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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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三十話 すう、ケーキを賭ける

「じゃあどっちが受かるか勝負よ! 負けた方は罰ゲーム!」

「うけて、たつ」


 りんから挑まれた勝負にすうは即応した。

 だが次の瞬間、押しのけられていた二人が横からガッと凛を掴んだ。


「りんちゃ~~ん。問題起こさないでくださいね~~」

「ちょっと落ち着け」

「ちょっ、なにすん——いっだだだ!」


 うるが腕ごと凛の体をおさえつけ、杏子あんずが凛の頭を両手でつかむ。杏子の細い腕に挟まれた凛の頭からはメキメキと恐ろしい音が鳴っていた。


 強烈な音にすうはドン引きである。

 よく見れば杏子の装備は上半身を覆うぐらいの盾と、先に殺傷力の高そうな飾りがついた金属製の棒だ。

 これを振り回して戦うのだとするとかなりの怪力なのだろう。


 逆に潤は短剣とポーチを備えた身軽な格好だった。ただ凛が体を振り回そうとしても上手くいなしておさえている辺り、技術が高いのかもしれない。


 やがて凛が崩れ落ちたところで二人がすうの方を向いた。

 思わず頭を守るすうだが、二人の顔に浮かぶのは申し訳なさだ。


「ごめんなさい、すうさん。りんちゃんの負けず嫌いが出てしまって」

「気にしないでいい。他に気を取られて試験に落ちたら申し訳ない」

「なに、いってんの、よ……!」


 杏子たちが謝ってくる間に凛がよろめきつつ立ち上がった。

 ごきりと杏子が指を鳴らすと一瞬怯むが、すぐに視線を鋭くしてすうを睨んでくる。


「どんな状況だろうが実力を発揮できるのが強いやつでしょ! 勝負ぐらいで落ちるなら元から受かるやつじゃなかったってだけよ……!」


 瞳に宿るのは燃えるような意志。

 勝負が咄嗟の申し出だったとしても、やめる気はないようだ。

 再びおさえようとしていた二人が難しい顔で視線を交わし合っている。止められなさそうなのだろう。


 すうも別に受けたのを訂正したりはしない、が。

 ちらりと傍観している小兵を見る。


「しょうぶ、して、おとされ、たりは?」

「命にかかわるような妨害は基本的に禁止だな。でも競い合うぐらいならよくあるんじゃないか?」

「なら、もんだい、ない」


 凛の視線を受け止めてすうも威嚇するように目を細める。

 視線がぶつかりあい火花を散らす二人の横で、頭を抱えていた潤がふと呟いた。


「そもそも罰ゲームって何」


 その問いに凛の肩がわずかに揺れる。


「そういえばまだ何をするか聞いてませんね。わたしたちもこなすことになるんですから、あんまり無茶なことは言わないでくださいよ」

「……わかってるわよ」


 凛は頷くが、その目は明後日へ向いていた。

 様子のおかしな凛にすうは警戒を高める。

 ばつげーむとは何か行うことらしい。とんでもないことをやらされるのか。


 しかし凛は一言もしゃべらずろ忙しなく目を動かすだけだ。


「……もしかして、特に決めてない?」

「りんちゃん……勢いで喧嘩を売ってそれは」

「ううううっさいわね! ちゃんと考えてるから!」

「もう受かった時のお祝いだけでいいじゃないですか」

「美味しいもの食べに行こうって言った。罰ゲームでなかったことにとか最悪」


 『美味しいもの』。

 やり取りを困惑しながら眺めていたすうが、その一言で一気に興味をひかれた。


「おいしいもの、って?」

「え? ああ、普段行けないようなところに行こうと思いまして。ファミレスでごはんを食べてから——ケーキを買いに行こうと」

「けーき……!」


 すうはケーキとやらをよく知らない。

 だが語る杏子の表情からとてもおいしそうだということは理解した。

 一体どんなものなのか。妄想を膨らませるすうの横から、関わらないでいた小兵が話に入ってくる。


「ケーキっていうと、崩壊圏の近くに新しくできたやつか。有名な洋菓子店」

「はい! 『ヨウハイム』です!」


 それが店名らしい。ケーキを妄想していたすうはしっかり記憶した。


「スイーツ系は壁外だと少ない。楽しみ」

「元々あそこに本店があったんだっけ。戻ってこれたって言ってたわよね」

「ショートケーキ、チーズケーキ、バターケーキ、ミルフィーユガトーショコラモンブランにパイにタルトそして何よりバウムクーヘン全部食べます……!」

「待って多くないか? 大丈夫?」

「杏子は食べるの好きなので……特に甘いもの」

「おお……すうちゃんとちょっと似てるな」


 言われたすうもまた、杏子が並べたケーキの種類に妄想がオーバーヒートしてきていた。

 ただすうや杏子ほどではないだけで、潤や凛も楽しみにしているようだ。


 小兵がよし、と手を叩いた。


「じゃあ受からなかった方の罰ゲームは、食事代をおごるってことにしよう」


 全員が小兵に注目する。

 まさかのところから罰ゲームの案が出てきてしまった。


「ああ、達成感のために自分たちで払いたいっていうなら忘れてくれ」

「……それも、ありますけど。でも負けたやつが払うってことなら、あたしはいいです」


 喰いつくように承諾したのは凛だ。

 勝ち負けをはっきりさせるのは好みだったらしい。

 他の二人はハッとしたようにしどろもどろ意見を述べ始める。


「いえ、でもわたしたち結構食べますし」

「自分たちは三人。その子は一人。不公平、では」

「大丈夫だ。すうちゃんは合格するから。私が、そう確信してる」


 微笑みと共に小兵が断言した。

 どこかわざとらしい言い切り方に怪訝な顔をするすう。

 そんなすうへと、三人の視線が向いた。

 凛はもちろん、潤や杏子すらもその目に対抗心が見えた。


 さっきと様子の違う杏子たちにすうは首を傾げる。


「すうちゃんも受けるってことでいいか?」

「うけて、たつ」


 それでも逃げるという選択肢はない。しっかりと宣言する。


 ただふと、すうはケーキがどれぐらいの値段になるのか気になった。

 ファミレスのメニューは一つで二百円から五百円ぐらいだ。それと同じだろうか。


「いくらぐらい、になる?」

「一個で七百円とか八百円。それ以上のもある。三人分で、さっき言ったもの全部頼むわけだし……あ、ファミレスも行くのか。なら数万円ぐらいいくかもな」

「な゛」


 あまりにも予想外の値段だった。

 数万円、ということはすうのお金では足りないかもしれない。いや、武器を買わなければいけないなら、試験を受ける時にはもっと少なくなっているかも。


 ——自分の分を食べられないのでは。


 固まったすうに小兵が笑う。


「だいじょうぶだいじょうぶ。受かれば払わなくていいんだ」

「なによ。やる前から負けた時のこと考えてんの?」


 凛にふっと笑われた。

 すうはぎゅっと眉間にしわを寄せて凛を見上げる。


「もんだい、ない……!」

「負けた後でなかったことにしようとすんじゃないわよ」

「こっちの、せりふ」


 そうして、食事をかけた戦いが決まった。


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