まそで、さがそう」


 さきほど習得した魔素の流れを感知する技術なら、どこが出口につながっているかはすぐにわかる。


「べんり」


 しいていうならまだ意識を集中しなければできないのが欠点だろうか。

 すうは目を閉じた。


 さっきまでと同じく膨大な流れを感じ取る。

 隠し部屋だからか広場の中で循環しているものが多かった。その中から外へと続く流れを探して……探し……。


「?」


 ない。

 外に続く流れがどこにも。


 すうは眉を寄せた。どれだけ感じようとしてもこの部屋はどこにもつながっていない・・・・・・・・


「おか、しい」


 ぐうとおなかが鳴った。

 空腹が背を押して、少しの焦りと共にさらに集中を深める。

 しかしやはり道が見つからない。


 隠し部屋は隠されているだけで断絶されているわけではない、はず。

 だがここは、この広場だけで魔素が完結している。

 その外側に一応二階層のものらしき魔素は感じるのだが、出口がない。


 すうは困惑する。

 が、困惑は一瞬だった。


「……ぶっ、こわす」


 出られないとごはんが食べられない。

 出口がなければ作ればいいのだ。


 幸い魔素の薄そうな壁は見つかった。ちょうどすうが倒れていた近くだ。剣でも手でも掘っていけばそのうち二階層へ出るだろう。


 そうして踵を返そうとした時。


 感知していた魔素の流れがいきなり変化した。


「!」


 隠し部屋の中ではなく、外。

 外から色々な魔素がこちらに流れ込んできている。


 だがどこかに道が開いたようには感じない。壁を貫通するような動き。


「これ……まもの、の」


 魔素が変な動きをするときは大体、倒された魔物を吸収した時だ。

 吸収された魔素があらゆる所からどんどん集中してくる。


 壁を、床を通り、向かう先は広場の真ん中だ。


 広場の中心に集まった魔素が凝縮されて渦を巻くように立ち上っていく。

 あまりに力強い流れが——やがて肉体を構築していく。


 すうはその光景を知っていた。


「まものが、わく、とき」


 それは魔物が出現する光景、俗にポップとも呼ばれる現象。

 魔素を感じながら走るすうは、何度かその状況を感知したことがある。


 だが、今回の魔物は。


「でか、い……!」


 そこらの魔物と比べて、そいつ・・・に集まった魔素は圧倒的に大きかった。

 すうは既にその場から離れ剣を抜いている。

 想起するのはスライム時代に感じた威圧、三階層ボスのそれ。


「かくしべや、の、まもの」


 すうは小兵の言葉を思い出していた。

 隠し部屋には様々なものが出る。


 宝箱が出る当たりと——強い魔物が出るはずれ。



『ギギギ……」


 やがて現れたのは、二階層のトカゲ、ホームガードをすうの十数倍も巨大にしたようなもの。

 ただ異様な威圧感は、それがただ大きくなっただけではないと示していた。


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