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第99話 出世ではなく、守る役

教育管理者は、教師たちより上の立場だった。


授業計画を承認し、外部の講師を選び、予算を決め、子どもの安全に最終責任を持つ。学校の二番目の役職で、いずれは校長を継ぐこともできるという。


「僕は教師の資格がありません」


「資格は、必要なら領都で取れます。授業を整理する力は、すでに証明されました」


「灯り木魔道具社の仕事があります」


「週の半分は学校、半分は会社でも構いません。報酬も、今より安定するよう用意します」


エメリク校長は、僕を高く評価してくれていた。派遣の仕事をしていた頃、次の契約がどうなるか分からなかった僕には、正式な役職と安定した報酬は魅力的でもある。


けれど、胸の中で最初に浮かんだのは、うれしさより息苦しさだった。


教師の上に立てば、百項目の計画を承認するのは僕になる。どの授業を優先するか、誰を採用するか、最後の決定が集まる。学校を良くするための仕事が、僕がいないと進まない形になりかねない。


僕は出世したくない。


責任を避けたいからではなく、一番得意な場所から離れたくなかった。現場を見て、人の話を聞き、整理し、続く形を一緒に作る。肩書が大きくなるほど、会議と承認でその時間が減る。


「お断りします」


言葉にすると、校長は驚いたが、怒らなかった。


断った直後、胸が少し痛んだ。校長の期待を落とした気がした。学校がまた人手不足で困れば、自分が引き受けなかったせいだと考えそうになる。


けれど、僕が教育管理者になっても教師は一人しか増えない。それも、学校の外で仕事をしていた僕が中へ移るだけだ。外から授業を持ち寄る仕組みを残せば、一人分以上の役割が続くかもしれない。


「断るのは、学校を見捨てることではありません」


自分にも聞こえるように言った。


エメリク校長は、任命書を巻き直した。


「残念ですが、断る理由は理解しました。私も、あなたへ最終判断を集めれば楽になると思っていたのかもしれません」


善人の校長が、困っているから有能そうな人へ仕事を集める。それは悪意ではなくても、受ける側が境界を言わなければ続いてしまう。


「待遇が足りませんか」


「条件の問題ではありません。教育管理者にはなりません」


理由を長く並べれば、校長は一つずつ解決案を出してくれる。資格、勤務日、報酬。僕が本当に断りたいのは役職そのものなので、先に結論を伝えた。


リゼは隣で黙っていた。僕の代わりに断らず、僕が言い終えるのを待っている。


エメリク校長は少し考え、尋ねた。


「では、学校との関わりもここまでですか」


「いいえ。できる範囲なら続けたいです」


僕は一枚の紙を出した。


学校に必要なのは、僕が全授業を決めることではない。教師、外部講師、子どもが自分で授業を直せる時間と、安全に止める役を守ることだと思った。


役の名前を、『学びの調整役』とした。


週に一度、半日だけ。教師同士の一分確認が続いているかを見る。新しい授業札を、作る人、試す人、伝える人で確認する。外部講師は一人で子どもを見ず、必ず学校の教師と組む。弟子たちが授業へ来る時間は、会社の仕事時間として扱い、無償の手伝いへしない。


「安全の最終責任は、校長先生です。僕は質問と改善案を出しますが、承認印は押しません」


「責任を分けるのですね」


「誰が決めるかを分かるようにします」


僕が不在の日に、教師が判断を待たなくてよい。反対に、危険な授業を僕の名前だけで通せない。


報酬も決めた。半日ごとの固定額。交通費は別。予定外の相談は、次の訪問まで待つか、短い書面で依頼する。緊急連絡は、子どもの安全に関わる三条件だけ。


まず二か月の試行契約にした。続けるかは、僕の満足ではなく、教師だけで授業札を直せた回数、外部講師が一人で抱え込まなかったか、事故の前に黄色い旗を出せたかで見る。


僕がいないと止まった回数も記録する。もし増えるなら、調整役が支えではなく新しい依存になっている。


二か月後、僕が不在でも教師が札を三回直し、ミナの代わりをセラが一度務め、黄色い旗は七回安全に使われた。僕が必要だったのは、初めての講師が来た一回だけだった。


契約は週一回から、月三回へ減らして更新した。支援がうまくいった結果、僕の仕事が減る。それを良い成果として報酬表にも残した。


「学校はお金が多くありません」


「だから、払える回数に減らします。毎日来て無償になるより、週一回を続けたいです」


エメリク校長は、教育管理者の任命書を片づけ、調整役の紙を読んだ。


「あなたを上司にできないのは残念です」


「上司でなくても、一緒に働けます」


「では、私があなたの質問から学びます」


教師たちも、自分の授業を僕へ承認してもらうのではなく、互いに試すと決めた。ミナ、ルカ、フィンの授業時間は、学校の講師料から会社と各所属先へ支払う。子どもへ教えることが、若い三人自身の学ぶ時間として予定表へ載った。


僕は管理職の椅子を断った。


代わりに、弟子や仲間が安全に試し、間違いを小さく見つけ、休まず無償で働かないように守る役を引き受けた。


一月後、エメリク校長は、調整役の最初の報酬について相談した。


学校の現金は少ないが、校舎の裏に使っていない小さな土地があるという。


「ここを、あなたへの報酬にできませんか」

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