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忍者活劇小説 -風と荊の道-  作者: 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
第二章 再起、人情、忍びは折れず
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第九話 影あるところに光あり

「面をあげい」


 その日の夕刻。凪と雫は砕牙とともに、大月城城主、御坂尊信《みさかたかのぶ》の御前へ召された。

 厳かな声に命じられ、凪と雫はゆっくりと顔を上げた。開かれた障子の敷居の先に、御坂尊信の家臣たちが左右に並んで座っており、その最奥に御坂尊信が座っていた。


 茶筅髷の髪に、何もかも見通しているかのような鋭い目つき。齢は四十を過ぎたころだろうか、力強さもありながらそれを制御した落ち着きが出ている。小袖の上に蓬《よもぎ》色の肩衣(袖を取り払った上衣)と袴に身を包んでいた。


「その方らが、賀神忍流《かがみしのびりゅう》の里から生き延びた者か」

「御意にございまする」


 答える凪。それに対して尊信は、災難であったな、と余計な感情表現をせず挨拶し、話を進める。話はある程度は砕牙から聞いたが、詳しく話を聞きたいと。


 しかし、凪や雫から追加で出すことができる情報はほとんどなかった。凪も雫も命からがら、子どもたちを連れて逃げてきた者。その凪や雫も元服前の、尊信らから見たら子どもである。追加で渡せた情報は、敵は目視で百人はいたことくらい。


「旗も見ていないのか」

「残念ながら旗を持っている者がおりませんでした」


 雫も、繭をさらった者を見た時、彼らは旗を持っていなかったという。また凪たちが廃寺で始末した者も、直前まで天井が低い隠し通路にいたからか、旗を持っていなかった。


 家臣らは嘆息とも考え込むともつかないため息をつきながらぼそぼそと話し合う。


「ここ最近、東の方からの襲撃が多い。やはり千々部(ちちぶ)の国では?」

「しかし旗もないから断定はできますまい」

「となると、やはり大々的に抗議はできぬか」

「面倒なことをしよる……」


 明確に相手国の兵だとわからなければ宣戦布告とならない。感情的になって攻撃したら逆にそれが相手に口実を与えてしまう。相手の兵と明確にわからない限り、非難するのは難しいのだ。とはいえ、これだけの領内での小競り合いでの侵略をされたのであれば、黙って指を咥えているわけにもいかない。

 何より、今回襲われたのが忍の里と言うのが厄介だ。表向きはやはり一つの村を襲われたとしか言えないが、内実としては諜報活動を行う教育機関を潰されたという、大きな痛手である。


「しかもこの者らの話を聞く限り、秘密の通り道を使って襲撃した可能性がございます。敵は用意周到にこちらの戦力を削っておりまする」


 まさに一触即発。油断していると喰われる。この戦国乱世、敵が何かしてくるのを棒立ちで待っている馬鹿はいない。

 食料武器火薬の準備、兵の訓練、警備の強化、それらのためにも金もいる……戦の準備をしなければならない。


「あい分かった。皆のもの、くれぐれもよろしく頼むぞ」


 尊信はそう言ってこの場を解散にしようとしたが、それをお待ちくだされと呼び止めた者がいた。砕牙だ。


「恐れながら皆さまに申し上げます」

「なんじゃ、申してみよ」


 立ち上がりかけた尊信が再び座り直し、砕牙に続きを促した。砕牙は頭を上げて尊信をまっすぐ見ながら、続けた。


「はっ。皆さまがたにおかれましてはこの者ら、賀神忍流の凪と雫の召し抱えをご一考願いたく存じます」


 砕牙は続ける。確かに凪も雫も、一人前の忍びとはまだ認められていない。だが運悪く数日後の試験が里の襲撃で受けられなかっただけで、十分に実力はある。今回、襲撃された里から脱出し、子どもを守りながら、大月城に襲撃の情報を持ち帰ったことが、その実力を示している。


「この二人ならば必ずや皆さまのお役に立つものと確信しております。どうか、ご一考を」


 尊信だけではなく、他の家臣らを見渡してから、砕牙は頭を下げた。凪と雫も、一緒に頭を深く下げた。


 一方、彼らの目からは見えないが、尊信や他の家臣らは難しい顔をしている。

 忍びは影に生きるもの。侍や大名とはまったく異なる毛色をしており、生き方はもちろん考え方も違う。諜報活動のために平然と嘘をつく。それはつまり実は裏切っておりこちらに嘘をついている可能性すらあるのだ。

 大月の国にある賀神忍流といえど、凪と雫は目利きの者がお墨付きを与えたわけではない、半人前の実力も忠誠心も人柄も不明……そう簡単に信用できたものではない。


 ふーむ、と否定的な唸り声が多く上げる冷たく湿気た空気を、一人の若々しい声が破った。


「面白い。皆さまが召し抱えぬのなら二人の身柄、この植田の七保志盛光《ななほしもりみつ》が預かりましょう!」


 家臣たちの列の末席から、一人の家臣が立ち上がった。


 一見、本当に武将かと疑いたくなる体つきだ。背丈は七尺七寸(約171cm)であるが、十五貫(約56kg)あるか怪しい。目は細く釣り上がり気味で、されど柔和な顔立ち……豪胆な武将は鬼と良く名乗るが彼は狐と名乗ったほうが似合いそうだ。だがゆえに底知れぬ不気味さがあった。

 歳は凪や雫ほどではないが、かなり若い。この会議に参加している家臣たちの中で一番若く見える。二十台半ばといったところか。


 盛光と名乗ったその男は、尊信の正面へ進み出ると、その場で膝をつき、頭を下げた。ほぅ、と尊信が感心したように声を上げ、そして挑発的に言った。


「良いのか、盛光? その者らはまだ未熟。一人前の忍びの証さえ得ていないという。そんな者たちを使えば足元を掬われることになるやもしれぬぞ?」

「ンフフフ……覚悟の上でございます。それに、私はこの中でも末席の若輩者。この者らはさらに元服前と来た。尻が青い者同士で"仲良く"やって見せまする」


 若き家臣の言葉ににんまりと尊信は笑った。これだから若者は面白い、と言わんばかりに。


「よかろう。お主の好きにせよ」

「ありがたき幸せ!」

「……して、凪に雫よ」


 立ち上がった尊信は、自分を召し抱えようとしている主を見ようとしている二人を見やった。慌てて二人は姿勢を正す。

 そんなまだ子どもな二人に少し笑ってから、尊信は大月の国の主の顔に戻って短く言った。


「大月の未来がかかっている。励め」


 御坂尊信の言葉に二人は力強く、返事をするのであった。

 そのようなわけで第二章はこれにて終了です。

 仕官先を見つけた凪と雫……と言いたいですが、この盛光もそう簡単には人を信用しない曲者です。試練を与えてきます。

 次回はその試練のパートを書いていきます。お楽しみください。


 さて、今後計画としては上記の次回(章)に関して動画にすることを検討しております。容量の都合もあり、Xだけでなくyoutubeに乗せる予定ですが、それだけ乗せるのもちょっと寂しいし、今後どんな活動していこうかなと模索しております。

 他の小説書き様のあらすじや紹介の動画も考えておりますので、ご興味ありましたらお声掛けください。


 それでは、重ねますが次章もよろしくお願いします。

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