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第3話 食卓まで歩く


翌朝、僕は解決案を持たずに村を歩くことにした。


「共通の袋を作ればよいのでは?」


出発前、マルクさんが尋ねた。


「たぶん、最後はそういう話になります。でも、袋だけ変えても、ほかに数え方が違えばまた合わなくなるので」


「ほかにもあると?」


「分かりません。だから見せてください」


分からないと言うと、不安にさせることがある。それでも、分かったふりをして手を動かすよりはいい。前の職場でそれを学ぶまで、ずいぶん遠回りをした。


最初に訪ねたのは、村の北端にある農家だった。


農家の女性は、朝食の残りの薄い麦粥をかき混ぜながら、家の升を見せてくれた。丸い木の器で、縁が少し欠けている。


「一日に何杯使いますか」


「朝に二杯、夜に三杯。畑仕事が長い日は昼にも一杯だね」


「袋一つで何杯くらい?」


「さあ。十五か、二十か」


彼女は笑った。


僕は升いっぱいの麦を別の器へ移し、炭筆で縁の高さを写した。重さを量る道具がなくても、同じ器へ入れて比べることはできる。女性は面白がって、豆用と麦用ではすくい方も違うと教えてくれた。豆は山盛り、麦は縁を手で払う。それだけでも一杯の量は変わる。


棚の横には、小さな麻袋が二つあった。村長へは一袋と申告したらしい。一つは口が開き、半分以下になっていたからだ。


次の家では、同じくらいの升に取っ手が付いていた。別の家では、金属製の深い器だった。皆が「一杯」と呼ぶが、量は揃っていない。


四軒目では、穀物袋へ赤い紐が巻かれていた。食べてよい袋だと思ったら、春にまく種の印だった。


「これも在庫へ入れますか」


「数には入っているだろうけど、食べたら来年がなくなるよ」


家の老人が当然のように答えた。量だけではなく、使ってよいかどうかも必要だった。僕は紙の袋の絵に、芽の印を足した。


六軒目では、病気の家族のために柔らかい白麦だけを別にしていた。七軒目では、冬至祭へ供える分を教会へ運ぶ前だった。村の食料という一つの言葉の中に、食べる時期も、食べる人も違うものが入っている。


僕は使っているところを見せてもらい、紙へ簡単な絵を描いた。家の人の名前、袋の形、升の形、一日の杯数。数字を集めるというより、食料が倉から鍋へどう移るかを追う。


昼前、社長が息を切らしながら追いついてきた。


「シュウさん、もう八軒ですよ。少し休みませんか」


僕も足が重くなっていた。自分ではまだ動けると思っているときに限って、顔へ出ているらしい。


井戸端の長椅子に座ると、子どもが冷たい香草水をくれた。酸味があって、生き返る。


社長は鞄から小さな焼き菓子を二つ取り出し、一つを僕へ押しつけた。朝から自分も何も食べていないはずなのに、こういうところだけはよく見ている。


「シュウさんは、調べ始めると止まりませんね」


「前の仕事でも、あと一件だけと思って遅くなることが多くて」


「今日は日が沈む前に止めましょう。帰りの足も仕事です」


僕は頷き、紙の端へ『夕方まで』と書いた。人の仕事の流れは整理できても、自分の止め時は誰かに決めてもらわないと曖昧になりやすい。


「おじさん、食べもの探してるの?」


「おじさん……まあ、そうだね。どこから来て、どこで食べるかを見てる」


「うちは下にもあるよ」


「下?」


子どもは家の裏へ走り、地面に伏せた木戸を持ち上げた。ひんやりした空気が上がってくる。梯子を下りると、土壁の小部屋に根菜の籠と穀物袋が並んでいた。


「これは台帳に入っていますか」


家の主人は首を振った。


「冬の終わりに食べる分だ。村へ聞かれたのは、今使っている袋の数だろう?」


村長は「家にある食料を教えてほしい」と頼んだつもりだった。家の人は「台所にある食料」を答えた。どちらも嘘をついていない。


「ほかの家にも地下がありますか」


「古い家なら、だいたいな」


地上へ戻ると、社長が目を丸くしていた。


「食料、あるじゃないですか」


「ありそうですね。でも、全部を村の在庫として当てにしていいかは別です」


各家庭が子どものために残している分かもしれない。種まき用かもしれない。ただ足し算をして、余っていると言うわけにはいかなかった。


地下の隅には、小さな木箱があった。中身を尋ねると、主人は「去年、隣家が困ったときに貸した分を返してもらった」と言った。貸し借りまで台帳にはない。村ではお金より先に食料が動き、人の記憶が帳面の代わりをしている。


僕は午後も歩いた。畑から共同倉庫へ運ぶ人、袋を縫う人、台帳へ記す人、各家へ配る人。話を聞くたび、紙の端に矢印が増えていく。


夕方、最初の農家へ戻る道で、子どもがもう一度手を振った。


僕の紙はもう折り目だらけで、炭の粉が指先を黒くしていた。それでも朝より、村の食料が人の暮らしに近いものとして見えていた。


「あっちの家にも下があるよ!」


指差した先には、誰も在庫を尋ねていない古い家が並んでいた。


誰も数えていない地下貯蔵庫は、一つだけではなかった。


明日は、地面の下まで地図に加える必要がある。

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