三十四話 すう、ファ○チキを食べる
すうと小兵のコンビニ探索!
「じゃあ入り口から見て行こうか」
わざわざ入り口まで戻って小兵がガイドを始めた。
「はい、まっすぐに行くとまず目に入るのはホットスナックです。揚げたて……かは知らないけどあつあつだよ」
「おお……!」
暖色の光に照らされたホットスナックは何かが降臨しているようにも見えた。
ケースへ張りつこうとしたすうは「おさわり禁止です」と止められ、次に進む。
「そしてホットスナックの横にはバイトさんだ」
「いえーい! 小兵さん久しぶり! なになにめっちゃ可愛い子連れてるね! やっほー色んなところでバイトしてるバイトさんだよ~! 見かけたら気軽に話しかけてねっ!」
「お、おお」
凛たちより少し年上に見えるピンク色の髪の少女、バイトさん。
カウンターから乗り出して手を振ってくる彼女へ、すうはわずかに距離を取りつつ手を振り返した。「かわいい~!」とむずがゆくなるような声を背に、そのまま突きあたりまで進む。
「水からエナドリまでいろいろ、ドリンクコーナー」
「えなどり?」
「疲労が吹き飛ぶ飲み物だな」
それは飲み物なのか。薬とは違うのか。毒々しい色の缶を前にすうは悩んだが、近くにあったコーラにはしゃいで全てを忘れた。
「ドリンクの向かいがアイスコーナー。ファミレスでも食べた冷たいお菓子な」
「とびこみ、たい……!」
「迷惑バイトみたいになるから駄目」
『バイトさんが迷惑みたいな言い方ー!』
冷たく甘い誘惑がすうの目を捕らえて離さない。小兵によって無理やり首を別方向へ向けられ嫌な音がコンビニの中に響きながらも、ドリンクとアイスをこえて、次の角を曲がる。
「パンコーナー。おやつみたいな菓子パンとごはんみたいな総菜パンがある。でもコンビニって菓子パンの方が種類ある気がするな」
「い、いろいろ、はさまって、る」
首にダメージを受けたすうの感想はちょっとズレていた。だがコロッケ、焼きそば、あんこにクリームと挟まれているものは多い。もしや『ダンジョン・カロリーブロック』も挟んでいいのか。新たな可能性に気づいたすうは前に進んだ。
「反対がおにぎりのコーナーだな」
「たいりょう!」
お米を三角形にして、中に食材が入っているらしい。これもまた『ダンジョン・カロリーブロック』を入れて……口に出した考えになぜか小兵が引いていた。疑問の目つきから逃げるように小兵は隣のコーナーへ。
「ここがお弁当のコーナー」
「ごうか!」
一言に多大な驚愕が込められていた。ハンバーグにパスタにドリアとファミレスのごとき商品に加え、いまだ見たこともないカレーやら天津飯やら多種多様の料理が端から端まで天から地まで。だが最も驚いたのは、晩御飯にと大量の弁当をかごに入れ始めた小兵の姿だった。それを全て食べるというのか。どんな大富豪だというのか。
固まっている間に手を掴まれ、「さあ次いこうか」と次に進まされた。
「ここが日用品コーナー」
すうはそろそろ外が暗くなってきたなぁと思った。
「反応すらされなかった……棚の内側は全部お菓子コーナーだな」
「いろ、とりどり! 『ダンジョン・カロリーブロック』も、ある!」
ポテチ菓子類をそっと持ち上げる。包装に見た目は印刷されているものの中身は見えない。見えないせいで妄想が止まらない。
きょろきょろ見回しながら歩いていると、やがて透明な容器に入ったお菓子が見えた。
それに近いのは、ファミレスで見たティラミスだろうか。
今までと同じく引き寄せられるように近づくすう。
だが小兵の言葉でふと足を止めた。
「ケーキか。昼にすうちゃんと凛さんたちが賭けてたな」
ケーキ。
これが。
すうは改めてそのお菓子、ケーキを見た。
大きさはすうの手のひらに乗るぐらい。丸く柔らかそうな土台をクリームや果物で飾っている。
想像よりふんわりと甘そうで……ただ。
「そうぞう、より、ちいさい」
ぽつりと呟く。
単にすうは感じたことを漏らしただけだ。だがわずかに残念そうな気持が籠っていたのか、すぐに頭上から小兵が訂正してきた。
「それはコンビニのやつだからな。専門店のならもっと——すうちゃんの頭より大きいぐらいのサイズのもあるよ」
「おおきすぎ、ない!?」
思わず振り返る。
小兵は両手の人差し指から親指までをいっぱいに伸ばしていた。そこから想像できる大きさは確かにすうが顔をうずめられるぐらいである。
「とはいっても一ホール丸々はさすがに食べないだろうな。いろんな種類を選ぶみたいだし切り分けられているのを買うんだろう。それでもそこのケーキよりは大きいと思う」
「ケーキ、にも、いろいろ……!」
想像はしょせん想像でしかなかったとすうは実感する。
「試験に受かればそれが好きなだけ食べられるわけだ。お金は私か彼女たちが持つわけだし」
すうはさらにやる気を上げ——ぐう、とお腹が鳴った。
「……おなか、すいた」
「あ、そういえば昼の早い時間にファミレスへ行ってから今まで何も食べてなかったな。『ダンジョン・カロリーブロック』ぐらいか」
ファミレスではお腹がいっぱいになるほど食べた。しかし散々ダンジョンを走り続けたことでもうとっくに全て消化されているのだろう。
気づいてしまえば耐えられない。すうはお腹をおさえ、視線は自然と小兵がかごに入れたお弁当へ向かっていた。
「検査施設の門限までまだ時間はあるな。一つ食べて行こうか」
小兵は苦笑して弁当を指す。
が。
「むぅ……やめと、く」
すうは葛藤しながらも断った。
小兵が目を見開く。珍しく何か聞き返してくることもない。
「いちにち、さんしょく、だし」
それは松ノ木から教えられた常識だ。
デザートならともかくごはんでない時に食べるのは躊躇われた。何もないならともかく、検査施設へ帰ればごはんは用意されているのだ。
「……なるほど、な」
「だから、もうかえる」
コンビニへ来たのはカップラーメンを買うためだった。だが今は帰る途中で食べてしまいそうだ。
すうは何も買わずコンビニを出ようとする。
しかしその肩が小兵に掴まれた。
ただいつものようにギリギリと力を込められることはなく、軽く止めるように優しく。
そして顔にはからかうようなものではない、柔らかい笑みが。
「すうちゃん……こんな言葉を知っているか」
ただすぐに柔らかい笑みは消えて、にやりと笑う。
「な、なに?」
「三時のおやつ、だ」
「??」
「そのまま三時にはおやつを食べてもいいんだ。これは松ノ木だって文句を言えないぐらいちゃんとしたルールだぞ」
「! ……いま、さんじ、じゃない」
すうは驚き、だがすぐに疑いの目を向ける。
小兵はたまにからかってくるのだ。
「三時に食べてないから今食べてもいいんだ。本当だぞ、なあバイトさん」
「ほんとほんと~! バイトさんは三時に限らずおやつ食べるけどね!」
店内を一周した結果、バイトさんの近くへ戻ってきていたらしい。後ろから適当に思える様子で同意してきた。
「むぅ……信じる」
だが小兵もしつこく嘘を言うことはないだろう。
再びお腹が鳴ったのもあって、すうは三時のおやつを食べることにした。
「じゃあなにを食べようか。おやつだしそのケーキ?」
「ホット、スナック」
バイトさんの隣にあるホットスナック——その中でも、一番上にあるものをすうは指さした。
「ファイティングチキン、ファイチキか」
「いいねー! ファイマのおすすめだよっ!」
すうはケースの上で美味しそうに横たえられたファイチキがずっと頭に残っていたのだ。
食べてもいいのなら、食べたい。
「じゃあ私もファイチキレッド一つ、あとアメリカンドッグ。すうちゃんとは別会計で」
「おごらないんだ? りょうかーい!」
それぞれにお金を払えばバイトさんは慣れた手つきでファイチキを取り出し、大きく赤いFの文字が記された縦じま模様の袋へと入れていく。
最後に封をして手渡された。
「どうぞ!」
「ありが、とう」
「どういたしまして~! お召し上がりは店外でね!」
じんわり暖かい袋を両手で持ち、すうたちはコンビニを出た。
辺りは薄暗いが、コンビニの近くは電灯でまばゆく照らし出されている。そんな軒先で、店を背にして小兵が袋を開く。
テープをはがすのではなく袋の途中にある線に沿ってちぎるようだ。
すうも真似をして開いてみた。
軽く引っ張ればパリッと開けて——中から、かぶりつきたくなるような肉がどんと現れた。
ケースの中だと一体なんなのかわからなかったが、ファイチキは肉の塊だったようだ。そういえばチキンは鶏肉のことだったかと、すうはどこかで聞いた知識を思い出す。
チキンの香りがすうの食欲をそそる。
「いただき、ます」
手を合わせ、ファイチキへと口いっぱいにかぶりついた。
さくり、と。
そんな音がした。
外側はカリッとしているが、柔らかく見た目よりもずっと噛み切りやすい。
口を動かせば、ザクザクと小気味いい音と共に味がしっかりついた鶏肉を味わえる。
味が濃く食べているのに空腹が刺激された。
すうは一気に頬張っていく。溢れた油が口から垂れ、慌てて指で拭いながらも口は止めない。
ザクザクもにゅもにゅと、すぐに食べきってしまった。
手についた油を舐め、袋を畳んで、名残惜しくも手を合わせる。
「ごちそう、さまでした」
そして、それと同時。
「——なんだ、小さい影があるかと思えば、お前か」
一目でただものではないとわかれるものが、現れた。




