第19話 三つだけ見える板
三日目の朝、僕はガント親方へ提案した。
「新しい注文を止める必要はありません。ただ、今日、工房全体で終わらせる品を三つだけ決めませんか」
「三つでは少ない」
「三つが終わったら、次の三つを出します」
棚には数十の途中品がある。全部を一度に並べれば、昨日の床と同じになる。
親方は職人たちを集めた。納期が近く、完成までの工程が少ない品を選ぶ。宿屋向けの大鍋、農家向けの刃、子ども用ランタン。どれも最後の一、二工程で止まっていた。
僕は注文札へ色を付けた。今日終える三つは白。炉を使う品は赤い縁。部品待ちは青い縁。色の意味を増やしすぎないよう、まず三種類だけにした。
工房の中央へ、古い扉板を立てる。上段に三つの白札、その下に『次』の札を三つ置いた。
板の右端には、何も書かない細い場所を残した。職人の一人が理由を尋ねたので、「困った札を置く場所です」と答えた。
「困った札?」
「部品がない、誰に聞けばいいか分からない、予定より時間がかかる。そういう札をここへ寄せます。隠さずに置いた人を、遅いと責めないでください」
職人たちの視線が、親方へ集まる。
ガント親方は難しい顔のまま腕を組んだ。
「置いたら、どうする」
「手の空いた人が一緒に考えます。すぐ直せなければ、なぜ止まったかだけ残します」
「問題を見せる板ということか」
「今する仕事を見せる板です。問題も仕事の一部なので」
親方はしばらく白い三枚を見てから、低く「分かった」と言った。フィンが小さく息を吐いたのが見えた。困っていると言葉で割り込めなくても、札なら端へ置ける。
「これは何だ」
「今日、皆で見る板です。自分の仕事が終わったら、白札の品で手伝えるものがないか確認します」
「自分の注文は?」
「白い三つが終わるまでは、新しく始めません。手が空いて、手伝えない場合だけ続けます」
職人たちは不安そうだった。一人ひとりが自分の注文を抱え、それを進めることに慣れている。全体の三つを優先すれば、自分の手が止まる瞬間もある。
最初の十分は、本当に誰も動かなかった。
地金担当は自分の机に新しい板を置こうとして、白札を見て手を止める。炉番は火力を調整しながら、どの品を待てばよいか迷っている。板を作れば人がすぐ動くわけではない。当然だった。
僕は大鍋の札を指した。
「今、あと何が要りますか」
「取っ手と刻印だ」と取っ手職人が言う。
「取っ手はどこまで?」
「削り終わっている。穴を合わせれば付く」
「では、お願いします。刻印は、その後でもできますか」
刻印担当が大鍋を裏返し、頷いた。板は命令してくれない。人が同じものを見ながら、短く話すためのきっかけにすぎなかった。
最初に動いたのはフィンだった。子ども用ランタンの枠を磨き、刻印担当へ渡す。刻印担当は大鍋を待っていたが、板を見てランタンを先に炉へ入れた。
次に取っ手職人が、大鍋の取っ手を探した。探し物の丸が増えそうになったところで、昨日見つけた箱へ青い札を付け、場所を板へ書く。
農具の刃は、検査担当が不在だった。昼から来ると分かり、板へ小さな時計の絵を描く。誰かが何度も探しに行く必要はない。
午前中に、子ども用ランタンが完成した。
箱へ入れ、白札を『完了』の場所へ移す。工房で小さな拍手が起きた。一つ終わるだけで棚が一つ空き、代金を請求できる品ができた。
「次の札を上げていいか」
フィンが尋ねる。
ガント親方が自分で一枚を選び、空いた上段へ置いた。
昼には大鍋が完成した。午後、検査担当が来て農具の刃も箱へ入った。
たった三つだが、昨日まで一日働いて完成がゼロの日もあったという。職人たちの顔に、仕事が減った実感が浮かんでいた。
「全部の注文札を、この板で管理しましょう」
若い職人が言った。
「全部は置きません」
僕が答えると、不満そうな声が上がる。
「見えないものを忘れたらどうする」
「注文台帳には全部残します。板は、今見るものだけです」
一覧と、今することを同じ場所へ詰め込むと、また山になる。覚えておく場所と、動くために見る場所を分けた。
「台帳から次を選ぶのは誰だ」
ガント親方が尋ねた。
「最初は親方でいいと思います。でも、親方がいない日にも止まらないよう、選ぶ基準を少しずつ書きましょう。納期が近い、完成まで短い、同じ温度の炉を続けて使える、などです」
「全部に当てはまる品があったら?」
「たぶん、それが次です」
「どれにも当てはまらなかったら?」
「皆で一番終わらせたいものを選びます」
完璧な規則を作るより、迷ったときに相談できる場所を残した方が、この工房には合っている。ガント親方は板の横へ、太い字で『迷ったら聞く』と書いた。親方らしくないほど素直な言葉だった。
夕方、三つだけだった上段は、二回入れ替わって六つの完了札を生んだ。
リゼは板の前で腕を組んだ。
「人が毎回、札を動かすの?」
「はい」
「忘れるわ」
「忘れる日もあると思います」
「だったら、炉と板をつなげればいい。品の刻印を読んで、空いた工程へ自動で札を動かせる」
彼女の目が、魔道具を考えるときの光を帯びている。
「作れるんですか」
「作れる。もっと速く、もっと正確に」
リゼは古い扉板の裏へ、新しい術式を描き始めた。




