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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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二十八話 すう、殴り合う


「あんた、なに?」


 耳に響く少女の声は覚えのあるものだった。

 病院で聞いたのか、ファミレスで聞いたのか、いいや違う。人の姿になってからではなく、かつてスライムだった時の記憶だ。


「助けに来た、なんて思うんじゃないわよ……!」


 すうへと叫びながら少女がずんずん近づいてくる。

 上から下までその姿はよく見えた。

 ……髪も目も装備も、あの時と変わっていない。


 すうの記憶に残る人間は何人かいる。その中でも強烈に刻まれているのは、小兵ともう一人。


『はーっ! こんなカロリーブロックもう食べ飽きた!』


 間違いない。目の前の少女はあの時の探索者だった。


「——!」


 かつての飢えと衝撃を思い出して無意識にすうは拳を握る。


 だがその時、現在の自分をすうは思い出す!


 今の自分は既にファミレスへ行った後で、『ダンジョン・カロリーブロック』も味わった。

 過去は乗り越えている。ファミレスのメニューは美味しくて、『ダンジョン・カロリーブロック』も美味しかった。それでいい。

 彼女たちは何十回も『ダンジョン・カロリーブロック』を食べ続け、飽きたのだろう。すうには理解しがたいがそういうこともあるのだ。


「あのね、あたしはあれぐらい一人で——!」


 でもそれはそれとして少女の態度は不当ではないだろうか。すうは訝しんだ。

 助けられたのに助けが必要ないとはどういうことだ。これは逆ギレというやつではないのか。

 そんな相手に小兵はどうすればいいといったか。


 『因縁つけてくる相手はとりあえずぶっ飛ばしていけ』。


 そう、これは決して私怨とかは一切なく、同行者からのレクチャーを真摯に活かすだけだ。あのアドバイスはこの時のためにあったのだ。


 全てを悟ったすうは、全力で少女へと殴りかかった。


「うぬぁーっ!!」

「は!? ちょっ、ええええ!?」


 ゴッ、と重い音が響く。すうが放った拳は少女の手甲に受け止められた。


「いきなり何すんのよ!?」

「ここで、あったが、ひゃくねん、め!」

「初対面でしょうが!」


 ギリギリと押し合い、言い合う。

 すうが何を言っているのか理解できない少女は困惑しているようだ。しかしすぐに立ち直ったようで、ギッと目つきを鋭くする。


「そっちがその気なら、やってやろうじゃない!」


 少女が押し合っていた腕を引く。急に力が抜けたことですうは体勢を崩し前のめりになり、その腹めがけて少女が前蹴りを叩きこんでくる。

 だがすうは足に腕を合わせ、蹴りの勢いを利用して自分の体を回転させ横に避けた。


 二人は止まらず、そのまま再び激突しようとし——二人の腕が、小兵によって掴まれた。



「落ち着こうか」




 すうははるか頭上から見下ろしてくる巨大なナニカを幻視する。

 こちらを凝視するそのナニカが……そっと、ごく優しく、撫でてきた。

 そんな底知れなさと圧迫感を全身に感じ、すうは身を固めた。頬を冷汗が伝う。

 少女も同じ状態だ。


 ただすうたちが止まったのを確認したからか、すぐに圧迫感はなくなった。

 横にいるのはすうよりほんの少し目線が高いだけの、小さな小兵だ。


『小さな』と考えた瞬間、ぎょろりと小兵がすうの方を向いた。


「びっくりしたぞ。なんでいきなり殴り合いになってるんだ」

「……こひょう、が、いった」

「そういえば「殴る」とか言ったな……。ごめん、相手を殴り倒せるぐらいの力量差の時だけって言うべきだった」


 それもズレているのでは。

 そう感じつつも殴りかかった手前なにも言えず、すうは黙る。


 それとは逆に少女が叫んだ。


「こひょう、って……小兵さん!? え、本物!?」

「うん?」


 すうは小兵から少女の方に目を戻す。

 腕を掴まれた少女は目を丸く見開いていた。そこにきらきらした輝きが見える。

 さらに声が追加された。


「本物ですよ! さっき探索ライセンスも見せてもらいました!」

「リン、ずるい。自分も握手したい」


 手前側にいた少女二人だ。

 こちらへ駆けよってくる彼女たちも興奮している。握手というのはこの腕を掴まれている状態のことを言っているのか。


 すうが小兵と少女たちの間で視線を行ったり来たりさせていると。


「とりあえず、ドロップアイテムを回収しようか。握手とかは後でな」


 慣れたように小兵はそう言った。




 ドロップアイテムを回収した後、少女たちは興奮冷めやらぬまま自己紹介をしてきた。


「あたし、小笠原おがさわらりんです!」


 すうと殴り合った黒髪ツインテールの少女が声を張り上げる。


和伊庭わいば杏子あんずと申します」


 緩やかに波立つ長い金の髪を上で纏めた少女は、穏やかに胸に手を当てた。


風上かざかみうる、です」


 灰に近い銀髪で、襟足を狼の毛先のように跳ねさせた少女が、呟くように言った。


「丁寧にどうも。私は小兵こひょう佳奈かなだ」

「……すう」


 名字のないすうはただそう言った。

 その瞬間、凛がじろりとすうの方を向いた。対抗するようにすうも目を細める。


「うるちゃん、りんちゃんを抑えておいてください」

「了解」


 だが潤が凛の目を後ろから隠したことで睨みあいは終了した。すうもまた、小兵に肩を叩かれ目をそらす。

 そんなやり取りの後、杏子が一歩前に出て頭をさげてきた。


「小兵さん、すうさん。改めて、助けて頂いてありがとうございました。そしてすみません、うちのりんちゃんが失礼なことを……」

「最初に殴りかかったのはすうちゃんだ。しかもその行動は私が変なことを教えたからだった。こちらこそ申し訳ない。ほら、すうちゃんも」


 頭を下げた小兵から背中を叩かれる。

 自分のやったことで小兵に謝らせては、すうも流石に罪悪感を覚える。


「……ごめん、なさい」


 すうが頭を下げる姿に杏子が慌て出す。


「そんなお二人が謝ることでは!」

「ほら、リン。いつまでも拗ねない。謝罪」


 潤が呆れたように言う。

 そんな中で凛は歯を食いしばり、頭を下げてきた。


「……すみませんでした」


 そうして謝罪がすみ、少し空気が弛緩する。


 ただその時。

 頭をあげた小兵が三人を見回して、口を開いた。


「ところであなた達」

「は、はい!」

「あなた達は特例探索者・・・・・だろう。同行者はどうした?」


 何気なく放たれた問い。

 問われた三人の間に、どこか緊張が走った。


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