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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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三十五話 すう、地神と出会う

 すうがファイチキを食べきると同時、道の向こうから人が現れた。


「なんだ、小さい影があるかと思えば、お前か」

「げっ」

「——!」


 ただものではないと、すうは一目で理解した。


 そいつは見上げるほどに大きな男だった。

 手足は太く、服の上からでもわかるほど腹が突き出ている。どすどすと歩いてくる様に、すうは四階層に出てくる鼻の潰れた人型の魔物を思い出した。

 目はどこか嫌な感じに細められ、てらりと油の光る唇を歪めている。


 そう、油だ。

 さっきまですうが食べていたチキンのような油が、男の口元にはついていた。


 すうは改めて男の体——正確には、その腕に抱えられている箱へ注目する。

 円形の箱の中からは、油とチキンの匂いが香ってきた。それもファイチキよりずっと濃厚で強烈だ。

 それは質ではなく、単純な量の話。大量の油とチキンがあの箱に入っているのだ。そしてさらに下へ目を向ければ同じ箱がさらにいくつも袋の中へ入っていた。


 箱には、にこやかな白いひげの老人が描かれている。


「相変わらずコンビニ飯とはな」

「フライドチキンむさぼりくってる奴に言われたくないが」


 あれはフライドチキンというのか。

 男と小兵の会話から食べ物の名前をすうはしっかりと聞き取る。


「というかなんでお前がここにいるんだ、デブ」

「俺がどこにいようと勝手だろう、チビ」


 そして喋りながら男はその太い手を箱の中へと突っ込んだ。

 ファイチキと同じものが出てくるのだろう。釘付けになりながらもそう考えていたすうだったが——その予想は裏切られた。


「なっ……!」


 ずるりと取り出されたのは、四つ。

 指の間に一つずつフライドチキンを挟んで取り出したのだ。さらに男はそれを一気に食い尽くしていく。

 あまりに豪快かつ破天荒。


 ——ただもの、じゃ、ない……!


 戦慄するすうをよそに小兵は嫌そうに声を上げる。


地神じがみ、お前たしか新しいダンジョンが出たからって、そっちを攻略しに行ってたはずだろう」

「そんなものは既に終わっている。全面土壁のダンジョンなどいいカモだ。だからこそ俺が呼ばれたのだからな」

「『既に』? その割に攻略したことは話題になってないな。つい最近慌てて終わらせたんじゃないのか?」

「おお、ネットすら覗かないずぼらがどうやってニュースを知るというのか。いまだに鳩に手紙をくくりつけているのか?」

「——嫌味デブ」

「——脳筋チビ」


 ぎしり、と空気が軋んだ。


 小兵の手が握りしめられる。

 地神じがみの足元にぴしりとヒビが入った。


 このまま放っておけば恐ろしいことが起こるだろうと誰もが想像できる。

 そんな状況の真っただ中で。


 すうは地神の握るフライドチキンにまだ目を奪われていた。

 だがそこに変化が起こる。地神がフライドチキンを手放したのだ。

 それは抱える箱へと落下していったが、一つだけ箱のふちに当たってはじかれ——。


「あっ!!?」


 地面へ落ちそうになったフライドチキン。すうは咄嗟に声を上げ走り出しかけた。

 一瞬後、フライドチキンはしっかりと箱に収まって、すうは胸をなでおろしたのだが。


「……」

「ふん」


 いきなりの声に、小兵と地神の間の空気は変に緩んでいた。

 二人は鼻から息を吐いてお互いに体の力を抜く。


 そして地神の目がじろりとすうを向いた。

 すうも見られたことに気づいてはいるが、それより再び取り出されたフライドチキンに意識が行く。


「その子供はなんだ?」

「まず私の質問に答えろ。お前、なんでここにいるんだ。ダンジョン攻略が終わったとしても壁の中で仕事があるだろう」

「当然、これも仕事のうちだ。この時期に何があるかを思い出せばわかりそうなものだが」

「……階層殲滅? いや、もう探索者は引退したんじゃ」

「その前に行われることがあるだろう」

「は? え、まさか」


 フライドチキンをかじり、地神が口の端を持ち上げる。


「特例探索者用浅層探索ライセンス取得試験。俺はその試験官だ」


 そして、その言葉にようやくすうもフライドチキンから意識を引きはがした。


「しけん?」

「うーっわ……よりにもよって地神かぁ……どうしようかすうちゃん」

「な、なにが?」


 急に肩を叩かれ、すうは小兵と地神の間で視線を行ったり来たりさせる。

 ただ地神から見下ろされてびくっと動きを止めた。


「俺の質問にも答えて貰おう。その子供は誰だ?」

「この子はすうちゃん。最近特例探索者になった子」

「ほう、特例探索者か。それはまたタイミングのいい……まて、小兵。何故お前が特例探索者と一緒にいる? まさか……」

「そりゃ、私はこの子の同行者だからな」


 地神が仰天したように目を剥く。


「お前が? 同行者? 『神迷』にも挑まず? ……引退か?」

「そんなわけあるか! 『神迷』の方はいま『扉叩きノッカー』呼んでるんだよ! 申請は通ったけど来るまで動けないんだ、知ってるだろ!」

「ああ、そうか。そうだったな」


 豊かな顎に手を当てて地神が納得したように頷いた。


「のっかー?」


 ただ話がわからないすうは小兵へ疑問の目を向ける。


「うん、〝はこ〟の一人だ」

「はこびや」

「あー、空間を飛んでいろんな場所へ移動する魔道具を持った人たちがいてな。彼らを総称して〝はこ〟。『扉叩きノッカー』はその中でも最上位の魔道具を持ってる」


 小兵は『神迷』の方を向いた。


「普通はダンジョンの奥に行こうとすると、魔素が邪魔するのかなんなのか飛べないことが多い。だが『扉叩きノッカー』は最深層の手前までなら人を運べるんだ」

「さい、しんそう、って、どこ?」

「最深層は、三十二階層だな。今回運んでもらうのは二十九階層だ」

「さん、じゅう……?」


 すうは目を見開く。

 散々魔道具を探し回ったのが五階層だった。小兵はその遥か先を進んでいるらしい。

 疲労も空腹もある人の体で、行ったり来たりを繰り返しているというのか。


 すうは初めて純粋な感心を小兵に抱いた。


「最高到達層も教えていないのか? まさか階層の深浅も?」

「うるさい。まだ今日で二日目なんだよ」

「ふん。しかし、そうか。最近『神迷』の浅層で見かけるというから、暇つぶしすらダンジョンに依存していたかと思ったが、同行者とはな」


 ふと地神はすうを見下ろし、目を細めた。

 よくわからない悪寒を感じてすうは一歩後ずさる。


「まだ二日目という話だが、この子はもしや試験も受けるのか?」

「あ? まあ、そうだな。すうちゃんはちゃんと実力もあるし」

「ああ……」


 途端、地神が額へ手を当て大仰に天を仰いだ。

 小兵が苛立つ気配が横からする。すうがそっと距離を話そうとした時。


 バッ! と。

 急に地神がすうへと指を突きつけてきた。


「キミは、落ちるな」


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