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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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四十話 すう、二階層攻略(目隠し)

 武器屋を出て、すうたちは『神迷』二階層へと降りていた。


「わたしだけ、で、もぐり、たい」


 薄暗く広大な洞窟に入ると同時、すうは小兵へとそう提案した。


「すうちゃんだけでか? 実力的には問題ないが……」


 同行者は基本的に特例探索者と一緒にいなければならない。

 だが凛たちが同行者から離れて探索していたように、ある程度の裁量は認められている。


「でも今日はお金を稼ぐんじゃないのか? そりゃ基本的に私は手出ししないけど、それでも放置はできないし離れる時間に制限もつけるぞ?」

「ひとりで、こうどうする、のに、なれたい」


 不思議そうな小兵へすうはそう説明する。


 実際には、魔素感知の練習のためだった。

 すうがこれから行うのは、ダンジョンを構成する魔素の流れから階段のある場所を見つけられないか試す、というもの。

 だがどうも魔素を感じるのは普通の人間だとできないらしい。


 不自然な動きをするかもしれないし、小兵に不審がられると困る。

 小兵のでたらめ具合だと魔素を感じられると言っても受け入れられそうではあるのだが。


 ただ小兵は魔物の討伐を重要視している。

 もしもバレたらきっとすうを討伐しに来るのだろう。

 ……そのことに、すうはなんとなくもやっとしたものを覚える。


 いや、もやっととは違う、むずがゆさとも違う。ちょっと胸が痛いような。


「まあ本番でいきなり問題が発覚しても困るしな。いいだろう」


 考えこんでいるところに返事が来てすうは思考を振り払って顔をあげる。


「——ただ」

「む?」


 するとずいっと小兵がしかめっ面で詰めよってきた。


「まさか三階層にこっそり降りて荒稼ぎ、とか考えてないよな?」

「……なんの、ことやら?」

「なぜ目をそらす」


 すうが行うのは魔素感知の練習だけである。特例探索者は三階に降りてはいけないのだから、そんなことをするはずがない。

 ちょっと考えただけだ。


「一応言うけど、ライセンスを持ったまま魔物を倒したら三階層にいたことはすぐにばれるからな?」

「わかって、る」


 でも昔見つけた魔道具を持って帰ってくるだけなら大丈夫だよね? とかそんなことを考える悪党がいるなんてまさかそんなふはは。


「……怪しいから三階層の入り口まで一緒に行こう。私はそこで待ってるから、そうだな。二時間だ。二時間の間に帰ってくること」

「ん」


 すうは物分かりよく(見えるように)頷いた。




 すうたちは二階層を一気に走り、三階層の階段の前まで来た。


 三階層への階段は大穴だ。

 すうの身長の十数倍はある巨大な穴の下に、曲がりくねった階段がずっと続いている。そこを降りていく探索者たちの姿がちらほらとあった。


 久しぶりに見る光景を背にしてすうは小兵から注意を受けている。


「一番気をつけるべきは探索者同士でのやり取りだ。前も言ったが無暗に助けたり、獲物を奪ったりしないようにな」

「わかった」

「じゃあ、いってらっしゃい」


 そういって送り出され、すうは駆けた。

 体力が続く程度の軽い駆け足で、魔物をいつも通り狩っていく。不自然に見えないように、ついでに少し稼ぐため、探索者と戦っていない限り目についた魔物は根こそぎ潰す。



 やがて小兵でもすうの状況を把握することはできないだろう、というほどに離れたころ。


「やろう」


 すうは一言呟いて、おもむろに目を閉じた。

 そして魔素へと意識を集中する。


 すると輝くかのような力の奔流が全身で感じ取れた。

 普段は魔物だけに狙いを絞っているが、やはりダンジョンの魔素は恐ろしく膨大だ。


 魔物を巨大にしたかのような存在感でありながら、小兵や地神のような圧力はなく、包み込まれるような気分になる。


「……ながれ、しゅうちゅう」


 だが今回は雄大さを感じに来たわけではない。

 すうは圧倒的な流れに意識を向けた。

 それがどこから来て、どこへ向かっているのか。そして濃さや薄さはあるのか。


 ダンジョンの中では空気にすら魔素が濃密に含まれている。

 しかし集中していると、その中の違いがくっきりとわかりはじめた。


「かべの、ほうが、こい」


 ダンジョンは全て魔素で構成されている。

 だが壁の魔素は、物体としてあるからなのか。空気中に漂う魔素よりずっと濃かった。

 そしてそうと理解できれば一気に感じ方は違ってくる。


「わかる」


 すうは目を閉じながらにして、壁や床などの輪郭を捉え始めた。

 そしてそのまま、そっと一歩を踏み出してみる。


 一歩を踏み出せば、二歩、三歩とすたすた歩く。

 そしていきなりぴたりと止まる。

 手を伸ばせばとがった岩へと触れた。このまま歩いていたらぶつかっただろう。


 だがすうには距離感も存在もしっかりと把握できた。


「いける」


 魔素の濃さや薄さは区別できる。

 後はそこから、どちらが浅い層へ続く道で、どちらが深い層へ続く道なのか。判別するだけだ。


「……でも、ちょっと、しんど、い?」


 ただ、それを感じるのには苦戦しそうだった。

 輪郭はすぐにわかる。だが流れを掴むとなると……魔素があまりに莫大すぎた。

 渦巻く水へ飛び込んだような感覚である。全体が同じ方へ流れているわけでもなく、あまり集中しすぎるとむしろ方向感覚を失いそうだ。


「とりあえず、れんしゅう」


 くらりとくらみそうになる頭を振り、すうは目をつむったまま歩き出した。


「このまま、たんさく」


 すうが視界を塞いだのは魔素の感知に集中するためと、もう一つ。

 初めてのダンジョンを攻略するような気持ちで挑むためだ。


 『神迷』の二階層は、すうにとって最も慣れ親しんだ場所といっていい。

 それこそ道を見ただけでどこにいるのかわかってしまう。それではいけない。


 試験では初見のダンジョンの中、魔素を感じて次の層の階段を見つけなければいけないのだから。


「……でも、いがいと、らく?」


 気合を入れて歩いていたすうだが、ついそう呟く。


 なにせ普通に歩く分にはもはや道が見えているようなものだ。

 少なくとも壁にぶつかる心配はない。どころか感知できる範囲も少しずつ広がってきている。


 もしかしたらこの状態でも自分がどの位置にいるかわかってしまうかもしれない。


「こまる」


 と、その時だ。

 すうの耳がぎち、という僅かな音を捉えた。


 それがなんなのか。一瞬わからず首を傾げ。


「っっ!!?」


 次の瞬間、すうは剣を抜き放ち上へと突き出す。少し遅れて目をカッと見開いた。


 ——目の前には、剣に貫かれてがちがちと牙を鳴らすムカデの顔が。

 天井からムカデが落ちてきていたのだ。貫いた口からどばっと体液が放たれすうの顔に直撃する。


「ぶぁっ! ……べぇぇ」


 酸のような攻撃ではない。

 ただ口に入ってしまった体液は恐ろしくまずかった。昔(スライム時代)だって美味しいとは思わなかったが、人としてごはんを食べてきた今では吐き気すらする。


「いっ、いつの、まに!?」


 えづきながらすうは叫ぶ。

 いつもなら絶対に食らうことのない奇襲だった。


 だがすぐに原因に気づく。


「ダンジョンの、まそ、に、しゅうちゅう、しすぎ、た?」


 ダンジョンの魔素の奔流から魔物は独立している。そのせいで見逃したのだ。

 危うく頭から勢いよくかじられそうだった。すうの息もさすがに荒い。


 まだ死んでいないムカデをずたずたにし、すうは息を吐いて再び目を閉じる。


「ほかの、も、みのがさ、ない」


 魔物とダンジョンの魔素を別々に感知しなければいけないのだ。

 練習しておいてよかった、とすうは胸をなでおろす。ぶっつけ本番でやっていたら命の危険すらあった。

 そんな風に考えつつ歩き始める。


 集中しようとするとムカデの体液が気になるのが困る。

 凛も似たようなことになっていたが、とても気持ち悪い。


「やっぱり、わるいこと、した、な。……でも」


 ただ悪い事ばかりではなかった。

 ムカデを倒したことで、体液から魔素が流れ込んできているのだ。


 元は同じ魔素だからか。肌で感じる魔素の流れはダンジョンそのものの奔流と似ているように思える。


 すうの体へと入り込んでくる魔素は、出口を見つけたかのような動き。

 それと似たものを探せば、少しずつ魔素の流れに一定の法則があるのがわかる。


 ただこの流れが浅い層と深い層、どっちに続いているのかわからない——。


「ふぎっ!?」


 突然鼻に衝撃が走る。

 すうは慌てて剣を抜き、一歩下がりながら目を開いた。


 また魔物かと思っていたが、そこにあるのは岩だ。


「……みちの、はし、よりすぎ、た」


 どうやら集中しすぎて端に寄ってしまい、壁から飛び出た岩にぶつかったらしい。

 どうも色々なものに気を払い続けるのは難しかった。


「くりかえせば、うまく、なる」


 だがすうは諦めない。

 さらに自分に枷をかける。


「つぎは、め、ひらかない」


 今の一瞬でもなんとなくここがどこらへんかわかってしまったのだ。

 いちいち目を開いては練習にならない。

 軽率に目を開けないようにしよう。そう考え目を閉じると。


「……?」


 いきなり魔素が変な感じになった。顔全体を包み込むように集中して……というか、なんだか生臭い。しかも生ぬるい。ぬめぬめする。


 そう、がぼっと顔を包まれているような。そして首のあたりがずきずき痛いのは、これは牙の感触。


 ——あ、これ、たべられて、る。


「むごーーっ!!?」

「ギエーーッ!!?」


 目の前に思いきり剣を突きこめば、耳元で大音量の悲鳴がして顔が解放された。

 すうの顔を捕食していたのはトカゲだった。


「いつ、から、いたっ!!」


 すうは目を見開き、びくびく痙攣しているトカゲにとどめをさす。

 どうやらさっきぶつかった岩の後ろにトカゲがいたらしい。そして気づかず目を閉じたすうはばくっと丸呑みされたと。


「もーっ! もおぉーっ!」


 ムカデの体液は取れたが、今度はトカゲの涎でべたべただ。


「まもの、ぜつめつ、か?」


 すうは据わった目でつぶやいた。もうこのまま近くの魔物を倒した方がいいか、と。

 だがすぐに首を横に振る。


「だめ。ぼす、とうばつ……じかん、たりない、かも」


 【不転錫杖ころばずのつえ・レプリカ】は方角しか示せない。そのせいでボスへ辿り着くまでに時間がかかってしまう。

 しかしこの方法なら一直線にボスへと辿り着けるかもしれない。

 そうすれば大きな時間の節約になる。


 すうが魔素感知によるダンジョン攻略を選ぶのは、杖が高いというのももちろんあるが、なによりボスの討伐にかかる時間が未知数だからだ。


「あの、おおとかげ、つよかっ、た」


 かつてのすうにとっても『神迷』三階層のボスは手強かった。

 しかも今回はボスを倒して、帰還までしなければいけない。

 時間はいくらでもあった方がいい。

 もちろん、最悪の場合は杖を買う……十万円……いや、買うったら買うのだ。負けたくないし、好きなだけケーキも食べたい。


「ぜったい、かつ」


 すうは決心して目を閉じ、立ち上がった。

 ……ちょうどムカデが落ちてきたのには気づかず。


「ギチギチギチッ」

「はぉあぁっ!?」


 三度目のすうの悲鳴が洞窟内へ響きわたった。



 上からくるムカデに気づかず、トカゲの奇襲をもろにくらい、上に注意し続けて岩にぶつかる。


 その様は(一瞬で魔物を撃退していることを除けば)まるで初めて二階層を攻略する初心者のようだった。


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