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3そばにいるから

 千沙都は運動が嫌いだ。大嫌いだ。走るのも苦手だし、体力もない。走る姿が変だと昔よく笑われたのも、運動が大嫌いな大きな原因だ。どうしようもなくコンプレックスとして千沙都に根付いてしまっている。


 けれど千沙都は、今この瞬間だけは走ることが嫌いでなかった。急いで駆けた分だけ、早く一汰に会えるから。


 大好きだった金髪を思い浮かべる。


 太陽みたいに暖かくて、ひまわりを陽に透かしたみたいな色。だから千沙都はひまわりが好きだった。

 何度も頭を撫でて、叩いて、さわった髪はさらさらで、細い髪が少しふんわりしていた。


 見るたびにいいなぁと、千沙都は己の伸ばした髪を見比べていた。

 黒髪は重たくて、まっすぐで、手入れをしても一汰ぐらいのものにはならなかったと思い出す。

 やっかんで、頭をぐちゃぐちゃにかき混ぜたこともあった。


 けれど。


 一汰は中学に上がるときに髪を黒く染めてしまったから、それ以来3年、千沙都は一汰の金髪を見ていないが、千沙都は一汰の髪が好きだった。


 ―――隠さなくて良いのに。


 人と違うところを引け目に思う必要なんてないと、そう言いたかったのに、伝えたかったのに、千沙都の言葉では弱かった。千沙都一人では、駄目だった。


 悪いところじゃないのに。たとえそれが短所に思われても、そんなこと気にしないで良いぐらいの、たくさんの良いところがあるのにと、拳を握る。


 けれど、一汰が決めたことなら仕方がないと、文句を少なくした。それでも一言二言は言ってしまったが。


 髪の毛を黒く染めて、一汰はもとから髪が黒いかのように装っているという。もとから眉や睫毛は濃い色をしていたから気にしなくてもよかったらしい。

 髪の毛は痛んでいるに違いない。髪を染めて、間を開けずに染めるのだから、ケアだって難しいだろう。

 千沙都は髪を染めたことはないけれど、大学生の姉が、髪を奇抜な色に何度も染めているから、髪の毛が傷んでゆくのはよくわかっていた。

 一汰のそのままの髪の方が好きだったから、もったいないと思う。



 息が苦しくて、あえぐように上を向いて呼吸をした。足は止めない。

 いつもなら気にしてしまう、すれ違うひとの視線が、今は気にならない。


 車が千沙都を追い抜かした。



 目的地は公園。


 よく二人で待ち合わせては、他愛もない話から、傷つけ会うような喧嘩をした場所。思い出がたくさんありすぎて、困る場所。


 苦しくなりすぎて、一度足を止めた。帰宅部でインドア派がこういうときに辛い。

 膝に手を当てて、千沙都は必死に息を整えるが余計に辛くなる。体が熱くて、喉に塊を飲み込まされたみたいに苦しかった。


「……っはぁっ………」


 額に浮かんだ汗を拭って、また、千沙都は走り始める。バスケ部の一汰が見たら、笑ってしまうくらい情けない走りだろう。

 けれど、一汰は笑わないから。

 だから千沙都は一汰に走って会いに行くのかもしれない。


 走るたびに髪が揺れる。髪の毛が短い方が、断然動きやすかった。髪を切ってからしばらくたっているが、まだまだ元の長さには及ばない。


 外灯の電球の影が、どんどん増えては減って、減っては増えた。


 脇目をふらず、千沙都は走る。


 短くした髪を一汰に見せるのは初めてだ。彼はなんと言うだろうか。何年も伸ばした髪を切ったのだから、何か言ってくれると千沙都は信じている。


 似合う、と言ってくれるだろうか。

 長い方がいい、と言うだろうか。


 けれど、無愛想でぶっきらぼうで、不器用な人だから、千沙都自身が一汰の気持ちを読み取れたって、何もいってくれないかもしれないと思うと少しさみしかった。

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