三十一話 すう、絶滅させる
「じゃあ勝負の条件を確認しよう。試験の内容はまだ発表されていないから、大まかにだが」
小兵が今までの話を纏める。
・すうと凛たちは試験の結果で勝負をする。
・受かれば勝ち、受からなければ負け。
・負けた方は罰ゲームとして、食事代をおごる。
「こんなところか。そういえばすうちゃんは何を食べるのか決めてるのか?」
「ファミレスと、ケーキ」
「凛さんたちと同じだな。別に合わせなくてもいいんだけど」
「これが、いい」
すうははっきり言い切る。
ケーキがどういうものかは知らない。だが杏子が羅列したケーキの種類にすうは心を奪われていた。
それが食べたいのだ。
食欲を掻きたてられているすうへ、小兵は引き気味に頷いた。
「あー、了解。あなた達もそれでいいな?」
「大丈夫です」
凛が即答する。他二人は少しためらったようだが頷いた。
「いいね。ただ、この条件だとどっちも勝った時に得がないな」
「どっちも、かつ?」
「基本的に特例探索者の試験は、『年齢が低くてもダンジョンへ挑む実力があるか』を確かめるためのものだ。だから受験者同士での戦闘とかはないし、受けた人が全員受かることだってある。そうすると勝負がつかないことになるが……」
全員の目が凛へと向く。
凛はしばらく固まり、やがて衝撃を受けたようにハッと目を見開いた。
その可能性は考えていなかったらしい。
「りんちゃん……」
「リン……」
「ぬ、ぐぅ」
呆れを多分に含んだ仲間二人からの視線から、逃げるように凛は顔をそむけた。
小兵も苦笑している。
「まあ将来有望な探索者が増えるなら私にとってはいいことだ。勝者にはご褒美も必要だろうし、どっちも受かったらその時は私がおごろう」
「小兵さんが!?」
「こひょう、が!?」
三人とすうが色めきたつ。
三人は憧れの相手と一緒に食事をできることへの喜びで、すうはお金が浮くことへの喜びだったが。
「ただ気をつけてくれ。一番大事なのは生きて帰ることだ」
「はい!」
「よし。じゃあお互いに頑張って——」
小兵が話を締めくくろうとした時。
ビーッ! と警告音のような響きが三人の荷物から響いた。
途端、三人の間に再び緊張が走る。ただすうと小兵のように構えるわけではなく、重い手つきで荷物を漁り始めた。
やがて音が止まる。
「……あたしたちの同行者からです」
さっきまでの威勢のよさを無くした凛が言う。
潤や杏子もどこか雰囲気が沈んでいた。
「すいません小兵さん。あたしたち、そろそろ戻らないと。時間以内に合流する予定だったんで」
「……そうか。でもまた魔物が集まってくるかもしれないし危ないだろう。ついていこうか」
「大丈夫です。次は油断しません」
強い口調で凛は言い切る。
そしてすうの方をキッと睨んできた。
「絶対、勝つ」
そうして三人はすうたちが来た方に歩いていった。
三人の姿が見えなくなってから、小兵はぽつりと呟く。
「色々訳アリそうだな」
「……」
黙るすうへ愚痴るように続ける。
「魔物が集まってたことに関係はあるのか、ないのか。怪しい気はするが……こっちの調査の話もあるからな。モンスタートレインじゃないって言葉に嘘はなさそうだし」
「……」
「同行者が仕事をしてないのは気になるが、個人の裁量に違いもある。ダンジョンの中だと問題の追及はしづらいし、個人間で頼んだ相手だとダンジョン課も介入しづらい」
「……」
「私がついていっても殴って文句言うぐらいしかできないんだよな。とりあえず魔物の発生と、あの子たちが巻き込まれてたことはダンジョン課へ報告するか。しがらみは面倒だな、すうちゃん」
「……」
「……あれ、すうちゃん? おーい」
すうの目の前で小兵が手を振っている。
だがすうはそれすら目に入っていない。
「……ぜったい、かつ」
凛が残した言葉へ対抗するようにすうは呟く。
その頭の中では効率のいい魔物の討伐ルートをひたすらに構築し続けていた。
装備を揃える。そのためにお金を稼ぐ。
今までと同じ目的。
だが『負けたくない』という対抗心が、更なる燃料として注がれていた。
まず装備を揃えなければ試験を受けられないのだ。戦いの土俵にすら立てずに負けてしまえば、凛から何を言われるか。
『『ダンジョン・カロリーブロック』とか食べてるからじゃないの?』
そう言って鼻で笑う凛の姿がすうの頭に浮かんだ。実際に言うことはないだろうがすうの中ではそんな奴だった。
「ぜつめつ」
無表情に呟いたすうが唐突に走り出す。
今までは勢いで口にしていた絶滅を、本気で実現するために。
『二階層絶滅ルート』はすでに脳内で完成していた。
「あれ!? すうちゃん思ったよりやる気だな!? 他の探索者の獲物を奪ったりはしちゃ駄目で——ヤバい、私も監督不行き届きになるのかこれ!?」
そして凛との勝負を煽った小兵は、暴走一歩手前のすうを制御しながら、ダンジョン内でのマナーを説き続けることになるのだった。
——その日、二階層の一部から魔物の姿が綺麗に消えたという。
討伐数、二百八十二体。
収入、十四万千円




