第二十話 第五日、銅銭と文
五日目。辰の刻(午前8時)に盛光たちは風間の宿を発った。
ここからは山賊も物怪も出ない、平坦な道といくつかの橋が植田の城下町まで続く。午の刻(正午)までには植田につくだろう。
果たして何事もなく、植田の城下町が見えてきた。早く故郷に戻り、地元の昼飯を食べたい。行列の足が早まる。
その時であった。
「殿っ、殿ーッ!」
若く明るい声が響き渡る。初日の連歌会で田植えと植田をかけていた若武者、工藤孫兵衛がはしゃぎながら駕籠に近寄り声をかけてきた。どうした孫兵衛、と訊ねる盛光に十兵衛はご覧くださいと言う。
駕籠の窓を開けてみてみると……
城下町の塀の近くに四人の子どもがいる。そのうち二人の男女はもう子どもから抜け出しつつある年頃で、下座して盛光の一行を迎えている。残る二人の男女は先のものの半分くらいの歳か、ぴょんぴょんと飛び跳ねて盛光の帰還を喜んでいるようだ。
「いやあ、城下町外までお迎えに来てもらえるとは嬉しいことでござる。殿も慕われているでございますなぁ」
無邪気に嬉しそうに笑う孫兵衛。孫兵衛に限らない。他の兵士や家臣たちも、特に気にすること無く行進を続けたり、あまつさえ手を振り返したりしている。
にんまりと盛光は笑った。孫兵衛や兵士の様子は、あの子どもたちの正体に気づいていないことを語っていた。
『つまり、やり遂げたわけだな。凪と雫……』
植田に帰還する盛光についてきた。年端もいかぬ子どもも一緒に。兵に悟られることなく。道中の宿で並走していることを主張すべくちょっかいをかけ。そしてこの植田で出迎えた。完璧である。
それであれば、と盛光は懐に手を突っ込む。取り出したのは書状。昨日のうちにしたためていた。これをそのまま使うことができたらいいなと祈って。実際、使えてよかった。
それと一緒に小銅銭を数枚、紙に包み、孫兵衛に渡す。
「すまぬが孫兵衛よ、これをあの子どもたちにワシからと渡してくれぬか?」
勝手に開けるでないぞ、と念を押す。主君からの直接の命に若武者は忠犬の如く誇らしげに返事をし、駆けていく。
その背中を見ながら盛光は満足そうに、細い目をさらに細めるのであった。
―――
「これ、童たちよ」
自分も凪と雫と歳が一つ二つ程度しか変わらぬことを棚に上げ、孫兵衛は子どもたち……凪たちのもとにやってきて声をかけた。盛光から預かった書状を凪に渡す。
「お出迎え、ご苦労でござる。殿からのご褒美でござる」
ありがたく受け取るのござるよ、と孫兵衛はいい、にこやかに笑って行列に戻っていった。
盛光たちの行列を見送ってから、凪は渡された書状を開けた。雫と梢と拓が後ろから覗き込む。
中には小銅銭数枚……これは先程の男に「子どもたちに渡すもの」の理由付けとして入れたのだろう。本命は次だ。
「やった!!」
次の紙をちらりと見た雫が歓声を上げる。読めぬ梢と拓も雫の様子を見て嬉しそうに飛び跳ねる。凪はすぐに喜ばずにその紙を端から端まで読み……そして普段は表情を出さぬその顔に笑みを浮かべた。
―― 合格。賀神忍流の凪、ならびに雫を七保志家に召し抱え、我が影に任ずる。
ほんの二文であったが、凪たちの実力……忍びとしての心・技・体をこの五日間で見届け堪能したという言葉が詰まっていた。
紙には続きがあった。
―― 暮れ六つの鐘が鳴りしとき、七光寺へ出頭すべし。
そこで辞令や訓示があるだろうか。凪は一人、その場にいない主に向かって承知したと頷く。
こうして凪と雫は七保志盛光から与えられた試練を達成し、七保志家の忍びとなった。
そしてこの植田の地で、新たな生を歩み始めるのであった。
そのようなわけでこれにて第三章『能ある鷹ならその爪見せてみよ』、完結でございます!
忍法あり、バトルあり、ちょっとお色気あり、といろいろ盛りましたが、いかがだったでしょうか? とは言うものの、バトルが一方的だったのは今になって反省してますし、この次の次あたりもバトルが割と一方的なので、どうしたものかと頭を抱えております。どうしても私が考える泥臭いバトルとなると一撃が決まるともう致命的になってしまうので、短くなるか一方的になるかで……もっといろいろ書けるようになりたいと思っております。
さて、次はちょっとのんびりタイムでございます。どうぞお楽しみに。




