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お人好し令嬢の異世界婚活記3〜白百合と蒼金の誓い  作者: カンテラ澪


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5 十一年前の真相とヴァンドール様に迫る脅威

ナステイルの討伐が終わって、続け様に王都近郊の数箇所でダークミストが発生し、全ての第一、第二、第三魔術師団が持ち回りで出動し、そのどれにもヴァン様と私は同行していた。


どこも大きな被害を出すことはなく殲滅はできていた。

民たちがその様子を見ていて広めたこともあり、王都を含めた周辺地域は混乱もなく落ち着いていた。



討伐後、私はヴァン様に連れられ、王妃様のところにお邪魔していた。

初めて同行した討伐から気になっている事があるけれど、一緒にいるのに聞く時間がない。今日こそ帰ってから聞いてみよう。


「私はジュリアス王太子殿下に報告がある。終わったら迎えに来るので、ここから動かないように」

そう言ってヴァン様は私の髪に口付けを落とし、ジュリアス王太子殿下のところへ向かわれた。


⌘

王妃のサロンにて。


「お母様お久しぶりでございます」

「ペルラ、やっと会えたわね」


デビュタントのあの日から、お母様は王城で王妃様のお側に仕える事になり、急に会えなくなっていた。


バルトランザ侯爵家の陰謀が、あまりにも周到過ぎて、ヴァン様とアデリーヌ様との婚約解消で何が起こるかわからず、王家とグラサージュ公爵家がクレサール家のそれぞれに安全な場所を選んでくださったらしい。


お母様は王妃様の側近として、私はヴァン様の婚約者。王族に近い場所ほど警護は厚くなる。

お兄様はクレサールの領地へ帰られているけれど、グラサージュ公爵家の騎士団が駐留している。

お父様も王城でグラサージュ公爵様の補佐として王城につめておられる。ほとんど会えないけれど、誰がどこにいるのかわかるだけでも安心。


お母様がお元気そうでホッとした。


「何も話せず、文も出せずにごめんなさい」

「いいえ、お母様。私達やクレサールの領地を守ってくださっているのですもの、感謝しています」


王妃様から直々にお話があった。


「十一年前、バルトランザ侯爵から、王立治癒院長のマルイ先生や特級治癒師の先生達が不正をしていると、王家に報告があったのよ」


その頃って、確かヴァン様がダークミストに遭遇した頃かしら。私は急に緊張してきた。


「本当か嘘かは別にして、まことしやかな証拠が揃っていて、マルイ先生達は反論の証拠を出さなかった」


あれ?気になって聞いてみる。

「出さなかった、のは、あったけれどあえて出さなかったのですか」


王妃様が微笑む。

「さすがにバイオレットの娘ね。文官になれるわよ」


「ペルラ、王妃様がお話ししてらっしゃる時は静かに」

「……はい、お母様」


「いいのよ、今は人払いもしているし、私たちだけだから。でもバルトランザ侯爵は、治癒院の権威が失墜しないように、表向きは院長交代だけにして、人員を刷新しようと交換条件を出してきたの」


「おかしいです。不正なら罰して、新しい治癒師から院長を選べばいいのでは」


「ペルラ、合っているわ。特級治癒師は全員免職。公にしてなかったけれど、マルイたち特級治癒師は、国にとっても大切な人財。でもあまりにも急に起きた出来事で、治癒師を逃がすために免職するしかなかったの」

「……もしかして、バルトランザ侯爵は、治癒院長になりたかったのでしょうか」


王妃様は頷き、扇をパチンと閉じて、話を続けられる。


「そう。でも目的がわからない。王家は泳がせることにした。陛下の弟であるグラサージュ公爵もずっと調査を続けていたけれど、なかなか尻尾が掴めない。それがまさかヴァンドールとペルラが知り合っていた事から、全てが繋がったのよ」


「では、翌年、私が治癒院の試験に落ちたことも?」


「あなた、お父様に『左だから落ちた』と話したのは覚えているかしら?」

お母様が尋ねてくる。


「ええ、もちろん。だって受付で、名前と年齢を確認されて八歳以下の女の子は全員左の列だったの。でも一人だけ同じような年恰好だった女の子が右の列だったから覚えていたわ。周りがバルトランザ侯爵令嬢って大騒ぎだった」


「それを、不思議に思ったお父様は、その辺りで不合格だった人達を調べ、聖魔法が覚醒しているのにも関わらず、試験の時に左側の列に並んで不合格になったことを突き止めたけれど、子爵家当主では上奏などできないわ」

お母様は扇を握りしめている。


「あの日、治癒師試験が終わってすぐにクレサールへ帰ると言われて、帰路はマルイ先生とパルセル先生達の馬車がついてきてたのよ」


私が説明すると、その後にあったことを、お母様が話してくださる。


「そう、あの日、マルイ先生の弟子パルセル先生の姪も試験を受けに来ていたのに、左側にいて不合格になり、治癒院の出口でお父様とパルセル先生が偶然に。クレサールは特級治癒師との繋がりが深いから」


お母様の仰る通りだわ。

特級治癒師にとってクレサールは良質なポーションの入手先。

ほとんどの治癒師はお父様と面識があって当たり前だった。


「では、お父様が様々な方法で治癒師の先生方を手助けしていたということなの?」


王妃様が身を乗り出す。

「そう。ヴァンドールがあなたがクレサールの姫だと気がついて、デビュタントでダンス騒ぎを起こした。その後すぐにヴァンドールがグラサージュ公爵に話し、クレサール子爵とバイオレットを引き止めた。ペルラは先に屋敷に帰ったでしょう?あの時、既に近衛騎士を護衛につけていたの」


それは初めて知ったわ。

「じゃあ、もしかしてヴァンドール様はわざとあのダンスを」


「ええ、わざと大袈裟にした。でもそれとは別に、ジュリアスにあなたを取られたくなかったらしいわ。私はあなたがジュリアスの妃でも良いと思っていたから。陛下もその気だったし」


ええっ?何でそんな話が?

王妃様は笑いながら仰る。


「陛下は私が王太子妃の頃から、私の側近だった聡明で美しいバイオレットを気に入っていたのよ。側妃にするならバイオレットがいいって。私もそのつもりだったんだけど。クレサール子爵に取られちゃったのよ」


お母様って、時の王太子殿下の側妃候補だったの?

「で、陛下がジュリアスの正妃にほしいって言い出して、そしたら先に甥っ子のヴァンドールに取られて。親子二代で。笑っちゃうわ」


王妃様、そこは笑わないでください。

お母様も何故か笑っている。


「それはさておき、ヴァンドールがペルラを持ち逃げして、色々な事が繋がったわ。この十年余りのバイオレットの働きも大きかった。王家とグラサージュ公爵家の情報網を使っても調べられないほど、子爵は特級治癒師達を上手く隠して保護していた事がわかった。でも最近、ヴァンドールたち魔術師団は、とてつもない魔力量を使って特級治癒師達の居場所を確定していたのよ」


今ならわかる。それがあのデビュタントの夜から翌朝にかけての出来事。

「ヴァンドールの報告で、十一年前からの流れが繋がって、陛下と公爵はすぐに動いたわ」


「ではお兄様がすぐにクレサール領へ帰還されたのは……」


お母様が頷かれる。

「マルイ先生たちを守るためよ。マルイ先生は、免職になった時、代々の院長に受け継がれてきた治癒院の機密書類を、咄嗟に治癒院の秘密の場所に隠しているの。特級治癒師レベルの聖魔法がないと開かない場所らしいわ。バルトランザ侯爵は未だに気づいていないみたい」


まだあるの?

お母様は続ける。マルイ先生はその一部の証拠を、治癒師試験の時の混雑に紛れて回収しに治癒院に来てらした。そしてお父様と再会し、クレサール領へ来られたのだった。


「でも、なぜ」


「そこなのよ。バルトランザ侯爵の陰謀なのはわかってる。でもそれなら先にジュリアスの婚約者を狙ってもいいはずなのに」


ああ。

私は、気がついた。きっとヴァンドール様も気がついているはず。

アデリーヌ様がヴァン様を害していたのなら、狙いはヴァン様のお命。

もしヴァン様が倒れたら、黄金の風は使えない。王国はあっという間にダークミストだけの荒れ地と化す。ジュリアス様のお命よりも脅威はヴァン様。

え?誰にとっての脅威?

そしてアデリーヌ様がダークミストを操っていることもおかしい。

あえて口にできなかった。


私は寒気が背中を這い上がってくる気がした。

ヴァン様のお側にいないと。




王妃様は仰る。

「討伐の様子も聞いているわよ。あなた達二人の愛の絆だと、王都中で語り継がれているわね」


それはちょっと恥ずかしい。


王妃様がコロコロと笑ってらっしゃる。

「ペルラには感謝しているわ。ヴァンドールが魔力を発揮できるのは、あなたの聖属性も治癒魔法があるからよ」


私は居ても立ってもいられず、無性にヴァン様に会いたくなった。



⌘

その後まもなくヴァン様が迎えにきてくださって公爵家へ帰る。

夕食後、ヴァン様の部屋でお話をしていて、気になっていた事を尋ねた。



「ヴァン様、ずっとお聞きしたかったのです。黄金の風を発動される時、無詠唱なのに聞こえるんです」


「無詠唱だぞ、声も出してない。何か聞こえるのか」

ヴァン様が私の顔を覗き込む。


「ええ《全てを御許に》って」


「言ってない。それなら、ララは初めて会った時から、治癒をかける時に言っているぞ」


「えっ?無詠唱ですよ」

そう言えば、最初の治療の時に、何を言ったかって何回も聞かれた記憶が。


「《身を焦がし吹き荒れる黄金の風よ、この者を癒したもう、御身の御前に安らかに》と聞こえている。討伐の時もだ」


私とヴァン様は顔を見合わせた。

相手には聞こえている。でも私もヴァン様も無詠唱のつもり。


「私は信じます。だって聞こえていますから」

ヴァン様が紙を持って来て書き出していく。


《身を焦がし吹き荒れる黄金の風よ、

この者を癒したもう、

御身の御前に安らかに。

全てを御許に》


「ララ、周りの者は無詠唱だと思っている。それにこれは、まるで古来の祈りの言葉のように見える」


「繋がっていますね」

「そうだ」

ヴァン様が腕を組んで考え込む。


「互いに聴こえるだけ。自分では無意識」


「無意識というか、治ってほしい、と心から願って治癒をかけています。特にヴァン様の場合は症状が酷いので、何とかしないと命に関わりますから。でもこんな言葉、クレサールの蔵書でも見たことないし。マルイ先生から頂いた治癒師の専門書でも見た事はありません」


「ララ、もう一つある。ラファールとガブリエルも。普通の馬は飛んだりしない」


「私は、幼い頃にガブリエルを貰ったので翼があるのは当たり前だと思っていました。でも他のお馬さんは確かに翼は見えません」


「そもそもララの、その感覚がおかしい」


「そう言われたら、キイーーンって鳴くのもおかしいですね。ラファールはヒヒーンと鳴くときもありますが、ガブは、フンフンとキイーーンです」


「ラファールは魔術師団で普通の馬との付き合いがあるからな」


「ガブはいつも私と一緒ですから。でも厩舎にいるとき、鳴いたのを聞いたことがないです」


「ガブリエルが小さいときは、ララは部屋に入れていたんだろう」

「えっ、何で知っているのですか」


「オルキスが魔術師団に所属していた時に言っていたぞ。妹が屋敷にこっそりと馬を入れて馬と床で寝ているから困るって」


やだ、お兄様ったら何を。そんな恥ずかしい話を。

「それは小さい時だけで」

「もしかして、部屋の窓から出入りして飛んでたのか」


バレてる。

「……」

「図星だったか」

「時々……」

「私とララの寝所には、ガブリエルは入れないからな」


「わ、わかっています」

「よろしい。では、今夜は私の部屋に泊まっていくか」


「なっ、私の部屋に戻ります」

ヴァン様の腕に捕まりそうになるのを飛び退いて逃げる。


「ハハハッ、婚約者に嫌われたか」

「す、好きですけれど、それとこれとは」


「ララ、明日、王城の禁書庫へ行こう。祈りの言葉と天馬。そんな書物があるかどうかわからないが」


ああ、普通に戻ってくれたわ。

ヴァン様は、時々、ドキドキする事を仰るから困る。

部屋を出ようとしたら、後ろから抱きしめられ、つむじに口付けが。


「おやすみ愛しいひと」


どうしよう。婚姻まで身が持たないわ。


⌘

そして次の日、禁書庫でとんでもない書物が見つかる。


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