第146話 無料にする四つ、有料にする仕事
僕たちは、王都中央穀倉の小会議室を十日だけ借りた。
最初に作ったのは、分厚い規則書ではなかった。一枚の紙を四つに分け、赤い枠へ量、青い枠へ期限、黄色い枠へ行き先、緑の枠へ連絡先を書いた。
色が分からなくても使えるように、量は四角、期限は丸、行き先は三角、連絡先は二本線の形を添えた。書けなければ、籠や太陽や家や人の絵でもよい。
名前は『四色札式・基本の一枚』にした。
『決まった袋を買わなくてよい』
『今の単位を書き、受け渡す場所で共通重りへ直す』
『四つ以外は、必要な人が別紙へ足す』
『返事が来ない時は、人を責める前に連絡先を確かめる』
村から王都までで学んだことを、初心者が一度読めば試せる言葉へ変えた。
フィンは、木札の型板を作った。四つの形は刃物一本で切れ、色粉がなくても角を触れば分かる。高価な魔石は使わない。
ミナは、文章を全部隠して絵だけで試した。
王都の食堂で働く人、穀倉の荷運び人、たまたま豆を納めに来た農家へ、順番に札を渡した。
最初の見本では、三角の行き先を『山へ運ぶ』と読む人がいた。
失敗だった。
ただし荷物はまだ動かしていない。僕たちは三角の中へ小さな家を描き、『届ける場所』と文字も添えた。もう一度別の五人へ見せると、全員が近い意味を答えた。
「間違われたら、使った人のせいにしないんですね」
ミナが言った。
「説明が伝わらない時は、まず説明を直します。それでも違うことはあるので、受け取る人が確認します」
一枚の裏には、確認の言葉を載せた。
『量は、この籠で十二ですね』
『期限は、十日後ですね』
復唱するだけなら、難しい魔法はいらない。
追加の手順書は十二枚になった。単位を変える場所、札が届かない時、色が消えた時、担当者が替わった時、余分な項目を分ける時。問題ごとに一枚で、全部を覚えなくても必要な紙だけ開ける。
研修は三回に分けた。
一回目は基本の四つ。二回目は、自分の地域の単位を対応表へ書く。三回目は、わざと連絡先を古くしたり、期限を空欄にしたりして、責めずに確認する練習だった。
最初の指導役二十四人への手順書作成と研修は、会社から請求しないことにした。僕の六日と、帰宅後の四日も追加報酬を取らない。
それが、僕の選ぶ損だった。
一方で、無料の範囲を契約書へはっきり書いた。
基本の一枚は、誰でも写してよい。地域の言葉へ直してよい。木札でも紙でも石板でもよい。使う人数や村の豊かさで使用料を取らない。
十二枚の手順書も、教えるための最初の研修内容も公開する。学校、組合、工房が自分たちで教える時は無料だった。
灯り木魔道具社が個別の業務を調べ、地域用の様式を作り、現地へ人を送り、魔道具を直し、継続研修をする仕事は有料にした。料金表、見積もり、納期、休日を先に示す。
独占できる知識ではなく、手を動かす仕事へ報酬をもらう。
僕がいなくても基本は使える。難しい時は、選んで会社へ頼める。頼まなくても罰はない。
「無料版をわざと不便にはしないのね」
リゼが確かめた。
「はい。基本だけで本当に動くものにします。便利な飾りではなく、その地域だけに必要な調整を有料にします」
バルド社長は収支表を読み直した。
独占使用料を受ける案より、王都契約から得る継続収入はおよそ三割減る。それでも、今回の調査費、集計盤の改修、主要倉庫への導入、将来の保守契約は正当に払われる。
全員の給金を上げ、新しい担当者を二人雇う余裕も残った。
「会社は続く。大もうけの種を一つ手放すが、仕事はなくならん」
「すみません」
反射的に謝ると、社長は僕の額を指で軽く弾いた。
「相談して、数字を出して、会社が同意した。これはお前が勝手に会社の金を配った話じゃない。謝るなら、俺の判断まで無かったことになるぞ」
僕は謝罪を引っ込め、代わりに礼を言った。
リゼとは、家へ帰った後の予定も決めた。四日間の作業は午前だけ。午後は庭と買い物。終わった翌日は何もしない休日。質問は会社の受付を通し、緊急の定義は食料七日未満か、保管設備の停止だけ。
僕の選択で、彼女の時間まで勝手に失わせない。
完成した基本の一枚を、四十七村へ試しに送った。
最初の返事は、森林地域の炭焼き小屋からだった。
『干し茸、籠十四。二十日以内。北の宿場。連絡は新しい共同倉庫』
量は十二から十四へ増えていた。連絡先も新しくなっている。四つだけで、前回からの変化が読めた。
契約官は、僕たちの修正案を正式な文面へ整えた。
『四色札式の基本手順は王国の共通知として公開する。灯り木魔道具社は個別導入、修理、改良、研修の対価を請求できる。王国は同社の名称と原案者を記録し、無償公開を有償業務の強制へ用いない』
最後の一文は、クレイスが加えた。
「無料にした人へ、次も無料でやれとは命じない。その境界を王国も守ります」
署名の日、王都中央穀倉の小さな応接室に、契約書が二通置かれた。
国王は式典を大きくせず、クレイスへ全権を預けた。バルド社長が会社の印を持ち、僕は原案者として確認署名をする。
羽根ペンを取る前に、クレイスが僕を見た。
「独占なら、あなた個人にも毎年かなりの分配が入ります。修正後は、それがなくなる。本当に損をしますよ」




