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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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三十二話 すう、思い出す

 二階層をめちゃくちゃに駆け回って。

 受付で討伐数の確認と報酬を受け取り、すうたちはへとへとになって『神迷』前の受付を出た。


「つ、つかれ、た……」

「まさか前よりも討伐速度が速いとはな……他の探索者とかち合わないようにするの大変だった……」


 理由は違えど多大な疲労を抱えてよろよろ二人は歩く。

 ダンジョンへ入ったのは昼の早い時間だというのに、現在は日が落ちかけていた。辺りが赤く染まっている。


「もうこんな時間か。何時間走り続けてたんだ……」

「……ぐぅ」

「すうちゃん、寝るのは帰ってからだ」

「はっ」


 歩きながら頭をがくりと落としたすうは、小兵に肩を叩かれ顔を上げた。


「でも今回は途中で倒れたりしなかったな。前より速く動いてたのに。それに剣の振り方もどんどん無駄が少なくなっていってた」


 感心したような声に、眠い目をこすりながらすうは手を握ったり開いたりしてみる。

 すう自身、少し疲れにくくなっている気がしていた。魔素の流れで体の動きはわかるが、今なら魔素を感じなくともある程度は動けるように思えるのだ。


 動き方に慣れているのかもしれない。

 いいことだ。

 が、すうにとって一番のいいことは別にあった。


「討伐数も二百八十二体。前回の倍か。特例探索者としては前代未聞だな」

「じゅうよん、まん」


 そう、討伐数が多くなるということはお金も大量に稼げるということ。

 すうはポケットに入れた茶封筒をそっと撫でた。思わず笑みが漏れる。


 素晴らしい成果だ……が、一つ不満もあった。

 ドロップアイテムについてだ。


「あいてむが、うれない、なんて」


 すうは魔物を討伐する中でドロップアイテムも集めていた。

 かさばる上に安いらしい魔物の一部は放って、魔石だけを重点的に。


 しかし受付に提出した魔石たちは『引き取りますね』と笑顔で言われ、お金にならなかったのだ。

 奥へと持ち去られていく魔石を思い出し、すうは恨みを込めて小兵を横目に見る。


 だが小兵からは呆れの視線を返された。


「いや、すうちゃんが走り回る横でちゃんと説明したからな。特例探索者が得たドロップアイテムは基本的にダンジョン課へ回収されるんだ」

「……ダンジョン、か」


 松ノ木がいるところだ。


「回収されたドロップアイテムは主に換金されて、特例探索者へ貸し出す装備の修理費やダンジョン課が雇う同行者への給料に当てられる」

「きゅうりょう」

「私も一応貰ってる。とはいっても、特例探索者がそんなに稼げることはないからあくまで補助でしかない。……今日のすうちゃんみたいな子ばっかりならともかく」


 どうやらちゃんと理由はあったらしい。

 そしてどうも、説明されたのをすうは聞き逃していたようだ。

 気まずさを誤魔化すようにすうは大きく頷いた。


「そういえば、そうだった」

「知ったかぶりは恥ずかしいぞ、すうちゃん」

「きいて、なかった、です。ごめんなさい」


 小兵からの鋭い指摘にあっさり負けてすうは謝った。


「ま、とりあえずお金はできたんだ。明日は武具を見にいこうか」

「むぅ……」


 稼いだお金しょくひが飛んで行ってしまう。

 すうは渋い顔をしながらもしっかり頷いた。今は勝負が重要だ。それはそれとして食べるためのお金は絶対に残すが。


「じゅうよん、と、ご、まん。これで、たりる?」

「十九万円か。中古から選ぶことになるかもしれないけど、十分だな。さて、どんなのを買おうか」


 自分の武器を買うわけでもないのに小兵は浮足立っている。


「たのし、そう」

「まあな。なにせレンタル装備でも魔物を斬れるすうちゃんだ。まともな武器を持ったらどう変わるのかが楽しみでな」

「そんなに、かわる、の?」

「だってそもそもレンタル装備は一階層で満足するような人が借りる武器だ。安全に配慮して刃を潰してある・・・・・・・んだぞ? 逆にあれでどう斬ってるんだ」


 どうやらレンタル装備は斬れないのが普通らしい。

 魔素の流れから刃を通せそうな部分を割り出す、とは言えずすうは曖昧に首を傾げた。


 ただ興奮気味の小兵は更なる追撃をかけてくる。


「そもそもダンジョンで暮らしてた時にはどういう武器を使ってたんだ?」

「……え、と」

「長剣が得意なのかと思ってたけど、どうもそれだけじゃなさそうだ。回転がメインで、斬るでも潰すでもあらゆる戦い方を前提にしたような柔軟な構えと動きだった。例えていうなら、全身を武器として使うような」


 スライム時代の戦い方をぴったり言い当てられていた。

 とんでもない洞察力である。しかも目が爛々と輝いていて怖い。

 すうは内心、冷や汗を滝のように流しながら話を逸らそうと決意した。


「えーと……たたかいかた、に、あったぶき、ってどれ?」

「そうだなぁ……! 本人が使いやすいのが一番だが、おすすめは双剣とか。持てる武器を増やすのがすうちゃんにはいいと思うな。別に揃いの剣じゃなくどこかに武器を忍ばせたりな。ただ、それだと硬い相手には攻撃が通りづらいから——」


 方向を逸らせば突撃するように小兵の興味が移った。

 どうも小兵は戦い方や武器に関心が強いようだ。


 胸をなでおろしていると、はっと小兵が我に返った。


「ごめん……色々言ったけど、基本的には自分に合うものがいい。すうちゃんの戦い方ならどれでも活かせるだろうしな」

「じぶん、に」


 すうが思い浮かべたのはやはりスライムの体だ。

 全身を様々な武器や部位に、変幻自在に変えることができる性質。

 ただそんなものがあるのだろうか。


 スライムとは言わず、すうは希望を口にしてみた。


「ぐにゃぐにゃ、かわる、ぶき?」

「鞭とか?」

「けん、から、ゆみ、みたいな」

「うーん、流石に魔道具の領分だな。日用品ならともかく武器系の魔道具は高い。数十万か、数百万か」

「なしで」


 そんなものを買うお金はないし、あったとしても買わない。

 そう即座に却下したすうだが、『魔道具』という言葉にふと引っかかるものがあった。


 何かを忘れているきがする。

 心当たりを探り——次の瞬間、すうは声を上げる。


「……もってた」

「ん?」

「わたし、まどうぐ、もってた! 【隠れ蓑ハイド・コート】!」


 地上へ出た時に唯一纏っていたもの。

 その存在をすうは思い出した。


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