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第98話 僕が話さない授業

「僕は、薬房の現場を見る役です」


ミナが最初に答えた。


「薬を作る技術はセラさんに習っています。シュウさんから習ったのは、使う人がどこで迷うかを見ることと、例外を見落とさないことです」


ルカは少し考えた。


「僕は、荷物が次の人へ渡る所を見る役。道を走るのも好きだけど、誰に何時に渡したかが分からないと、速く運んでも届かないから」


フィンは、油の付いた手を見た。


「俺は作る人だと思う。でも、親方からは壊れた道具を先に見ろと言われるし、シュウさんからは使う人に聞けと言われる」


「では、作って直す人?」


テオが聞く。


「まだ、どっちも見習いだ」


三人の答えは、きれいな役名ではなかった。それでも、自分が何を学んでいるかを自分の言葉で話した。


「シュウさんは、三人の先生なんですか」


「僕は、魔道具の作り方も薬の調合も馬車の走らせ方も、三人よりできません」


「では、何の弟子?」


フィンが笑った。


「困った仕事を並べるところ、かな。俺たちが自分の技術を使えるように」


ミナは、『人に聞くところ』と足した。ルカは、『次へ渡すところ』と言った。


僕が一つの能力を三人へ与えたのではない。三人が別々の場所で、自分に必要な考え方を拾っていた。


「弟子というより、同じやり方を違う仕事で試す仲間ですね」


僕が言うと、三人とも少し不満そうだった。


「弟子でも、仲間でもいいじゃないですか」


ミナの一言で、両方ということになった。


エメリク校長は、三人へ一時間ずつ授業を頼んだ。僕がまとめて話すのではなく、それぞれが自分の仕事を持つ。


最初はミナの植物授業だった。


彼女は、見た目がよく似た三種類の葉を机へ置いた。食べられる香草、薬に使う草、触るとかゆくなる草。名前を暗記させず、触る前に札を見る、匂いを直接嗅がず手で風を送る、分からなければ分けて置く、の三つだけ教えた。


子どもが一枚を間違えて食用の籠へ置いた。


ミナはすぐ正解を言わなかった。


「何を見て決めました?」


「葉の形です」


「ほかに見る印は?」


テオが茎の裏の白い毛を見つけた。食用ではないと分かり、籠を直す。口へ入れる前なので、失敗は小さく終わった。


僕は教室の後ろで、質問できずに葉を握ったままの子だけを見た。黄色い旗が上がる前に助けようとせず、その子が札をもう一度見るのを待つ。しばらくして隣の子へ聞けたので、僕の出番はなかった。


次はルカの運送授業だった。


教室の四隅を、麦穂村、赤炉工房、水路町、学校に見立てる。木箱を一つずつ運び、受け渡し札へ印を付ける。速く走る競争ではなく、正しい箱が正しい場所へ着くかを見る。


一組が、工房向けの箱を水路町へ置いた。札の色は合っていたが、形が違う。


「戻して、最初からやり直しますか」


「今いる場所から、どこへ渡せば届くか考えよう」


ルカは、間違いをなかったことにせず、途中から戻す方法を教えた。水路町役の子が受け取り記録へ『誤着』を付け、工房行きの次便へ載せる。届く時刻は遅れたが、箱は消えなかった。


フィンとリゼの魔道具授業では、分解した灯り箱を使った。


フィンが部品を順に説明しようとすると、リゼが百項目の巻紙を指した。


「今日一つなら?」


「壊れた時、無理につけない」


傷のある魔石、緩んだ革、正常な箱を三つ並べ、触る前に見分ける。フィンは技術の答えを話しすぎそうになるたび、子どもへ『どこが違う』と聞き直した。


一人が正常な箱を壊れている側へ置いた。理由は、光らなかったから。しかし箱には、輸送用の安全栓が付いたままだった。


「光らないから故障、とは限らないんですね」


テオが言う。


リゼは、安全栓を外す前に、何のために付いているかを尋ねた。持ち運び中に勝手に光らないため。外すのは使用場所へ置いてから。故障ではないが、すぐ外せばよいわけでもない。


三つの授業で、僕が前へ立った時間はほとんどなかった。


その代わり、授業前には三人と目標を一つずつ決めた。ミナは『触る前に分ける』、ルカは『誤着しても荷物を消さない』、フィンは『光らない時に無理をしない』。


授業後には、できた人数より、止まった場所を見た。ミナの授業では匂いの比べ方、ルカでは受け渡し後の戻し方、フィンでは安全栓の意味。三人が次回直す点を一つだけ選び、残りは控えへ置いた。


「僕が答えを言わないと、冷たく見えませんか」


リゼへ小声で聞いた。


「助けが必要なのに放っておけばね。でも、考えている途中まで奪うのも助けではないわ」


待つ時間を決め、黄色い旗が上がったら行く。見守ることと放置することにも境界があった。


僕は教室の後ろを歩き、止まった子、説明しすぎる教える側、誰も見ていない道具箱を見た。必要な時だけ、『今の目標は何ですか』『誰が困っていますか』『終わりはどこですか』と聞いた。


授業後、ミナは、自分の説明が長くなった場所を直した。ルカは、誤着した箱を戻す札を新しくした。フィンは、安全栓の絵を一枚目へ加えた。


「シュウさんは、何を教えたんですか」


子どもに尋ねられ、僕は困った。


「今日は、ほとんど教えていません」


「でも、皆が止まると後ろにいました」


テオが答えた。


エメリク校長は、その言葉を聞き、授業記録を閉じた。


「遠野修司さん。学校の正式な教育管理者になっていただけませんか」

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