第十八話 終幕の序曲 〜The Beginning of The End〜
「鏡野かと思ってた」は「和気小かと思ってた」の誤記につき2026年4月19日2字削除3字追加。
「……で、私はどうすれば良いのかな? 」
所長室の中で白鳥は誰かと静かに話していた。
「……俄かには信じがたいが、まあ話は理解した。私は早速『避難訓練』の準備に入ろう。結局のところ、黒崎くんの目的は何なんだろうね?」
「……淘汰……。そこまでは私も聞いている話です。」
「それはつまり、被験者たちを戦わせよう、ということか……。」
「ええ、これでは『かつての過ち』の繰り返しです。」
「そうか……。しかし不思議な縁だねえ。君とこういう形で再会するとは……。君のその悲痛な、『この因果を断ち切りたい』という願いが、私をここに呼んだのかもしれないね、ツヨシくん。」
「その呼び方はやめていただきたい、今は……。」
「そうか……、では滝口くん……」
「すみません。その名で呼ぶのもお控えください。その名を知らない研究員などいないでしょうから……。なるべく所長を巻き込まずに済ませたかったのですが、状況は切迫しています。それで全てを知っていただき、ご協力を仰ぐしかありませんでした……。私一人の力では限界があることを痛感しています。」
「『巻き込む』などと考えないでくれ。むしろ嬉しいよ。君がこうして私を頼ってくれたことが……。」
「すみません、本当に……。もう時間がないので……。」
「そう謝らないでくれ。妻にも去年先立たれてね。私たちには子がいなかったものだから……。古き友人の息子である君と、こうして話ができるのは、まるで自分の息子と話をしているようで嬉しいんだよ……。ところで『時間がない』とは、どういうことかな?」
「ええ……。黒崎に積極的に協力している上野が、レベル5から『あるもの』を盗み出しました。そして、ある少年に埋め込んだのです。」
「その『あるもの』とは?」
「……Sタイプ。旧時代の封印された、魔人たちの細胞です……。」
──
一方、黒崎と上野はレベル2の特別実験室にいた。
黒崎は歓喜に満ちた表情でありながら、どこか焦燥が入り混じっていた。
「どうだ? 出せそうか? アレーシュマは?」
「ええ、急ピッチで仕上げた割には安定しております。想定の70%までは問題なく出力可能です。」
「70か……。まあ上出来だろ。スペアはどうだ?」
「あちらはあと2日ほどで、発芽しそうなところまできています。」
「発芽後はすぐに食い破って出てくるのか?」
「いえ、そこは調整可能です。宿り主に寄生させたまま、いつでも取り出せます。」
「そうか。いよいよだな……。ところでビンガはどうしている?」
「どうやら各方面へ要請を行っているらしく……。」
「ふ。奴らしい。急襲作戦でもいきなりジジイを使って割り込んできたからな。あの様子では、ジジイは本当に何も知らぬまま協力しているようだが……。まあ知ったところで何もできまい。あるいは……、奴をあえて使うのも面白いか……。アレーシュマの前座として……。」
「良い考えかと思います。FRG-04と奴との差を先に確認もできます。」
「フフフ……。一番の問題は、香澄だ。アイツが、四門システムの核心に到達しようとしていることだけは間違いない。レベル5に隠された秘密を暴きたいところだが、いざとなれば悪魔どもを召喚するとしよう。」
「しかし協力を拒んでいる奴らをどのように動かしますか?」
「そのための大野くんだよ……。」
──
病室にいる鹿島以外の13人の少年たちは、レベル3の食堂に集まって他愛もない会話をしていた。
「……へ〜。それにしてもお前ら本当仲良いのな? みんな和気小(学校)の仲間ってことか? 俺は鏡野(小学校)でエンちゃん、ミゾ、マツノは一緒だったから知ってっけどよお。」(佐久間)
「そうだな。ミゾとは腐れ縁だな?」(圓崎)
「腐れ縁って何だよ、エンちゃん?」(溝端)
「手がでけえってことじゃねえ。」(香野)
「だからカンケーねえだろ、手は?」(溝端)
「オサムとクニヨシは和気小で一緒なんだよな?」(松野)
「でもクニヨシとはクラス一緒になったことない。」(高山)
「え? そうだっけ?」(安川)
「そうだよ。保育所は一緒だったけど。」(高山)
「で、コウノもそう(和気小)だっけ?」(松野)
「そう。あとはタケダとシバが一緒。」(香野)
「でも俺、小学校で同じクラスだったのは……この中じゃいねえかな。」(柴崎)
「え? あ、そっか。確かに言われてみれば。」(竹田)
「俺も和気なんだけど?」(小前)
「ああ悪い。そうだ、マエコーもそうだった。」(香野)
「ああ、お前らみんなシムと一緒で野球部だよな。」(佐久間)
「そう。小学校でも同じクラスだった。」(竹田)
「へ〜〜。あれ? オータはどこなの?」(佐久間)
「俺は井原(小学校)。少ねえんだよね。だって1クラスしかなかったし。」(大田)
「ええ? 1クラスかよ? 少ねえな。あれ? お前どこなの? 和気じゃねえの?」(佐久間)
「俺は鬼塚小学校。」(添田)
「ええ? 鬼塚? 鬼塚って、あの刑務所あっところか?」(佐久間)
「そうそう。うち刑務所のすぐ近く。」(添田)
「へ〜〜。え? 遠くねえ、あそこって?」(佐久間)
「いや近いっていうほどじゃないかもしれないけど、遠くもないよ。」(添田)
「そうなの?」(佐久間)
「おお、遠くねえよ。だって俺ん家も刑務所近えし。」(吉村)
「そうなんだ。へ〜〜。」(佐久間)
「何だ。エダって和気小かと思ってた。」(溝端)
「俺も。」(松野)
「ああジャンプ読みてえ〜。」(小前)
「ああ、そう言えば俺たちって、ここ来てどれくらい経つんだろ?」(竹田)
「1か月くらい?」(香野)
「いや、もっとだろう。」(溝端)
「こういうのはオサムちゃんかエダくんならわかんじゃね?」(柴崎)
「ああ確かに。オサムちゃん分かる?」(竹田)
「いや、ごめん。全然わかんない。エダくんは?」(高山)
「ごめん。俺も気にしてなかった。」(添田)
「多分、35日目だと思う。」(大田)
「え? お前なんで、わかんだよ?」(圓崎)
「え? だって数えてたから。」(大田)
「すげ〜。」(一同)
「でも、いつから35日なんだよ? 病院からここ連れて来られた日からか?」(圓崎)
「そう。あんときを1日目ってして数えてた。」(大田)
「オータ、オメエすげえなぁ?」(小前)
「でもよ、結局俺ら眠らされたじゃん。その日のうちにここに来たとは限んねえじゃん?」(圓崎)
「いや、分かる。」(大田)
「何でだよ?」(圓崎)
「俺の体内時計は正確だから。」(大田)
「なんじゃそりゃ?」(圓崎)
「何? エンちゃんたち、連れて来られるとき気づいてたってこと? 俺全然覚えてねえんだけど?」(佐久間)
「確かあのとき目覚めてたのって、俺とエンちゃんと、シバとタケダじゃないかな?」(大田)
「ああ〜。」(柴崎&竹田)
「そうだね。そうかもしんない。」(柴崎)
「そうすっと、今日って何日?」(溝端)
「車に乗せられたあんとき、夜中12時回ってたから日付的には、事故のあった翌日からってことになる。事故あったのが10月28日だから、10月29日から35日目だから……、今日は12月2日になるはず。」(大田)
「おおぅおおおお〜。すげえ〜〜!」(一同)
……
嵐の吹き荒れる前の、ほんのひとときの穏やかな日であった……。
(第十八話 終わり)




