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「ご依頼でしたら、お代をいただきます」 没落令嬢の調香と宮廷の内緒話  作者: 河合ゆうじ


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第六話 お茶の邪魔をしない香り

 ラウル侍従が十八人分の名簿を広げたので、リディはその下からマルタの注文控えを抜き取った。乾かした洗濯物の間へ入れる香袋を三つ。明日の朝に渡す約束で、まだ布しか用意できていない。

 白鷺棟へ出かけるはずだった午後だった。来客室の使用が長引いているため、相談の場所を香房に変えたいと、昼前に使いが来たのだ。移動がなくなった分だけ仕事が進むと思ったが、カウンターは宮廷の名簿でいっぱいになった。


「この方々が、一つずつお使いになるのですか」


「明日お見えになる方です。園遊会で評判がよかったので、待つ間にも同じものをと思いまして」


 ラウルは名簿の端を押さえた。付き添いを含めて十八人だという。リディは人数の横に並んだ到着時刻を追った。最初の客と最後の客では、三時間も違っている。


「香袋は、お持ち帰りになりますか。それとも椅子に置いておくものですか」


「そこまでは決めていません。足りないよりは、多いほうがよいかと」


 隣に立つエリアスは口を挟まなかった。リディは十八と書いた帳面に、ひとまず来客室、とだけ記した。数を揃える仕事なら得意だ。けれど、何を揃えるかはまだ決まっていない。


「評判がよかったのは、香りでしょうか。ご自分で留め外しできたことでしょうか」


「両方のお話がありました。私が伺ったのは、主にアデル様からですが」


 それなら、なおさら同じ品を十八個ではない気がした。薬の匂いに合わせ、胸の花にも合わせた香りだ。あの日の庭から花と風を抜いて、待ち時間だけを足したものを、同じ商品として売っていいのだろうか。


「待つ間は、何をなさるのです」


「お茶を差し上げます。図案や見本をお持ちの方は、それを広げることもあります」


 リディはようやく名簿から顔を上げた。茶と布と紙が並ぶ卓なら、ここにも作れる。ただし天井の高さも窓の向きも違う。店でわかることだけ確かめて、残りは実際の部屋に持ち越す必要があった。

 棚から南港の杉を取り出すと、缶の底に薄片が軽く触れ合った。半箱を買ったときには頼もしく見えた量が、十八人の名を前にすると急に心細い。これを宮廷用に分ければ、マルタには別の配合を勧めることになる。

 洗濯物に甘い匂いが残らないものを、と彼女は頼んだ。杉なら何でもいいわけではない。今回の柔らかな木の香りを、まず彼女の注文に使おうと思っていたのだ。


「園遊会の配合を、この杉で少しだけ作ります。お茶もお出ししますから、先に何も置かない状態で飲んでいただけますか」


 ラウルが懐中時計を見たので、リディは湯を沸かす間に費用を出すと付け加えた。彼は時計をしまい、名簿を半分に畳んだ。ようやくカウンターに秤を置く場所ができた。


 店の茶は宮廷のものほど上等ではないが、茶葉のほかには何も入れていない。二人へ出し、自分の分は調香台から離した窓辺へ置いた。棚の瓶を嗅いだ直後では、味まで決めつけそうだった。

 薄片の長さを揃え、檸檬の皮をわずかに加える。指先で紙を閉じたところでは、乾いた木の間を明るい香りが通った。好きな組み合わせだ。新しい杉は尖らず、それでいて古い引き出しのように沈みもしない。ついもう一度確かめたくなり、リディは鼻ではなく秤の皿へ視線を戻した。

 小さな内袋を空の受け皿に載せ、茶の横へ置く。ラウルは一口飲み、杯を見下ろした。


「茶にも檸檬を入れましたか」


「いいえ。先ほどと同じです」


 彼は受け皿を遠ざけてから、もう一口飲んだ。その仕草を見て、リディも自分の茶で試した。袋が近いと、口へ運ぶ前に檸檬が届く。茶葉の渋みまで、さっきより細く尖って感じられた。

 悪い香りではない。だから困る。檸檬の茶が好きな人には、むしろ喜ばれるかもしれないのだ。全員が同じ茶を欲しいとも、同じ香りで待ちたいとも限らない。


 リディは内袋を窓の厚い日除けの裏へ移した。昼の熱を含んだ布のそばでは、木の甘さが近くに留まる。カウンターへ戻ると檸檬はほとんど届かず、窓辺に立ったときだけ、別の商品ほど濃く感じた。

 来客室の帷も厚い、とラウルが教えてくれた。だからここでの結果を、そのまま向こうへ当てはめたくなる。しかし、窓を開けるか、何人が座るかだけでも変わるだろう。リディは配合欄に手を入れず、置き場所の欄を新しく作った。


「十八個の納品ではなく、まず二つを試していただきたいです。茶卓から離して置く分と、希望する方にだけ手元で使っていただく分を」


 ラウルは、香りが届かない席ができないかと尋ねた。リディは頷き、届かない席も残したいと答えた。言ってから、ずいぶん売り気のない相談だと思った。

 十八個なら、その分の工賃を請求できる。棚の材料が減っても、まとまった代金が後から来る。けれど二十袋の代金はまだ届いていない。支払われる予定の銀貨では家主に残金を渡せないし、明日のマルタに渡す品も作れなかった。


「試す二つも、材料代は頂戴します。来客室での置き方は、実際に見てから決めさせてください」


 ラウルは名簿の余白へ何か書き、二つなら今ここで材料代を払えると言った。相談を店で済ませた分、後日の訪問をどう数えるかも決めた。短い確認一回を今回の相談料に含め、それ以上の調整は別にする。リディは同じ内容を自分の控えに残した。

 銀貨を受け取ると、十八の数字を消すより先に、マルタの三つ分の杉を量った。紙包みを別の籠へ入れて、ようやく肩が緩む。小さな注文を守っただけなのに、宮廷の仕事を一つ仕上げたときに近い満足があった。


 ラウルは試用品の受け取りを手配すると言い、名簿を持って帰っていった。残ったエリアスは、空いた受け皿を茶器の横へ寄せた。香袋の載っていないほうを選んだ理由は、見ただけではわからなかった。


「二十袋のお支払いについて、会計へ回った日はわかりますか」


「今はわかりません。確認してお伝えします」


 彼は手帳へ書き留めた。すぐ払われるとは言わなかったので、リディも仕入れの予定を増やさずに済んだ。ありがたい返事ではなかったが、当てにできる範囲はわかった。


 茶を片づけようとして、彼の杯にまだ半分残っているのに気づいた。冷めてしまっただろう。淹れ直すか迷い、まず尋ねることにした。


「香りが邪魔でしたか」


「少し。ただ、今は離れていますから」


 リディは窓辺の袋を見た。彼にも檸檬が届いていた。当たり前のことなのに、自分には彼の香りが届かないせいで、こちらからも何も渡っていないような気になることがあった。


「檸檬のお茶は、お嫌いですか」


「茶だけのほうが好みです」


 次はそうしようと思い、次も茶を出すつもりになっている自分に気づいた。リディは杯へ伸ばしかけた手を引き、代わりにマルタの布を広げた。エリアスは急いで飲み干そうとはせず、彼女が最初の内袋を詰める間、そこにいた。

 窓の日除けから試作品を外して缶に収めると、店にはまた、杉と茶が別々に香った。リディは仕上がった一つを明日渡す籠へ入れた。あと二つなら、彼のお茶が冷めきる前に詰められそうだった。

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