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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人化を覚えていざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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二話 スライム、四足歩行を覚える

 スライムはひたすらに一階層を這いずり回った。


 しかし食べ物にはありつけなかった。

 落とし物自体には何度か遭遇したものの、どれもカロリーブロックのような衝撃は受けなかったのだ。

 もしも食べ物が落ちていても、移動速度の遅いスライムでは広大な草原から見つけることができない。


 スライムは精神的な疲労を感じ始めていた。


 睡眠も休憩も今までのスライムには必要なかった。ただ草や死骸を溶かし、徘徊する。それだけがスライムの生だったのだ。


 だが今のスライムは違う。

 『あの味』をどれだけ求め続けても手に入らない。そんな事態が、強烈な食欲を獲得してしまったスライムにはあまりに苦痛だった。


 スライムは飢えに飢えた。

 いつも溶かしている草はいくらでもあるが、もうそれに見向きもしない。食べなくともスライムの体にはなんの異常もなかった。

 だが精神は別だ。『あの味』だけを渇望して飢える、飢える。狂いそうなほどのストレスがスライムの精神を波立たせる。

 本来スライムにはない『餓死』を感じさせるほどだった。


 どうにかしなければならない。

 疑似的な命の危機に瀕して、スライムは初めて思考をした。


 ただ本能のままに動くのをやめ、ぴたりとその場に止まって体を震わせる。人間でいえば考えに没頭するような仕草をしばらく取っていた。

 そしてしばらく。


 スライムは突然にゅんと、直立するように体を伸ばした。

 さらに体は変化し、上半分に二本の突起を作り、下半分は二又に分かれていく。

 それはまるで人間の腕と足のようだった。


 スライムは自分より早く動くものの形を真似たのだ。

 液状の体は自由に形を変えられる。

 どんな姿にもなれるのがスライムの特技でもあった。


 スライムはそのまま一歩踏み出そうとして足の部分を持ち上げ……だがバランスを崩して全身がたぷたぷと揺れる。


 液状だからこそ形は安定しない。二足歩行はスライムにとってまだ難しかった。

 スライムは諦めずバランスをとっていたがやがて体は前のめりに倒れ始める。

 倒れるのを嫌がるように、スライムは上半身の突起を地面に突き立てた。


 その瞬間、体が安定する。

 二又の足と二本の突起はバランスをとるのに最適だったのだ。一本の足を踏み出しても、残りの三本が支え続ける。スライムはそれを繰り返し続けた。

 最初は不慣れだったものの、少し歩き続ければ這うよりよほど早く動ける。


 一階層初――四足歩行スライムの誕生である。


 スライムはてこてこ歩き回った。

 亀の歩みが亀の走りになったという変化ではあるが、亀は意外と早く走るのだ。地上に上がった亀を川に返そうとすると、いきなりトカゲみたいな走り方をして逃げ出すからびっくりするのである。


 それはともかく。

 移動速度が上がったからか、それとも偶然か。スライムは四足歩行を始めて間もなく食料の落とし物に行き当たった。

 草をかき分けてスライムが見つけ出したのは、オレンジ色の箱と銀色の包みと――かじりかけの四角いブロック。


 探索者用栄養食品、『ダンジョン・カロリーブロック』。

 二度目の邂逅である。


 探索者向けに栄養を調整した一品。

 箱の形が中世ファンタジー風の模様になっていたり、ブロックの表面にそれっぽい紋様が刻まれていて、雰囲気を味わいたい探索者には受けがいい。


 だがスライムには箱も包みもどうでもいい。重要なのは中身だ。

 スライムの感覚はカロリーブロックに全て集中していた。

 四足歩行で瞬時に近づき、噛みつくように丸呑みして、溶かし始める。


 その瞬間、再びスライムの全身に衝撃が走った。


 ぶるぶると尋常ではないほどに体を波立たせながら、求めた味を全身で感じるスライム。

 スライムは、今度の衝撃を未知のものとして処理することはなかった。一度目の経験を活かし、今回のカロリーブロックの『味』を感じていたのだ。


 カロリーブロックを体の中で動かせば、ぼっくり折れて、ボロボロと崩れていく。そしてじんわりとした甘味が来たかと思うと、後に僅かな苦みが染みてくる。


 表す言葉こそ持たないものの、自身の感覚を総動員してスライムは『味』を求めていく。


 やがてカロリーブロックをスライムは溶かし切ってしまった。

 名残惜しむように丸まっていたスライム。


 だがすぐまた体をにゅんと伸ばし、四足となる。

 そしてさっきまでとは打って変わって、安定などかなぐり捨てて全力で四足を動かし走り始めた。


 スライムは強烈な成功体験を得てしまったのだ。

 移動速度を上げたとたんに食料に行き当たった。

 すなわち、速く動けばそれだけ食料に行き当たる可能性が高い、と。


 当然そんなスピードを制御できるはずもなくこけて地面へ突っ込む。べちゃりと体が飛び散り、体積が僅かに減った。

 スライムの命はその体積だ。減り続ければ死ぬ。

 しかしスライムは知っている。死骸を喰えば自身の体は少し増える。


 そして一階層のどこかでは、探索者によって死骸は常に発生し続けている。


 早く走れば死骸に辿り着き、体積を増やせる。辿りつけなければ死ぬ。

 だが、人の食料さえ味わえればスライムは死んでもいいのだ。

 命をかけてでも成長する方に、スライムは生の舵を切った。



 ――やがて数日後、四足で爆走するスライムの噂が探索者間で出回ることとなる。


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