第57話 部屋に入る荷物の大きさ
新しい『荷』の目盛りは、看板以外にも使えた。
宿場町で困っていたのは、部屋数だけではない。旅人の荷物の大きさである。
一人旅でも、大きな商品箱を十個持つ商人がいる。五人家族でも、手荷物一つの場合がある。受付札では人数と部屋数を聞くが、荷物は宿が決まってから確認していた。
「箱が部屋へ入らなくて、廊下へ置くことがあります」
レナが言う。
廊下が狭くなり、別の客が通りにくい。馬小屋へ置けば、湿気を嫌う商品もある。荷物の大きい客だけ、最初から倉庫のある宿へ案内できればよい。
過去一週間の宿帳を調べると、大荷物のため部屋を替えた客は六組いた。うち三組は階段を上れず、一階へ変更。二組は倉庫を追加で借り、一組は箱を食堂の隅へ置いた。
どれも宿主がその場で何とかしており、事故にはなっていない。ただ、部屋の鍵を付け替え、別の客へ説明し、掃除済みの部屋をもう一度整える手間が増えていた。
「荷物を先に聞くと、旅人が嫌がりませんか」
案内係が心配する。
「中身や値段は聞きません。部屋へ運べる大きさかだけ、一緒に見ます」
必要以上の情報を集めない。薬房で患者の暮らしを台帳へ詰め込まなかったのと同じだった。
「受付札に、荷物の数を追加しますか」
ミナが尋ねる。
箱十個と袋十個では場所が違う。重さだけでも決まらない。
ガント親方の測定具は、持ち上げた荷物の重さをおおまかに示す。ただし全ての荷を一つずつ測ると、案内所で列ができる。
僕たちは、実物の見本を三つ用意した。
小は、膝に載る箱。中は、一人で抱えられる箱。大は、二人で持つか荷車から降ろさない物。
見本の大きさは、宿の一番狭い階段と扉で試した。中箱は曲がれる。大箱は一階の広い扉しか通らない。
ただし、長い槍や布巻きは見本箱より細くても曲がれない。そこで『長い物』だけ、棒の絵で別に聞く。
「分類が四つになりました」
ミナが言う。
「増やしすぎでしょうか」
実際の荷物二十件を見て試すと、小が十一、中が六、大が二、長い物が一。案内先が変わるのは、大と長い物だけだった。
受付では『一人で部屋へ持てますか』『階段を曲がれますか』の二問にした。見本は言葉が通じにくい人へだけ見せる。
分類を覚えさせるより、宿選びに必要な問いへ戻した。
受付では旅人に、荷物がどの見本に近いかを聞く。大が一つでもあれば三角の希望札を付け、倉庫や荷ほどき場所のある宿へ回す。
「測定具は使わないんですか」
ドムが残念そうに言う。
「見た目で迷ったときだけ使います」
最初に迷ったのは、大きな羽毛袋だった。見た目は大箱より大きいが、子どもでも持てるほど軽い。測定具の荷目盛りは小を示した。
「階段は通る?」
袋を押すと形が変わり、曲がれた。通常の二階部屋へ入れられる。
次は、小さな鉱石箱。膝に載るが、一人では持ち上がらない。荷目盛りは大。床の弱い古い部屋を避け、一階の石床へ案内した。
三つ目は、楽器の細長い箱。軽いが曲がらない。測定具では小でも、長い物の問いで止められた。
一つの数値へ判断を任せず、大きさ、重さ、形を必要な範囲で組み合わせる。高価な測定具は、目で分かりにくい重さだけを助けた。
道具があるから全件測るのではなく、判断が割れたところに使う。
最初の旅人は、中箱二つ。道の縁亭の部屋へ入る。次は大箱一つで、香辛料の匂いが強い。倉庫のある白樽亭へ。三組目は長い布巻きで、重くないが階段を曲がれない。荷の目盛りだけでは分からず、一階部屋のある旅靴亭を選んだ。
「重さだけで全部は決まりませんね」
ミナが失敗表へ書く。
「でも、金具へかかる力や、手押し車で運べるかを見るには使えます」
荷ほどき場でも役に立った。
一台の手押し車に載せすぎると、車輪が古い道の溝へ沈む。大箱二つまで、中箱なら五つまでを目安にし、迷うときは『荷』を測る。何台の手押し車が必要か分かれば、市場の受入時刻も無理なく分けられる。
試しに、昼の注文品を全部一台へ積んだ。目盛りは上限を少し越えた。二台に分けると、一台目は肉と根菜、二台目はパンと香辛料。重さだけなら均等だが、香辛料の袋を肉と一緒にしない方がよい。
「量をそろえるだけでは足りませんね」
「薬の優先便と同じです。何を一緒にしてよいかも見ます」
ミナが荷物の相性を三つだけ書いた。濡らさない、匂いを移さない、つぶさない。専門的な荷運びの規則は御者へ任せ、案内所ではこの三つを確認する。
御者たちは、自分の経験を否定されずに済み、進んで組み合わせを直した。
宿は、空室数だけでなく、大荷物を受けられる数を朝に知らせるようになった。ただし通常の客へ見せる板は増やさず、大荷物があるときだけ案内係が別表を見る。
大荷物の受入数は、部屋だけでなく倉庫と手伝える人数で決めた。倉庫が空いていても、運ぶ人が一人なら一件まで。ドムが腰を痛めた日はゼロにできる。
「客を逃す気がする」
ドムは言ったが、レナが「腰を壊したら一か月全部ゼロ」と返した。
健康も受入能力の一部だと、夫婦自身が言えるようになった。
情報を全部、全員へ見せない。必要な人が必要なときだけ使う。
その日の夕方、フィンと妹が宿場へ来た。
受付札を作り、今夜、二人、一部屋、荷物は小。道の縁亭へ案内する。
ニアが二人を二階へ連れていったあと、階段を駆け下りてきた。
「次は、シュウお兄ちゃんとリゼお姉ちゃんのお部屋!」
「僕たちは別々に一室ずつです」
「でも二人用のお部屋、空いてるよ」
ニアは僕とリゼの手を取り、夫婦向けの大きな部屋へ案内しようとした。




