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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人化を覚えていざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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一話 スライム、よろこびに目覚める


 西暦2011年、世界中に突如としてダンジョンが出現した。

 人々が惑ううちに、ダンジョンからは魔物があふれ出て世界を更なる混乱へ叩き落とす。

『迷宮災害』の発生だ。


 人類はどうにか魔物を駆逐して自分たちの生存圏を守ることに成功する。しかし被害は甚大で一朝一夕に復興できるものでもない。

 そのうえ原因であるダンジョンは消せなかった。

 ダンジョン内部へ突入した各国の軍隊は、物理法則を無視した広大な空間と、溢れ出したよりも膨大な魔物の群れに撤退することになったのだ。


 だが荒れはてた世は、ほかならぬダンジョンによって急速に再興することとなる。

 ダンジョン内へ突入した者たちは様々な物資を持ち帰った。

 エネルギー、未知の技術、未知の素材。中には人類の技術を飛び越えたものも多く、あらゆる国がダンジョンの破壊より解明と探索を優先した。


 突如湧きだした脅威と恩恵を同時に抱え、世界は新たな時代に突入したのだった。




 そしてダンジョンの出現から十五年後、2026年。


 ――『神迷(しんめい)』と呼ばれるダンジョンにて、少し変わった事態が起こることになる。


 『神迷』とは、兵庫県南区画の神戸ダンジョンのことだ。

 ()戸の()宮だから通称『神迷』。仰々しい意味はなかったりする。


 しかし広大さでいえば名前にふさわしく相当なものだった。

 降りてすぐの一階層ですら果てが見えないほどの広大な草原となっているのだ。地下にありながら空は青く太陽もないのに暖かく、どこからか吹き抜ける風が草を揺らす。


 そんな草原の足元で、もぞもぞと動く姿があった。


 プルンとした体を持つ、緑色の水まんじゅうのような見た目。


 スライム。

 ダンジョンに生息する魔物の一種である。


 動きは遅く凶暴性もないため一階層でも雑魚として扱われているものだ。

 だがその動きのなさと保護色によって発見しづらく積極的に狙われもしない。


 だからこそ、近くで戦っている者たちにも気づかれていなかった。


「ぅおらぁ!」


 スライムの体からいくらか離れた場所で、巨大なカタツムリの殻が砕かれた。

 スライムと同じ魔物が、ダンジョンに入ってきたもの達によって倒されたのだ。


「はぁー、これで五体目」

「おつかれ、これで五体討伐。換金条件達成だね」


 上から降ってくる音がごくわずかにスライムの体へ振動を伝えてくる。

 ただ言葉を解さないスライムにその意味はわからなかった。


「ようやくかよ。もう二時間も経ってるのに、ようやく装備のレンタル代稼げたぐらいって。ダンジョンってもっと楽に稼げるんじゃねぇの?」

「一階層はもうどこもこんなものらしいよ。危険性が少ないから大勢潜って、魔物も狩りつくされてリポップにも時間がかかるんだってさ。まさか換金条件の魔物五匹討伐すら難しいとは思わなかったけど」

「ほんとだよ! つーかこんなに広いとも思ってなかった! クラスでさぁ、半分ぐらいの奴がダンジョン潜ってるって言ってたじゃん。あいつらほんとはちょっと入っただけなんじゃねぇの? こんな疲れるみたいなこと誰も言ってなかったし」

「あー、そうかもね。でも何人かはにやにやしてたから、気づいてて言わなかったやつらもいると思う」

「くっそ、あいつら。ドロップもしょぼいし。なんだこれ、カタツムリの殻?」

「買取価格は……何個かまとめたら百円ぐらいだって」

「集める方が手間かかるじゃねーか! 動画だともっとバタバタ倒してたし、ドロップも大量だったのに」

「そりゃ動画だからね。裏ではやっぱり仕事として色々準備してるんじゃない?」

「『Monster』のシンとかは趣味でやってるって言ってたけど」

「……あれ、真似できる?」

「無理。あーあ、もう帰るか」

「えっ、すぐ二階層まで行くって言ってなかったっけ……」

「元は取ったしいいじゃん。明日学校だぞ」

「レンタル代金分だけ稼いで終わりかぁ」

「バッティングセンター行ったようなもんだ! ていうか腹減った! なんか食べるか……」


 ごそごそと人が動いた直後、何かが落ちる振動をスライムは感じ取った。


「あれ? やべ、カロリーブロックどっかで落としたかも」

「えっ、それまずくない? 魔物の気を引くようなものは落とさないようにって言われてるのに。万が一、魔物が食べ物に興味を持ったりしたら地上に来るかも」

「いやまあ……いいんじゃね? 『一階層ならこれぐらいはまあ』って見逃されたし。そもそも魔物が最後に出てきたのって十年ぐらい前で、その時も普通に対処できたんだろ?」

「そうだけどね。探しには行った方がいいんじゃないかな」

「……こんな広いとこを?」

「……一応、一応探して、見つからなかったら報告しよ」

「まあそうするかー」


 ガサガサと足音が辺りを歩き回り始めた。

 スライムはじっと動かないでいると、やがて足音は遠ざかり始めた。




 人がいなくなったと判断して、スライムはのっそり草むらから這いだした。

 目指すのはすぐ近くに残された魔物の死骸だ。


 スライムの食事は基本的に草を溶かして吸収する、というだけだ。

 ただスライムたちは草食というわけでもなかった。


 魔物の死骸が近くにあればそれを優先して食べにくるのだ。

 なぜそうするのかスライムたちもわかっていない。そもそも疑問にも思わない。

とはいえ他の魔物を倒したりもしない。偶然死骸があったなら食べに行くだけだ。


 何度か動画にされたことがあるとはいえ、取り立てて珍しい行動でもない。

 ただ、今回は少し変わったことがあった。


 ダンジョンに吸収され、少しずつ溶けていく魔物の死骸。

 そこに、人が落とした『ダンジョン・カロリーブロック』が引っかかっていたのだ。


 魔物の死骸をわざわざ改めたりはしなかったのだろう。とはいえ普段は問題ない。

 ダンジョンへ落としたものは、生き物でない限りそのうち吸収されるのだ。


 ただ、たまたま魔物の死骸に引っかかっていたことで、ダンジョンに吸収されるのが遅れて。


 思いがけず――スライムが『ダンジョン・カロリーブロック』へ接触した。


 スライムはカロリーブロックを異物と判断したりはしない。そんな知能はない。

 包装ごと体に取り込み少しずつ溶かしていく。


 そして、完全に包装を溶かして、やがて薄黄色のカロリーブロックを溶かし始めた、その瞬間。



 スライムの全身が弾けるように激しく波打った。



 初めての味、匂い、触感――天地がひっくり返ったような衝撃!!

 カロリーブロックを溶かすたびに、筆舌に尽くしがたい衝撃がスライムを襲う。スライムの全てが刺激を受け取る。


 体が波立つのを感じながら、スライムはカロリーブロックを一瞬で溶かしきる。

 普段はゆっくりと草を溶かすだけのスライムが、一瞬にして。

 誰かが見ていたら、それはご飯をがっついているようにも映っただろう。


 その後しばらくぼうっと佇んで――スライムは猛然とどこかへ這い始めた。


 次の味を求めて。


 その日、スライムは人間の食べ物の味を――いや、美味しいものを食べる喜びを覚えたのだ。


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