第81話 札が届くまでの石
陶器工房へ頼めば、完成まで含めて少なくとも四日はかかる。
水路は戻ったが、今夜も交替はある。新しい札が来るまで何もしないわけにはいかなかった。
「使える物で、四日だけ回しましょう」
僕は水路脇の平たい石を三つ拾った。
石を寝かせたら開。立てたら閉。二つ重ねたら作業中。門の横へ浅い窪みを作り、そこへ置く。文字も糊も使わない。
「誰かが蹴りませんか」
「だから、これは四日の仮の仕組みです。交替の二人が、門板と一緒に毎回見ます」
仮の物を本番のつもりで永久に使うのは危ない。でも、仮だと分かる印と終わる日があれば、役に立つ。
石を置く窪みの横へ、四本の短い線も刻んだ。陶札が届くまで、一日ごとに一本を炭で消す。残りの日数が見えれば、『まだ使えるからこのままでよい』と仮の仕組みが残り続けにくい。
「四日目に届かなかったら?」
「その時は延長するか、別の物に替えるかを相談します。黙って五日目へ入らないための線です」
ネルは四本のうち、最初の一本へ指を置いた。
終わりの日を決めるのも、始めるのと同じくらい仕事だった。
ミナが管理所の内側へ、大きく『陶札が届くまで四日』と書いた。紙は室内なので、ミズネズミも雨も来ない。
僕たちは、赤炉工房のガントにも短い依頼書を送った。瓦に穴を開けて割った失敗と、欲しい三つの形を絵にする。ガント自身は陶器を焼かないが、町の職人との付き合いが広い。
返事は、その日の午後に運送組合の定期便で届いた。
『東の陶器工房へ話を通した。丸札は中央に一穴、四角札は上に一穴、三角札は二穴。縁を厚くしろ。色より形を先に決めろ。予備を各二枚。代金は水路町へ請求する』
最後の一文には、二本線が引いてあった。
「シュウさんへ請求させないためですね」
ミナが言う。
「僕も今回は、払うと言っていません」
「まだ、ですね」
リゼが付け足した。
依頼書には、代金だけでなく受け取り方も加えた。割れ物なので、誰かが管理所にいる昼便で届ける。箱の外から枚数を確認できる一覧を付ける。割れていた場合は、その場で運送組合へ返すのではなく、写し絵を付けて工房へ知らせる。
「陶器工房まで二日なのに、どうして返事だけこんなに早いんですか」
ネルが尋ねた。
「途中の赤炉工房まで定期便があり、そこから伝書鳥で絵を送ってくれました。品物は馬車ですが、相談まで馬車へ乗せる必要はありません」
運ぶ物と、先に伝えられる情報を分ける。運送組合で整えた時刻表がなければ、どの便へ頼めばよいかも分からなかった。
石の表示を使った最初の交替は、ネルが見守った。昼番が中央門の石を寝かせ、夜番が門板の上がった位置と、その先の流れを見る。二人で『開』と声に出す。
北門では、清掃のため石を二つ重ねた。通りかかった子どもが一つ持っていこうとしたので、門の石は触らないことを町の掲示へ足した。子どもには、代わりに別の丸石を渡した。
「紙なら食べられ、石なら持っていかれるんですね」
ネルが困ったように笑う。
「現場は、僕たちが想像した通りには静かにしてくれません」
それでも、壊れたわけではない。見つけた日に、置き場所を門の内側へ変えればよい。
夜番にも、暗い中で石の向きを確かめてもらった。月明かりが雲へ隠れると、寝かせた石と地面の区別がつきにくい。そこで門柱へ小さな魔石灯を一つ移し、確認するときだけ点けることにした。灯りを増設するより、管理所の予備を使う。
夜番は、石だけを見ず、必ず手で触ってから声に出した。仮の仕組みだからこそ、『見えた気がする』で済ませない。
翌朝の記録には、石の向きに迷った場所が一か所、灯りを移した場所が一か所と書かれた。水路の異常はゼロだった。失敗が何もないのではなく、小さく見つけて、その日のうちに直せていた。
水量は一度に戻さなかった。乾いていた中央路へ急に最大まで流すと、浮いた土や枝が下流へ詰まる。朝は半分、昼は四分の三、夕方に通常量。水番が各区間を歩き、家の前で濁りがないか聞く。
南路も、旧染物路の漏れを閉じたことで少しずつ貯水が戻った。井戸の列は朝の半分になり、鍵を開けていた役所用井戸は夕方に閉められた。
閉める時刻も先に掲示したので、夕方の水をくみに来た人が戸の前で困ることはなかった。水を戻す作業には、代わりに開けた井戸を普段へ戻す仕事まで含まれていた。
「町全体が一度に元へ戻るわけではないんですね」
ミナが流量表へ線を引いた。
「仕組みを直しても、流れる物には時間があります。人の仕事も同じかもしれません」
手順を変えた翌日に、皆が迷わなくなるわけではない。だから四日間は、石を使うだけでなく、迷った所も残すことにした。
夕方、ネルが宿のことを尋ねてきた。
「皆さん、今夜はどちらへ?」
「町で手配していただけると聞いてはいませんが、空いている宿を教えてもらえれば」
ネルの顔から血の気が引いた。
町の宿は、明日の収穫市に来る商人で満室だった。役所は僕たちが日帰りすると考え、泊まる場所を一つも確保していなかった。




