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ダンジョンで現代の味を覚えたスライム、人化を覚えていざファミレスへ ~お金が必要? じゃあダンジョンで稼ごう~  作者: 海山 鍬形


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十一話 すう、ファミレスの正体を知る

 初めての地上の食事は大満足で終わった。


 重湯を食べ終え、食器が回収されたてしばらくしてもすうはぼんやり天井を眺めている。

 口元には薄く笑みが浮かべられて悦に浸っているのがよくわかった。


 ただそんな状態でも、看護師が去り際に残した『夕食はまた別のものになりますからね』という言葉はしっかりと捉えている。


 食べ物が! 何もせずとも! 運ばれてくる!


 すうは極楽気分だった。

 だが至福の時間は外からの声で途切れることになる。


「すうちゃん、楽しんでいるところすみません。これからのお話をさせてくれませんか」


 ぼんやりした意識で声の方を見れば、そこには赤くはれた目の松の木が姿勢正しく座っていた。

 目を打ち据えられたかのような腫れ方にすうは目を丸くする。


 なぜ何もないはずなのに涙を流したり、顔を腫らしたりするのか。

 ここへきてからのすうにとって一番よくわからないのが松ノ木の生態だった。


 驚きと共に陶酔が去ったので、もったいない気分になりながら松ノ木と向き合う。


「ありがとうございます。まず、すうちゃんはこれから地上で暮らしてもらうことになると思います。それでですね、地上に親族がいるならその人に保護してもらう形になるんですが……誰か、すうちゃんのことを知っている人は思いつきますか?」


 すうは首を横に振る。元スライムにそんなものはいない。


「やっぱり、そうですよね。それだとダンジョン災害児童の養護施設へ入るのが一番……」


 松ノ木の小声をすうの耳が拾う。

〝ようごしせつ〟が何かすうは知らない。だが人は集まって暮らすものだというのは理解していた。


 このままだと恐らく人の集まりに放り込まれる。

 少しの間ならともかく、長い時間を人と暮らすなんて気が休まらない。すうは不安から反射的に声をあげていた。


「だい、じょうぶ。ダンジョン、かえるから」


 だがそう言ったとたん松ノ木の眼光に射貫かれてすうは冷汗をかく。


「すうちゃんがダンジョンに入るのは、人道的にも法律的にも難しいでしょう」

「じんどう、ほうりつ……?」

「まず、すうちゃんは自分がおいくつかわかりますか?」

「いくつ?」

「生まれてからどれぐらいたったか、ですね」

「めちゃくちゃ」


 両手を広げてすうは答える。飢えに飢えたあの日々は恐ろしく長く、辛かった。

 ただそういうことではないらしい。松ノ木は「がんばったんですね」と頷きながらも説明を続ける。


「この国では基本的に誰がいつ生まれて、今いくつなのかというのは管理されています。そしてダンジョンに潜れるのは十五歳以上からなんですね」

「……じつは、十五さい」


 自分を指さして言うすうだが、松ノ木には首を横に振られた。


「検査の結果すうちゃんの体は十二歳ほどだと判断されています。ですからあと三年ほどはダンジョンに潜れません」

「で、でも、これぐらいの人、いた」


 自分の身長より少し高いあたりにすうは手をやる。


「それぐらいの身長の人というと……ああ、小兵さん。彼女はちゃんと大人の女性だとわかっていますから。まあ、確かに彼女がダンジョンへ潜ったのは十四歳の時で、それが特例にもなっていますが」

「じゃあ」

「ですがそれは『迷宮災害』発生時にまだ法律が定められていなかった時のことです。それに特例だって十四歳からです。すうちゃんはいけません」


 ぴしゃりと言われてすうは俯く。

 まさか戻れないとは思っていなかった。


 地上に来たのはあくまで食べ物を求めてのことだ。

 もちろん一口食べられれば死んでもいいと考えてもいた。だが生き延びた以上はまだまだ様々なものを食べたいのだ。

 そのためには油断ならない人間たちの住処より、ダンジョンで過ごしたい。


 どうにか行き来できる方法がないか考えを巡らせていると、松ノ木の声が慌てだす。


「だ、大丈夫です。ほら、すうちゃんは食べるのが好きでしょう? 施設なら一日三回ごはんを用意してもらえますよ」

「じゃあ行く」


 油断ならないとか人間の住処とか、そんな考えをすうは一瞬で隅に追いやった。

 死にたくはないが死よりも重視されることがある。すうにとってごはんがそれだった。


「そ、そうですか」


 すうの変わり身の速さに流石の松ノ木も困惑していた。

 だがすうは気にせずベッドの上で期待に体を揺らしている。


「ごはん、なにがでる?」

「詳しい献立はわかりませんが、栄養士さんがすうちゃんたちの体を考えて作ってくれますよ」

「あ、ファミレス! ファミレスはある!?」

「ファミレス? ……ああ、すうちゃん。ファミレスは食べ物ではなくお店の種類ですね」


 さらりと明かされたファミレスの正体にすうが動きを止める。


「……おみせ というと。おかねで、かう」

「はい、お金を払って料理を出してもらうところですね。ファミリーレストランといいます」

「レストラン……なんかはいりづらい、やつ?」

「ファミレスははいりやすいやつです。大丈夫ですよ」

「ハンバーグとか、パンケーキ……?」

「そういったメニューがあります。その他にもたくさん」

「……ファミレス、っていうのは、ない?」

「恐らくメニューとしてはない、ですね」


 そういえば探索者は『ファミレスに行きたい』と口にしていた。ファミレスそのものを食べるとは言っていないのだ。

 まさかの正体に衝撃を受けるすう。


 いくつも妄想した『ファミレス』という料理の像が砕けていく。

 もちろん『ハンバーグ』も『パンケーキ』も食べたいとは思う。しかし肝心の『ファミレス』がないなんて。


 しかも衝撃を受けているすうに気づかず、松ノ木が爆弾発言を放り込んできた。


「ああ、でも……養護施設だとファミレスへ行くのは難しいかもしれません」

「!!?」


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