第十三話 第一夜、峠道前の連歌会
※ 本パートは和歌に関してはAIを用いております
夜になった。盛光ら一行は、その進路を途中で北に変え、諏訪部家の領はかすめずに、御沙河池を通る経路をとった。その御沙河池がある山の手前の町、北登の町で一行は宿を取った。
北登は、ここから北、蓼食山の西側の経路の入口のようなところだ。これから蓼食山を北へと抜けようとする、あるいはまさに北から蓼食山を通ってやってきた旅の者が集う街となっている。
その北登の町の旅籠(はたご 旅館)、北峰屋……北登に宿泊するときはほぼ必ず盛光はこの宿を利用している。
北峰屋にある離れ客室……ここに盛光、護衛の慎一郎、そして小姓が一人寝るのだが……その前に、盛光たちはこの離れで、家臣たちと連歌会を行う。
今回の形式は短連歌。五・七・五の上の句と、七・七の下の句を繋ぐだけの簡素な物だ。連歌の中にはそこからさらに五・七・五、七・七と続けていく長連歌があるのだが、今回は違う。一区切りずつだ。
「緑濃き 梢を渡る 夏の風 我ら登らむ 山の岩戸を」
「わははは、これはなかなか」
「これからの季節、蓼食山の木々の空気は爽やかで素晴らしいですからな」
「天の岩戸を山の岩戸にするのがまた一興」
朗々と響き渡る完成した歌。家臣たちは笑いあい、手を叩く。
大月城下町からここ北登までの平坦な道と違って、蓼食山の西側の道は山道で楽ではない。この山道を乗り切るべく、辛くなったら連歌会で出たこのような歌を歌って気持ちを高めるというのが、七保志家での、大月から北登を通って植田に帰る際の恒例行事であった。
「続いて……峠道 里の田植えを 見れるなら」
筆頭家老の安宗が上の句を読み上げる。はい、と若い声が聞こえて同時に畳を手で打つ音が響く。
「足取り軽く 植田の道を」
歓声が上がる。
「わははは! 孫兵衛! 洒落が分かるようになったではないか」
「田植えときたら植田、植田と来たら田植え。歌ではよく用いるべしと学んだでござる」
「今年の米はどうなるかのう」
「帰ったら植田の水で炊いた植田の米が楽しみでならぬわ」
「もう少ししたら若鮎の時期かのう」
この北峰屋の雉や猪などの獣肉を炭火焼きしたものも良いが、故郷の清流で取れた魚と故郷の米が一番だと家臣たちは言い合う。
帰ったら何が食べたいなどという話題がひとしきり続いた後、盛光と家臣たちは連歌会に戻る。
笑いが絶えぬ楽しい連歌会ではあるが、あまり続けると、遅くなる。明日は山道である。慣れていると言っても、油断は禁物だ。
あとひとつふたつでお開きにしようということになる。安宗が読み上げる。
「春過ぎて 姿を変えし 山桜」
ばしっと力強く畳を叩く者がいた。盛光である。誰もが慮ったわけでもなく、最速で手をついた。
どのような歌を続けるか、家臣たちが見守る中、盛光は朗々と詠んだ。
「蒼き嵐ぞ 大月に見よ」
「おおお……」
安宗が思わず感嘆の声を漏らす。安宗だけではない。他の家臣たちも唸った。
七保志盛光は大月の御坂家の家臣の中でも最年少に入る。いわゆる若造、青二才。その、山桜の若葉も巻き込んだ若き嵐のような力を見せてやるという、気概が籠った歌であった。
一同、盛光に拍手を送る。盛光はンフフと照れくさそうに笑って頭を掻く。眼の前にいる家臣たちの多くは自分より年上だ。
「まあ、こうは詠いながらも結局ワシ一人の力では成し得ぬ。皆のもの、よろしく頼むぞ」
家臣たちは力強く肯定の返事をし、気持ちが上がったままこの連歌会は終わったのであった。
―――
翌朝、盛光は北峰屋の離れで目を覚ました。障子戸を開けて外を見る。まだ薄っすらと暗いが、東の空が明るくなりつつある。まもなく爽やかな木漏れ日がこの離れにも差し込むことだろう。
朝起きたら護衛でもある慎一郎と体操や稽古をする。それが日課だ。伸びを一つして身なりを整えようとする。
その時、盛光は枕元に何か落ちているのを見た。丁寧に畳まれた紙……文のようだ。
『はて、昨日寝る時はこのようなものはなかったはずなのだがな』
拾い上げて紙を広げる盛光。その顔に笑みが浮かぶ。
「ンフ、ンフフフ……なるほど、やってくれたわけだ」
紙は四枚あった。一枚目には書かれているのは……
―― 春過ぎて 姿を変えし 山桜 蒼き嵐ぞ 大月に見よ
昨日、盛光が詠んだ歌である。つまりは、昨日の連歌会の様子を凪か雫はちゃんと見聞きしていたということだ。あるいは連歌会の記録を盗み見たか……どちらにしても、自分や家臣らに気づかれずに忍んだのだ。
それだけではない。二枚目に書かれていたのは
―― 春過ぎて 姿を変えし 山桜 嵐を呼べり 影の疾風
「ンフフ、どちらかは分からぬが、風流を理解していない、という評価は取り消さねばなるまい」
つまりは、若き力で嵐を巻き起こしてやるという盛光に対して、自分たち影がその力に加わると言うのだ。上の句をもう少し変えても良いかも知れないし字足らずでもあるが……気持ちは伝わる。なんと頼もしいことだろうか。
さて、三枚目四枚目はどうかというと。
「おや、かわいらしや」
残りの二枚は子どもの手習いであった。つまり、忍びの里から連れ出した子ども二人も無事についてきているという報せである。
「良いだろう。一日目は合格だ」
もらった文を丁寧にまた畳み、盛光は上機嫌で朝稽古のための身繕いを始めるのであった。
なおこの北峰屋……のちの世で高級宿になるが、その敷地内に山の獣肉を使った料理を出す料亭「煉瓦亭」が作られる。造りが煉瓦だからその由来かと表では言われるが、その実は……盛光らがこのように連歌会を行っていたことが由来であり、煉瓦亭はその時の離れにできている。
と蛇足を加えたところで、拙著を御覧いただきありがとうございます。
前書きの通り、今回のお話は和歌に関しては全てでは無いもののAIの力を借りております。和歌ばりかどうしても分からなくて(洒落じゃないです)、単語の列挙やたたき台を作ってもらいました。さすがに全部頼りっぱは癪なので調節はしましたが、とは言うものの五十歩百歩とはいいますし。精進しようと思います。




