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第78話 水源から家の桶まで

中央水路の原因を探すため、僕たちは水源から町の家まで歩くことにした。


魔道具だけを点で見るのではなく、水が通る順番を一つにつなげる。


「歩く前に、一つ決めましょう」


僕は携帯札の一番上へ、『水がある・ないを先に見る』と書いた。


魔道具が正常かどうかは大切だ。でも、町の人が必要なのは、魔道具の緑の光ではなく桶に入る水だ。光を追ううちに、それを忘れないためだった。


山の貯水池。水源石。第一門。三つの主路。中央門。水量石。町中の小門。家の前の水口。


ネルと二人の水番へ、それぞれ普段見る場所を地図へ書いてもらった。


水源担当は貯水池から第一門。北担当は第一門後の北路。中央担当は中央門から市場まで。南担当は南門から畑。


第一門と各主路の間に、誰も自分の担当だと思っていない短い区間がある。旧染物路もそこに含まれていた。


「担当の境界で、抜けていますね」


「隣の人が見ると思っていました」


地図へ、点検場所、担当、異常時の連絡先を一枚に載せた。


名前だけでは休みの日に困るため、『水源当番』『北当番』という役割名を大きく書き、その日の担当者名を小札で替える。


連絡先も一人へ固定しない。昼は管理所、夜は夜番の家、緊急時は町の鐘。


「全部、一枚に入れると細かいです」


ミナが言う。


毎日の地図には主路と担当だけ。月一点検と連絡先は裏面。水番が現場で見る順番は、細い携帯札へ分ける。


地図は全体を相談するため、札は歩くため。役割を分けた。


試しにネルへ、作ったばかりの地図だけを渡した。彼は迷わず北路を指したが、夜番の家を探すところで指が止まった。家主の名しか書いておらず、新しく来た水番には場所が分からない。


そこで、夜番の家の横へ『鐘楼の裏、青い戸』と足した。住所より、現地で見つけられる目印を使う。運送組合で教わったやり方だった。


今度はミナに携帯札を持って歩いてもらった。水の仕事を知らない彼女が順番を追えるなら、初めて当番に入る人にも使える。


「第二門を見た後、どちらへ行くか分かりません」


札には『次、中央水量石』としかない。道が二股になっていたので、『低い石橋を渡る』を加えた。


「作った人には見える道が、使う人には見えないんですね」


ネルは修正を自分の帳面へ写した。


僕たちは昼食の硬いパンを水路脇で食べながら、紙を作り直した。全部を机で完成させてから配るより、一度歩いて直すほうが早い。リゼはパンをちぎりながら、僕の腰を見た。


「次は折り畳み椅子を備品にするわ」


「水路の仕組みと関係ありませんよ」


「現地で座れない人が作業に入るなら、関係がある」


僕の体力も、地図の外へ置いてよい条件ではないらしい。


水番たちにも地図を交換して歩いてもらった。北担当が中央の札を持ち、中央担当が水源の札を持つ。いつもの担当なら無意識に曲がれる角で、二人とも一度ずつ迷った。


「自分の道しか、説明できていませんでした」


「全部の仕事ができる必要はないです。ただ、休みの人の代わりに、どこまでならできるか分かると安心です」


札の最後へ、『分からなければ管理所へ戻る』も足した。分からないまま進まないことも、手順の一つにしてよい。


ネルは、来月から新人が一人入ると教えてくれた。今日作った地図を、その人に歩いてもらう。そこで迷った場所があれば、また書き直すことにした。


完成した地図ではなく、次の人が直せる地図になった。


僕たちは、水そのものと同じ順番で地図をたどった。


水源石は正常。第一門も開いている。主路入口の水は十分。


中央門の手前まで水が来ている。


「地図では、中央門は開です」


ネルが記録を指す。昨日の夕方、当番が開いた印を付けている。


現地の門は、見た目にも取っ手が横を向き、開位置に見えた。


リゼが魔力を流す。


「開閉機構は動く」


「やはり壊れていない」


門の向こう側、水路の底は乾いている。


僕は水面近くまでしゃがんだ。体力より腰が先に痛くなり、ミナが新しい椅子を持ってくればよかったと言う。


「仕事へ持ってくる椅子ではありません」


代わりに石へ座り、門の上下を見た。


取っ手は開位置。記録も開。魔道具も開閉できる。


けれど、水を遮る板そのものが下がっていた。


「取っ手と門板が、ずれていませんか」


リゼが側面の確認窓を開ける。歯車は壊れていない。ただ、一度手動で門板を下げた後、取っ手の印だけを開へ戻していた。


「誰が手動で閉めました?」


ネルは取っ手を何度か動かしかけ、途中で手を止めた。


「先に、今の状態を残します」


地図へ、取っ手は開、門板は閉、水は手前まであり、と書く。直す前の姿を消してしまうと、なぜ起きたかを後から確かめられない。リゼも歯車の位置を小さく描いた。


門の横には、手動操作用の細い棒が収納されていた。普段の魔力操作とは別に、雨や停電時でも板を下げられる仕組みだ。


「手動で閉めることは、禁止されていないんですね」


「むしろ大雨のときは必要です」


悪い操作をした人を探すのではなく、必要な操作が終わった後、状態をどう戻すかを見る。その方針をネルと確認した。


ネルは帳面を探した。


地図では開いている門が、現地では閉じていた。

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