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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人の姿でいざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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二十五話 すう、魔石を手に入れる

「おかね、を、かせが、なくては……!」


 装備の値段を聞いたすうはそう決意した。

 今のすうはそこかしこから聞こえたごはんの名前に食欲が刺激されたばかりだ。なのに三日もそれを我慢してお金を貯めなければいけないなどと。


「にかいそう、ぜつめつ!」

「ストップ。ちゃんと見張りの人へ探索ライセンス見せてからだ」

「みはり?」


 一階層と二階層の間には基本的に見張りが立っているらしい。

 登録したばかりの探索者が二階層へ降りないよう止めるのが役目だという。

 例外として人がいなくなる階層殲滅の際には引き上げるそうだが。


「いたっけ……?」

「前に降りた時もすうちゃんを止めようとはしてたぞ。止められてなかったけど」

「すみません……」


 階段の前で言い放った小兵へ、見張りの青年は情けない顔で謝っていた。




 申し訳なくなりつつも、とにかくすうは二階層へと降り魔物を探す。


 また倒れて松ノ木に心配をかけたりしないよう今回は全力ではない。

 力を抜いてジョギングのように洞窟内を走っていく。


「いやこれでもかなり速い方だけどな」


 ただ後ろをついてくる小兵は呆れた顔をしていた。


「はやい?」

「二階層をメインにする探索者でも出すような速度じゃない。なにせ魔物は一階層より強くなるし、魔物を倒せたとしてこんな入り組んだ道で走ってたら絶対に迷うしな」


 言われ、すうは改めて洞窟を見回す。


 すうを縦に四人並べても届かないほど天井は高く、横幅も探索者が数人で並んでも余裕があるほどの広さだ。

 道の真ん中だけは平たく歩きやすいが、端へ寄るとごつごつした岩が飛び出て死角が多い。

 さらに薄暗さといくつも分かれた道で先が見づらかった。


「『神迷』二階層の特徴は広い、暗い、入り組んでる、だ。死角から魔物が飛び出してくるから驚くし、天井にいる魔物には飛び道具持ちしか手が出せない。警戒がしづらいうえに進んでるのかがわかりづらい。だから探索者には嫌がられるんだが——」

「む、いた」


 解説の途中ですうは剣を抜いて走る速度を一気に上げ、岩の飛び出した壁へと近づく。

 すると岩の陰からすう並みに大きなトカゲが這い出して、飛びかかってきた。だがすうは驚きもせず迎え撃つように飛び上がり、トカゲの頭を剣で叩き潰す。


 そして勢いそのまま飛び出した岩へと乗り、ドンと蹴ってでこぼこした岩壁に足をかけ駆けのぼる。その目が捉えるのは天井を這うムカデだ。

 天井へ近づいた辺りですうは壁を蹴った。奇襲が得意なムカデは攻め込んできたすうに反応もできていない。回転しながら振るった刃が節の隙間を通り抜け、斬り飛ばした。


 張りついていたムカデが落ち始めるのと同時にすうも落下する。

 剣を収めたすうはそのまま猫のようにくるりと体勢を変え、衝撃を殺しながら着地した。横にどちゃりとムカデが落ちた。


「まず、にひき」

「うん、すうちゃんには関係ないな。前にも見てるとはいえとんでもない」


 小兵は呆れたように言った。

 さらにご満悦でジョギングを再開したすうは、次の分かれ道で一瞬の迷いもなく右を選ぶ。


「そっちは行き止まりだぞ」

「だから、まものが、おおい。ひとが、こないから」

「うーん、地図を作る練習もできなさそうだな。しかし……」


 二階層に似合わない軽快な足音を立てるすうへ、ついてくる小兵が聞いてきた。


「道に迷わないのはともかく、魔物の感知はどうやってるんだ? 普通は何人かでパーティを組んで、見張りに徹する奴を一人置くんだが。それでも漏らしはあるぞ」

「ん……」


 答えは魔素だ。

 ダンジョンを構成する力。それを感じられるすうは、魔素の塊である魔物の居場所が容易にわかる。

 薄暗かろうと気配を消していようと、魔物である以上はすうから逃れられない。


 ただ、すうは答えを誤魔化す。


「なんとなく。かん、で」


 思い返せばすうは、スライムの姿だったころからなんとなく魔物の位置を把握できた気がするのだ。

 もしもこの感覚が魔物特有のものだった場合、すうの正体に気づかれる恐れがある。

 とはいえ適当すぎただろうか。ダンジョンに住んでいたから場所がわかると言えばよかったか。すうが内心で焦っていると。


「ああ、私と同じか」


 普通に納得されていた。


「ダンジョンに長く挑んでいるとわかるようになるよな。ほら、あの岩陰に蜘蛛もいる」

「えっ? ……あ」


 言われて魔素に意識を割けば、確かに天井から垂れ下がる岩の裏側に蜘蛛が張りついているとわかった。

 だけど魔素に頼らなければわからなかったと思う。一応すうはダンジョンに住んでいたのに。小兵がおかしいだけではないだろうか。


 魔素を感じると言っても小兵と同じカテゴリに入れられるだけなのでは?

 それはそれでちょっとすうとしては微妙な気分だが。


 すうは萎えそうになる警戒心を保ちながら、蜘蛛はしっかり狩った。


 すると両断された蜘蛛の体から紫色の石がからんと落ちる。


「?」


 魔物ほどではないが魔素が濃厚な石をすうはつい拾い上げた。


「お、魔石か。二階層だと珍しいな」

「ませき?」


 疑問の目を向ければ小兵が首を傾げる。


「ほら、前に言っただろ。ドロップアイテムの中でも高く売れるやつだよ」

「!? ……いわれて、ない。ドロップ、アイテムも」


 高く売れる、の部分に反応して記憶を掘り返したすう。

 しかし憶えていない。というかそもそも記憶に引っかかるものすらない。

 かろうじてドロップアイテムという単語は、スライムの時に探索者が話していたのを聞いていた。だが小兵からは教えられていないはずだ。


「んん? だって一階層で同行者としてレクチャーした時に……あ」


 小兵の声が固まった。

 少しの間、規則的に走る音だけが響き、やがて小兵が声を上げる。


「……よし、じゃあ今から魔石やドロップアイテムについて教えよう」

「え、うん」


 何かを誤魔化された気がした。


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