6 浮かび上がる四百四十四年前の二人の姿
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王城の奥の禁書庫。
「ここが禁書庫だ」
ヴァン様に連れられて王城の奥の禁書庫に来た。場所は王城の王族専用の生活の場。最も高い尖塔の下辺り。
確かにここまで入ってこれる人は少ないわね。
扉にヴァン様が軽く触れると、扉が震えて開いた。
視線で促されて中に入る。
お部屋が丸い、壁には古い壁画が描かれている。
「綺麗な壁画があるのですね」
ヴァン様が私の顔を見つめる。
「ここは尖塔の下だったのですね」
ヴァン様は頷いて無言でどんどん奥に進み、中央の辺りで立ち止まられた。
「ララ」
「はい」
「この部屋の中で気になる場所を教えてくれるか」
気になるところ?
私はヴァン様の隣で、ぐるりと一周を見渡す。
綺麗な壁画。
やっぱり壁画が気になる。壁画に近づき、絵を見て行く。
物語が描かれているようだわ、そしてある場所で足が止まった。
見覚えがある?
そんなはずはないけれど、なんて綺麗な場所。
湖の中央に、真っ白な神殿が浮かんでいる。
何故か涙が出そうになって、思わず触れてしまった。
「えっ?」
その壁画の湖の水がさざめきだし、手を引っ込めて、ヴァン様を振り返ろうとしたら、後ろから抱き込まれるように包まれた。
そして私の後ろからヴァン様が手を伸ばしてそのさざめく水に触れると、人が一人通れるくらいの大きさに金色の枠が浮かび上がる。
え?何これ。
「ララ、この湖に触れて」
私がもう一度、恐る恐るさざなみに触れると、金色の枠が更に広がった。
ヴァン様に手を引かれ金色の枠の内側を通り抜けた。
壁にぶつかるかと思ったわ。
そこには更に塔の上へ続く螺旋階段。
上がりきったら行き止まりになっている。
人二人がやっと立っていられるくらいの踊り場しかない。
その壁に百合を図案化した紋章が刻印されている。
ヴァン様が、私の手を持ってその紋章にペタリとつけ、その上からヴァン様の手を重ねる。
扉が現れた。
でも、この壁の向こうは塔の外でしょう?
開けたら落ちる。
ヴァン様がため息をつく。
「やはり、ララも入れるのか」
「入れない人もいるのですか」
「ああ、王族でも入れない者がいるらしい。まず、下の禁書庫自体に入れないのだ」
「えっ、でも禁書庫の入り口はありました」
ヴァン様が笑う。
「ララには見えたが、あの入り口が壁にしか見えない者がほとんどだ。王家の血筋は、幼い時にこの塔に一人で遊びにくる。入り口が見つかった者にだけ禁書庫が教えられる。見えるものだけが王位継承権を与えられる」
そんなすごいところ。
「そしてその妃になる者も試される。見える者と見えない者がいる。見えるものが正妃になる」
そんな決まりがあったなんて。お妃様が決まるのは魔力だけではないのね。
「この四百年くらいで、尖塔の上まで来た女性は、ララ、あなただけらしい」
「ええっ、だってあの壁画は」
「下の禁書庫の壁画が見えないそうだ。この中の書物に記されていた」
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尖塔の上の禁書庫
ヴァン様に手を引かれて、塔の壁を抜けると、そこは下の禁書庫よりも広かった。
大きさがおかしい。尖塔の上なのに?
いや、そんな事に驚いている場合じゃない。
絵画の湖は水が動いてるし、見えないって言われても見えてるし。
「ララ、ここからは、互いに気になる本を探せばいい」
「えっ?」
「必要な本は何故か目に入ってくる。私は背表紙が光って見える。ララはどんな風に見えるかわからないが、とにかく見渡せばわかる」
そう言ってヴァン様は、本棚の前をゆっくりと歩いていく。
さあっと風が吹き抜ける。
えっ?
風って、どこから吹いてくるの?
私は風が吹いてくる方向へ進んでみる。
嘘!何これ?
叫びたいけれど、声も出ない。
床がお庭?白百合の花がたくさん咲いている。
クレサールのお花畑みたい。
部屋の中でしょう?
そして、本が花より上の宙に浮いている。
その本は、スーッと飛んで来て、私の手の上に収まった。
「……ヴァン様、ヴァン様」
私はやっとの事で、声を出した。
「どうした、ララ。なんだ!これは」
二冊の本を手にしたヴァン様も立ち尽くす。
「どうなっている」
「まるで、クレサールのお花畑、いえ、グラサージュ公爵家のお庭?あの大きな木、公爵家の木と同じ形に見えるのですが」
「ああ、私にも、同じに見える」
「木にうろがありましたよね」
「確認したいが、とにかく先に本を読んだ方がいい」
二人で話していると、もう一冊、本が飛んできて私の本の上にスッと載った。
「もう一冊増えました」
私の手の上にある本のタイトルはこうなっていた。
《ウィンザー王国・ブーレ湖画集》
《ウィンザー王国・ブーレ湖の戦いと封印》
今から、えっと、四百四十四年前?
そしてヴァン様が手にしておられた二冊の本。
《大魔法師・雷神エルラールと聖伝輝をもつ妹》
《ウィンザー王国の歴史、エドワード・ルベール・フォル・ウィンザールの治世編》
ヴァン様と私はとにかく全てを読んだ。
——ウィンザー王国、リリエル王妃は、神々に愛されし女神として聖伝輝を与えられ、国王ルベールと共にウィンザーを護り抜いた。
その容姿は、国王ルベールがこよなく愛した煌めく銀色の髪と淡い菫色の瞳だった——
画集を見ていたヴァン様が、声を上げる。
「ララ、ここを見てくれ。この画集の中の王妃とララが瓜二つではないか。あなたは生まれ変わりなのか」
「まさか」
「しかし、どう見てもララだ」
「だったら、ヴァン様だって、この大魔法師エルラール様みたいですよ。瞳の色は違うけれど、このさらさらキラキラの銀髪とか、魔法を放つ時の立ち姿がそっくりなんですけれど」
互いに顔を見合わせる。
「まさか、過去世では兄妹だったのか」
そんな事ってあるの?
唖然としていたら、ヴァン様が私をまじまじと見つめる。
「ララ、前から気になっていたのだが、最初に会った時に少し触れた事があっただろう。胸が痛くなって。ダークミストのせいかと思っていたが、そういう痛みではなかった」
「あ、それなら、私も、ドクンって、胸がぎゅうっとなって、何度もありました」
「婚約してから、それが消えたと思っていた。ララは?」
「私も、ドクンが消えました」
「魔力の共鳴みたいなものなのでしょうか。それか過去の人生で?」
「過去世などわかるはずがないだろう」
「そうですね。でも下の禁書庫の壁画の湖と神殿が懐かしく感じたのです」
「うむ、いや、私はクレサールの花畑とそこで眠るララを見たときの安堵感が、忘れられない。それに、いや、なんでもない」
「言いかけてやめないでください」
ヴァン様は少し恥ずかしそうに仰った。
「最近、体調が良くなってから思い出してきたのだが、かなり幼い頃から、たまになんだが、菫色の瞳、透き通るような煌めくプラチナブロンドの女の夢を、見ることがあった。私の周りでその容姿はララしかいない」
それって私?
私まで恥ずかしい。
今は先に本を読んだ方が良さそうだわ。
——リリエル王妃の兄であり世紀の大魔法師と呼ばれたエルラール・ブラックウェルは、世界を救うため、闇の王が生贄と欲する乙女を護るため、地獄のゲートを塞ぐ結界柱としてブーレ湖深く沈み、その生涯を閉じた——
これは?
一体、何?
大魔法師・雷神エルラール。
生贄の乙女。
結界柱って?
地獄の門が開く?
不定期更新ですが、更新頻度を増やしています。完結します。
四百四十四年前の出来事は《お人好し令嬢の異世界婚活記1ー婚約するたびに人生が終わってしまうので神様に異世界修行に飛ばされました》の内容です。




