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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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三十九話 すう、武器屋へ行く

「ボスを倒すには武器が必要だろう。武器屋へ行くぞ」


 そう言った小兵に引っ張られすうは病院を出た。

 ダンジョンの方へ向かう道を進み、辿り着いたのは崩れたビルや家の多い区画。

 ショッピングモールのような場所と違い、人気ひとけのない交差点を渡った先にその店は建っていた。


『探索者向け武具専門店 あさひ屋』


 灰色の壁に屋根、掲げられた看板の文字もあまり目立っていない。

 なのに妙な存在感がある店だった。


 ガラス張りの自動ドアをくぐって小兵は店に入っていく。すうもその後に続き。


「ふあ……!」


 入ると同時に圧倒される。


 店の中は至る所に武器が飾られている。


 壁は剣や槍、弓に盾といったもので埋め尽くされ、その下には大量のかごと、中に投げ入れられた杖やこん棒。すうを二人重ねても届かないぐらい大きなガラスのケースが立ち並び、中にはもちろん様々な武器が整然と並べられていた。


 雑多で、窮屈で、圧がすごい。

 すうは思わず二の足を踏む。


「おーい、来たぞー」


 だが小兵は慣れたようにガラスケースの間を通っていく。

 慌ててすうも後を追った。


「ここは私の知り合いがやってる店なんだ。初心者を対象にしてるからすうちゃんにいいと思ってな。……しかし、返事がないな。おーい?」

『はいはーい! ちょっと待ってくださいねー!』


 店の奥から声が返ってきた。

 だがそれは小兵どころか、すうも聞き覚えのあるものだ。


 やがてガラスケースの向こうから顔を出したのは、コンビニで働いていたピンク色の髪の少女。


「バイト、さん?」

「あれ!? 昨日のちっちゃい子だ! やっほー!」


 すうが目を丸くするのと同時、バイトさんはパッと笑ってずいずい近寄ってくる。

 近寄ってくるのと同じぐらいすうはあとずさった。


「あれ小兵さんもいる! 久しぶりじゃーん元気!?」

「昨日会ったばっかりだが。というか、バイトさんだけか? 朝日あさひは?」

「店長は留守だよー。なんか頼まれごとしたからちょっと出るってさ!」

「頼まれごと? どんな?」

「詳しくは言えないってさ! そしてバイトの分際で首を突っ込むほどバイトさんは空気が読めないわけじゃないんだなー。なに? 武器買いに来たの? じゃあ困ったらバイトさんを呼んでね! バイトなりの知識でバイトなりにサポートするぜ!」

「頼りになるのかならないのか。まあいいか、じゃあ見せてもらうな。行くぞ、すうちゃん」

「お、おお」

「ごゆっくり~」


 バイトさんは手を振って再び店の奥に引っ込んでいった。それを確認してから、すうは小兵のもとに戻る。

 どうも押しの強い人間は苦手なすうだった。


「あのひと、ここにも、いるの」

「バイトさんは色んなところでバイトしてるからな。さて、朝日がいないなら自分たちで武器を選んでいかなきゃいけないな。まあ必要なものはわかってるし、今回はいいか」

「ん。……でも」


 流されるようについてきてしまったすうは、ふと疑問を抱いた。


「わたし、ボスの、こと、しらない」


 ボスを討伐するための武器を買いに行くと小兵は言った。

 しかしそもそも試験が行われる『水族館』のボスはどういうものなのか。

 どんな武器が効くのか。


 すうは何も知らないのだ。


「……そういえばそうか。じゃあ今から教えよう」

「しってる、の?」

「私も『水族館』の攻略に行ったことはあるからな。質問があったら挙手してくれ」


 店内を周りながら小兵が解説を始める。


「『水族館』三階層のボスは、ホエール・オブ・ファウナ。——クジラの骨と、それを住処にする魔物たちの群体が相手になる」


 すうはさっそく手を挙げた。


「早いな。どうした?」

「くじら、って、なに?」

「おおう、そこからか……いや、そりゃそうか」


 ダンジョンで暮らしてたんだもんな、と呟いた小兵が携帯で画像を見せてくる。

 そこに映っていたのは巨大な魚のような生物だった。人の十数倍あるそれは、すうが戦ったボスである巨大トカゲよりもずっと大きい。


「これが、ボス?」

「いやクジラは普通の動物。ボスはこれが骨になったような見た目だな。とりあえず想像はできたか?」


 魔物ではない……? これで……?

 困惑しつつもすうは頷いた。


「つまり、おおきい」

「そう。デカい上にそこに住んでる奴らも攻撃してくる。だから巨体と物量のどっちもで仕掛けてくるわけだ。しかも、基本的には宙を泳いでるから攻撃も当てづらい」

「……ゆみ、とか、ひつよう?」

「すうちゃん扱えるのか?」


 一応練習はした。

 しかし矢の代わりになるものは調達しづらくてほとんど扱ったことがない。


「びみょう」

「じゃあやめとけ。でかいから骨のどこかにはあるだろうけど、骨は弓矢じゃ貫けないだろうしな」


 ガラスケースに飾られている、小さな弓を指して小兵はバツを作った。


「それに宙を泳ぐといっても基本的に高く飛んでるわけじゃない。戦う場所も洞窟の中みたいなものだ。すうちゃんの身軽さなら、普通にクジラの体に飛び乗れる」

「でも、ほね、かたいん、じゃ」

「骨には攻撃しなくていいんだ」

「?」

「どっちかというと中の魔物群が本体なんだよ。骨はそいつらが操ってるみたいなもので、そいつらを潰せば骨も動かなくなる。だから身軽に動ける武器が良くて、すうちゃんなら、今まで通り長剣がいいだろう」


 あるガラスケースの前で小兵が足を止めた。

 中に飾ってあるのは、小型ながら細かな装飾の施された長剣だ。


「……これ?」

「とりあえずこれがいい感じではあるな」


 すうにもなんとなくいい感じの剣だというのはわかった。

 それに不満はない。ないが……ふと思い出してしまったのだ。


 前に考えた、スライムの体のように自由に変形する武器のことを。


 なんとなくあたりを見回す。だが飾られているのは普通の武器だけだった。

 あったとしても魔道具だから買えるわけもないのだが。


「でもとりあえず後だ」


 長剣から目を離し、すぐにまた小兵は歩き出した。

 すうは首をかしげる。


「かわない、の?」

「それより先に買うものがあるんだよ。ボスとの戦いを見据えるのは当然として——まず辿り着かないと勝負にもならない」


 よくわからず瞬きをするすう。

 だがすぐにはっと気づいた。

 そうだ。今回のダンジョンは『神迷』ではなく別の、初めてのダンジョンなのだ。


 道がわからない。


「ボスへ辿り着くまで三階層分もある。しかもボスを撃破して帰るところまで、八時間でこなさなきゃいけないんだ」

「……むり、では?」


 よく知っている『神迷』ですら、降りるだけならともかくボスを撃破して帰るのは無理だ。

 単純に時間が足りない。すうは冷汗を浮かべる。


「いや大丈夫だ。『神迷』と比べてるんだろうけど、あそこはめちゃくちゃ広い方だぞ」


 すうの焦りを払うように小兵は手を振った。


「『水族館』はすうちゃんが想像するよりずっと狭いよ。普通の特例探索者でも八時間で三階層に到達して、魔物と戦って、帰れる計算だろうしな。ボス討伐を意識させないためか、いつもより時間は短いが……最悪、すうちゃんなら駆け回り続けてボスのところまで行く手もある」

「よ、よかった」


 強引すぎるが解決策はあるようだ。


「ただ、ボスを討伐するまでに疲れてると危ないし、もしも迷って帰れないとボスを討伐しても地神に何か言われる可能性もある。だからせめて、出口と入り口の方角がわかるぐらいの方法が必要だ」

「……まどうぐ、とかしか、ないん、じゃ?」


 魔道具は今のすうでは買えないほど高額だったはずだ。

 そんなわけがないと思いつつ、それしかすうには思いつかない。


「その通り、魔道具だな」


 だが小兵は褒めるように頷いた。

 目を見開くすうの前で、小兵は店の奥のかごへと近づき、何かを取り出す。


 その手に握られているのは、先に四つほどわっかのついたおごそかな雰囲気の杖だった。


「これは【不転錫杖ころばずのつえ】」


 小兵がまっすぐにすうを見据えてきた。


「求める道を正確に指し示し、あらゆる罠や危険を察知し、宝箱や魔物のドロップアイテムといった情報すら伝える魔道具——」

「そ、それ、すごく、たかい、んじゃ……!」

「——の、レプリカだな。偽物」


 威圧感に後ずさっていたすうはぴたりと足を止めた。

 よく見ると小兵の口元には笑みが浮かんでいる。からかわれたことに気づいたすうは近くの武器のどれで殴りかかろうかと物色し始めた。


「まてまて商品は傷つけないで。悪かったから」

「せつめい」

「はい。これは【不転錫杖ころばずのつえ・レプリカ】って言ってな。人造魔導具なんだ」


 不機嫌になっていたすうが思わず目を見開く。


「ひとが、つくった?」

「とはいっても魔石も使わないから魔道具と言えるかすら怪しいか。これは杖の先のわっかが魔素に抵抗を持つ鉱物で作られてて、魔素が近づくと反発するように別の方を向くんだ」


 小兵が取り出した魔石を近づけると、錫杖のわっかはカタカタ震えて反対方向に向いた。


「おお……」

「で、これがダンジョンの中みたいな魔素まみれの場所だと、なるべく少ない方に行こうとする。つまり浅い階層の方角を向くんだな。だから少なくとも出口の方角はわかる。じゃあわっかが向く方と反対に行くと?」

「したの、そうに、いける?」

「そういうことだ。あくまで方角だけだから行き止まりについたりもするけど、すうちゃんなら方角さえわかればなんとかなるはずだ」

「なる、ほど。……ありがとう」


 ボス討伐について、思ったよりもしっかりと小兵は考えていてくれたらしい。

 すうはお礼と共にぺこりと頭を下げ……そして、目を下に向けたことで、【不転錫杖・レプリカ】の値段を見てしまった。


「……じゅうまん、えん……?」

「うーん、レプリカとはいえ魔道具だからな。この杖本体も飾りじゃなく、わっかがちゃんと魔素の少ない方を向くよう調整されてて……まあちょっとは高くなる」


 十万円。

 十万円といえば、すうの全財産の半分だ。これでどれだけファミレスに通えるか。

 ぎゅっと胸元を握りしめるすう。いや、だがまだ半分あるとも言える。


「あと言いにくいんだが、さっきの剣が十五万ぐらいなんだ」

「ふぐぅ……!」


 だがそこに無慈悲な追撃がきた。


「ボス相手ならあれぐらいの武器が欲しいしな。すうちゃんの所持金が十九万ぐらいだから、六万ほど足りないか」

「ふぐぐ……!」

「あと防具も、ボス相手だと【隠れ蓑】だけじゃ心もとないかも」

「ふぐぁーっ! おかね、が、たりない!」


 すうは叫んだ。この場合のお金は食費と同義である。


「落ち着けすうちゃん! ダンジョンで稼ごう! 昨日は十四万円ぐらい稼げたし行ける行ける!」

「たしかに!」


 そうだ、ダンジョンだ。ダンジョンで稼げばいい。

 魔素で魔物の居場所はわかるのだ。これまでを越えた討伐速度を——と。


 そう考えた時、ふとすうは気づく。


 【不転錫杖・レプリカ】は魔素に反発して、魔素の少ない浅い階層を示すという。


 その魔素の流れを感じれば——昇るも降りるも思い通りなのでは?


「……こひょう、ダンジョン、いこう」


 あるいは、すうには地図など必要ないのかもしれない。


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