第二十二話 影が帰る太陽
「さて、二人の存在は極力秘匿とは言うが……早速だがもう一人、お前たちの存在を明かしたい人物がいる」
名付けの儀式が終わったところで唐突に盛光はそう言って安宗に目を向けた。安宗は頭を下げて立ち上がり、本堂から外れる。まもなく、一人の人物を連れて戻ってきた。
現れた人物に、風牙と荊花は驚いた。
身の丈は六尺三寸(約189cm)はあろうか。だが体重は見た目で十八貫(約67kg)もないのではないかと思われ細身だ。歳は見たところ盛光と大して変わらない、二十代だろうか。目は細いが、盛光は釣り上がり気味なのに対して現れた者は垂れ目だ。
しかし驚くべき目立つところは背丈ではない。絹と見紛わんばかりの輝く銀白色の長髪を後ろに撫でつけている。さらに顔の横から伸びている耳は……長く、尖っていた。
永夫。古来よりこの日ノ本にもいて、最近は海外からも渡来している、されどなかなか目にかかれない、森の奥深くに住むと言われる神秘的な種族……それがそこにいた。
ただ、現れた者は、髪はともかく、仕草はおおよそ神秘的とは言えないものであった。しずしずと大義そうに歩く安宗に比べ、その後ろがら現れた人物は無作法にノシノシと歩き頭を掻いている。
「んー、やっと出番か。それにしてもどうしたんだい盛光。こんなところまで僕を呼び出して」
少し間延びした柔らかな高めの声。まさしく優男と言った感じ。そしてこの者も領主に向かって、砕けた調子で話しかけている。寂淵が顔をしかめた。
「天道! 寺では行儀良くせぬか!」
「おお怖い。本当に歴代の七光寺の住職は怖くていかない。そんなに怒ってばかりだと長生きできないよ?」
「永夫のうぬが言うと皮肉にしか聞こえん、たわけが」
吐き捨てるように言う寂淵に天道と呼ばれた永夫はくすくすと笑った。荊花が盛光に遠慮がちに目を向ける。この者は誰なのでしょうか、と。
「紹介しよう。この者は天道。ワシの遠い親戚よ」
「盛光のひいひいひいおじいちゃんの弟の子だね」
風牙と荊花の後ろで梢と拓が声に出して数えているのが聞こえる。ひい、を3回言ったなと風牙と荊花もこころの中で指を折った。高祖父の従兄弟からの系列らしい。
幼い少女、梢が口を開いた。
「おじい、おに、ええ……おじ、おに……おにいさんは何才?」
呼び方にものすごく迷いがでている。子どもに訊ねられた天道は嫌がるそぶりなく、細い目をさらに細めて満面の笑みを浮かべながら、両手を突き出したのち片手の指を三本折って見せた。
「百七歳。半永夫の中ではまだまだ若いからお兄さんと呼んでほしいなぁ」
その途方もない数字に梢と拓があんぐりと口を開ける。風牙と荊花も、永夫は長生きとは聞いてはいたが、実際に目にすると驚きを隠せない。
盛光が一つ咳払いをして、天道の身の上の話を続ける。
「その昔、大月に永夫がいたのだが、その永夫の姫と我が七保志家の者が駆け落ちしてな……」
「僕が生まれたってわけ!」
自分を指さしにこやかに笑う天道。それは跡継ぎに関してものすごく問題になるのではないかと、風牙と荊花は彼を見つめる。
実際揉めかけたが……天道が生まれたときには七保志家の直系でも跡取りとなる息子が生まれており、天道に家督が回ってくる可能性は小さいだろうと踏まれた。
それでも念には念をということで、天道は子どもの内からこの七光寺に入れられたのだが。
「当時の住職の記録に残っておるわ。寝坊の常習犯……二度寝を叱れば『人生長いんだから』と言い訳ばかり」
低い声で呪いのように彼の悪行を上げ始める寂淵。永夫の冗談だよ、と天道は笑うが寂淵は止まらない。
「勉学も興味がない分野はとことん嫌いで読経中に居眠り……子守唄にちょうどいいなどと言う始末。畑を耕せば芋だけではなく茸も育て始め……」
「えー、茸は植田の名物になってるからいいじゃん」
「反省しておらんのかうぬは! まあ、確かにあの茸はそれだけでなく、飢饉の時に皆が飢えをしのげたのも大きいが……」
不満そうに言う寂淵。彼は続ける。そのような破戒僧よろしく自由奔放な天道は出奔しおった、と。
寺を出た天道は地元で玩具屋を始めた。
概して、永夫は手先が器用だ。彼の精巧な玩具や人形は人気が出た。まあこれであれば好き勝手にやればよかろうということになり、天道は七光寺に籍を残し天道の僧名をそのままにして、玩具屋「おひさま」を営んでいる。
「そして七保志家の人間だからな。七保志家に子どもが生まれたときの玩具や雛人形などの依頼あれば全て天道に依頼している」
その玩具や人形の支払いというていで、七保志家の縁者のである彼の生活費などを渡しているということだ。
「で、たまにそれ以外の頼み事も持ってくるんだけど……今がその時なんだろ、盛光?」
流れるような導入に感謝すると盛光は笑い、風牙たちを見る。
「先ほどお前たちを生きていぬ者、されど死していぬ者……などと格好つけて言ったが、まあ生きていく以上、衣食住が必要なわけでな……そこで天道」
盛光の目が天道に向かう。
「この者ら、ワシの影である風牙と荊花、そして同郷である幼子の梢と拓……彼らをお前の家に居候させて欲しい」
「えー!? ……というのは冗談で、分かったよ。引き受けよう」
ちょっと片付いていないから、帰ったらみんなで大急ぎで片付けよう、と天道は風牙たち四人を見渡して笑った。
かくして忍びの里を追われた凪だった風牙と雫だった荊花、二人が連れ出した子どもの梢と拓は、新たな住処を得る。半永夫が営む玩具屋「おひさま」の二階……そこが若き影たちの新しい、帰る場所であった。
skebで別の小説を書いたりして間があき失礼しました。
ようやく、まだ脇役ではありますが、この小説に普通の歴史モノとか和風モノにハイファンタジー色をつける、(ハーフ)エルフのキャラを盛り込めました。しばらくはちょっと名前だけかもしれませんが、今後エルフらしい活躍とか見せたいと思っております。




