第48話 予約の入口は一枚
青い札の旅人は、夕方前に戻ってきた。
名前はアーシュ。隣国から香辛料を運ぶ商人で、こちらの言葉は少し話せる。
「青い札、部屋、取る印」
彼は道の縁亭を指した。
レナは首を傾げる。
「うちでは青札を受け取っていないわ」
アーシュは案内所へ渡したつもりだった。案内係は、宿組合への申し込みだと思い、箱へ入れた。宿側には伝わっていない。
幸い部屋は空いており、彼は泊まれた。ただ、同じ方法で満室の日に来れば、予約したつもりの客が寝る場所を失う。
「私の国では、青は『先に置いた』印。商品も席も部屋も、青札を置けば取っておく」
アーシュは説明した。
「いつまで取っておきますか」
「日が沈むまで。来なければ外す」
「宿泊日は?」
「札を置いた日の夜」
当日予約だけなら、青札一枚で通じる文化だった。こちらでは数日先の手紙予約も同じ箱へ入るため、日付が必要になる。
「青札を禁止したら、困りますか」
「私たちは、文字を書くより青札が早い」
既存の方法を消すのではなく、受け取った側が受付札へ写す。アーシュにも試してもらうと、名前は係が書き、今日の夜、本人一人、一部屋、道の縁亭という情報が揃った。
「青札は、受付札ができたら返します」
「次の町で使う。助かる」
相手の道具を取り上げず、こちらの入口へつなげられた。
「申し込みを受ける場所を、一つにしましょう」
僕は案内所の机へ、大きな受付札を置いた。
予約の方法は、手紙、口頭、宿で直接、子どもの伝言、隣国の青札といくつもある。全部を一つの方法へ変えず、最初に受け取った人がこの受付札へ写す。
札には五つの欄を作った。
泊まる人の名前。宿泊する日。人数。部屋数。希望する宿。
最初は、到着時刻も入れていた。食事の有無、馬の数、荷物の大きさ、煙草を吸うか、湯を使うかも宿主たちから追加された。
紙はすぐ二倍の大きさになった。
案内係に試してもらうと、一組の受付に十分以上かかり、後ろに列ができる。旅人も「まだ聞くのか」と疲れた顔になった。
「必要な情報ではあります」
僕が言うと、ミナが質問した。
「部屋が決まる前に、全部必要ですか」
食事や馬小屋は、対応できる宿を選ぶために必要な場合もある。ただ、大半の旅人はどの宿でもよい。
特別な希望があるか、の一問だけを残し、詳しい内容は宿で聞くことにした。通常の札は五欄。希望があるときだけ、端へ三角を付ける。
薬房で使った例外の考え方が、予約にも使えた。
宿を決めていない場合は、希望欄を空白にし、案内所が空いている宿へ振り分ける。
「もっと、食事や馬小屋も書く必要があります」
レナが言う。
「最初の受付札には、部屋を確保する情報だけにしませんか。食事と馬は、宿が決まってから確認します」
入口で全部を聞こうとすると、旅人も係も時間がかかる。まず寝る場所を一つ押さえ、細かな希望は宿へ渡す。
色だけに頼らず、絵も入れた。
人の顔、月、並んだ人影、扉、宿の屋根。日付には、この国の月齢暦の小さな印を使う。文字が読めない人でも、係と一緒に指差せるようにした。
「隣国の人は月齢の数え方が違います」
アーシュが言う。
そこで日付は、宿泊する夜の月の形を描き、その横へ『今日から何日後』の点を打つ。今日なら点なし、明日なら一つ。三日以上先は、係が暦へ写して宿名を確認する。
受付札ができても、それだけでは予約にならない。
案内所は宿へ札を持っていき、宿主が部屋を一つ止め、控えの小札を返す。旅人へ渡す小札には、宿の紋章と夜の印を付ける。
「往復が増えませんか」
案内係が尋ねた。
「今も子どもが五軒へ聞きに行っています。決まった一軒へ行き、返事を持ち帰るだけになります」
空室の多い宿から順に紹介するだけでは、一軒へ客が偏る。そこで毎朝、宿主が案内所へ『今日は何室まで案内してよいか』を伝えることにした。
空室全部でなくてもよい。掃除人が休みなら十室のうち六室、団体予約が夜に来るなら二室だけ。宿側が無理なく受けられる数を出す。
「空いているのに断ることになりますよ」
ドムが言う。
「今は十室空いていても、二人で十室を掃除し、食事を出せますか」
「できる」
「何時間寝られますか」
レナが先に「六室」と書いた。使える部屋と、無理なく受け入れられる部屋は違う。設備の数だけでなく、人の余裕も在庫として考える。
案内所は五軒の受入数を順番に減らし、ゼロになった宿へは送らない。翌朝また更新する。
その日のうちに、三組で試した。
一組目の夫婦は馬を連れていたため、三角の希望札を付けた。馬小屋のある旅靴亭へ案内する。二組目の御者四人は同室でもよいと言い、二部屋ではなく大部屋一つになった。三組目の女性は静かな部屋を希望し、通りから遠い月窓亭へ。
単に空室へ押し込むのではなく、入口の短い情報で行き先を選び、細部は宿で話す。案内係は三件目には自分で札を作れるようになった。
子どもは五軒を走らず、一軒へ予約札を届け、控えを持ち帰るだけだった。
「足が余った」
配達役の子が言う。
「休んでください」
「余った時間に遊んでもいい?」
「もちろんです」
仕事が早く終わった報酬が、別の仕事ではなく遊ぶ時間になる。子どもは控えを机へ置くと、広場へ走っていった。
一組目は夫婦二人。二組目は御者四人。三組目は一人旅の女性。係が札を作り、空室数を確認し、宿から控えを受け取る。二重予約は起きなかった。
宿の中では、ドムもレナも自分たちの帳面を使い続ける。ただし、受付札が来た予約だけは中央の一冊へ写し、客が来るまで札を鍵へ結ぶ。
「色は何色にします?」
ドムが聞く。
「色を付けなくても、鍵へ札があれば予約中です」
二人とも不満そうだったが、赤か緑で争うよりよい。
夕方、杖を持った旅人が案内所へ来た。係が受付札を差し出し、名前を書いてほしいと言う。
旅人は困った顔で、鉛筆を返した。
「字は読めんし、書けん」
案内係は絵を指した。
人の顔、月、人影、扉、屋根。
旅人はそれでも、月の絵を見て首を傾げた。




