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忍者活劇小説 -風と荊の道-  作者: 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
第三章 能ある鷹なら、その爪見せてみよ
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第十話 狐将盛光の注文

 その夜、盛光は凪と雫を大月城内の自分の屋敷に呼び寄せた。

 屋敷の奥座敷に盛光、彼の家臣が二人、そして呼ばれた凪と雫がいた。


「さて、改めて名前を聞こうか」

「賀神忍流(かがみしのびりゅう)、凪と申します」

「同じく、雫」


 こちらの目をまっすぐ見つめての二人の名乗りを聞いて盛光は頷いた。

 尊信の前では直垂(ひたたれ)(武家の礼装的な服)を着ていた盛光であったが、今はそれは脱いで水色の小袖に灰色の肩衣と袴に身を包んでいる。髪は女がうらやむような漆を流したようなつややかな長髪を高い位置に束ねていた。

 目はやはり狐と喩えるのが一番な、細く釣り上がった目だ。にこにこと笑っている様子は柔和に見えるが、一方で探るような鋭さもあった。


「ワシは七保志(ななほし)盛光(もりみつ)。ここより北の植田を預かる小大名。よろしく頼むよ」

「えー、吾輩が、筆頭家老の浅川(あさかわ)安宗(やすむね)じゃ。虎牙に関しては残念じゃった。彼には吾輩も助けられたことがあり……」


 辛子色の小袖に枯れ葉色の肩衣を着た齢六十ごろの茶筅髷(ちゃせんまげ)の男が名乗る。しわが入ってくりくりとした目はどことなく愉快な猿を思わせる。眉が下がっているのがなおさらひょうきん具合を出している。


 凪や雫の師匠との昔話を始めようとする安宗の袖をもう一人の男が引いた。

 藍色の小袖と、それよりさらに濃い紺の袴に身を包んでいる。歳は四十ごろだろうか。片目を刀の鍔のような意匠が入った眼帯で覆っており、さらに首には幾重にも包帯が撒かれている。残った目は見えているはずだが、そこからは 何も読み取れなかった。鋭い目つきはこちらの全てを見透かしているようで、あるいは何も考えていないようで……読めない。まるで水の鏡だ。


「ああ、この者は過去の戦で喉をやられて口を利くのに苦労しててな……真木(まき)慎一郎(しんいちろう)。植田城の警護責任者にして剣術指南役じゃ」


 安宗が代わりに紹介する。静かに頭を下げる慎一郎。その重心の移動を凪も雫も見極められなかった。気づいたら斬られているかもしれない。そんな恐ろしさが彼にあった。


「さて! 自己紹介も済んだところで仲良くやっていこう。と言いたいところだが……」


 ぱちんと扇子を閉じて、盛光は立ち上がる。その狐のように細い目をさらに細めて彼は笑った。


「ンフフ……さすがに今日会ったばかりの忍びを、そのまま抱え込むほどワシもお人好しではないのでね……召し抱えるか否か、お前たちの“爪”を見せてもらおうか」


 雫がきょとんと目を瞬かせる横で、凪は無言で開いた自分の手を、ひらを下にして盛光に差し出した。苦笑しながら盛光は閉じた扇子をくるくると回した。


「ンフフフ、どうやら風流は通じぬらしい」


 盛光は凪と雫の前を悠然と横切りながら言う。能ある鷹は爪を隠すと言う。だが、隠しているだけなのか、本当に無いのか、このままでは分からない。


「だから、お前達に試練を与えよう」


 凪と雫の身体に緊張が走る。一体これから何を試されるのだろうか。もしや、その剣術指南役の慎一郎と戦うことになるか。

 正直なところそこは避けたい。戦いの技術に自信はあるが、奢ってはいけない。重心の移動を見せないこの剣術指南役に勝てる保証はない。

 なにより忍びは最強を目指すのではなく、任務の達成を目指す。勝てぬ相手と見たら任務のために敵に背を向け唾を吐かれてでも逃げるのだ。だから、慎一郎と戦うのはとても困る。


 緊張している凪と雫に盛光は笑みを崩さぬまま続ける。


「三日ほどこの大月城で仕事をしたのち、ワシは植田に戻る。お前達にはワシらに植田までついてきてもらおう」


 なんだそんなことか、と雫は胸を撫で下ろす。一方、凪の表情は硬い。この不敵に笑う底しれぬ男が、帰還の旅で脚力を測るだけが試練なんてことをするはずがない。

 案の定、盛光は相変わらず笑いながら、ただし次のことを守ってもらおう、と言った。


「一つ。お前たち、ともに忍びの里より難を逃れた童(わらべ)が二人おったな? その者らも一緒だ」


 これは枷であると同時に、試練を乗り越えたら梢と拓の面倒も見てやる、という情でもあった。ありがたい。


「二つ。兵たちにお前たちの存在を気づかれてはならぬ」


 凪たちは影。秘匿される者である。凪たちの存在は主である盛光、筆頭家老の安宗、盛光を守る慎一郎。この三人に留めたいらしい。


「三つ。ワシらが泊まる街でお前たちの存在をワシに知らしめよ」


 もちろん、他の兵士たちには気付かれないよう、隠密を保ったままだ。


「四つ。植田でワシらを出迎えよ」


 つまり、最後は追い抜いて待てとのこと。置いていかれるなど論外。これを到達して、凪と雫は晴れて、七保志家の影として認められる。


「できるな?」


 細めた目と釣り上げた口角の顔をずいっと凪たちにつきつける盛光。できぬなどと言えるはずがない。答えは一つだ。


「はっ、必ずややり遂げてみせましょう」

「ふーん、上等。お師匠様のしごきに比べたら、これくらい、ね?  受けそこねた『忍びの試験』の代わりとして、きっちり合格してみせる!」

「ンフフ……楽しみであるな」


 力強く、かつ不敵に答える凪と雫に、七保志盛光は満足げに、愉快そうに笑うのであった。


「とき凪よ、雫のその砕けすぎた口調はなんとかならぬのか?」


 眉を寄せて首を傾げる安宗に凪は頭を下げる。


「申し訳ございませぬ、雫は里にいる頃から師匠にすらこうでして……」

「ンフフ、まあよいではないか安宗。お前も元気溌剌(げんきはつらつ)な町娘とかが好きであろう?」

「な、な!?」


 年甲斐もなく赤くなる安宗を見て、からかった盛光は笑った。慎一郎は眉一つ動かさない。


 不気味な主君と、主に弄られて慌てるどこか憎めない家老、そして何も読み取ることができない剣術指南役。

 凪と雫は、三人の様子を見ながら、奇妙な高揚感を覚えていた。里を焼かれ、師匠を失い、どうなることかと思っていた自分たちはこれから、この七保志家の影として生きることになる。その新たな世界に、若き二人は影のものでありながら……光の希望を胸に抱いていたのであった。


 そのようなわけで、盛光の容姿の詳細や、他彼の家臣のお披露目でした。尊信の前では「私」という盛光ですが、基本的には一人称は「ワシ」で、癖は「ンフフ」な笑い声です。これはブリッツPさんの【卓M@s】続・小鳥さんのGM奮闘記【ソードワールド2.0】のゲルゲドを参考にしています。


 引き続きよろしくお願い申しあげます。

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