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第138話 四つの役、四つの地域

ミナが選んだのは、北ではなく東だった。


「東は豆が足りないのに、薬草と香味葉は余っています。薬房の人と食料倉庫の間を見たいです」


ルカは山間部を選んだ。


「共通重りがなく、荷車から背負い籠へ替わります。運び方が変わる所を見たいです」


フィンは南領。


「測定石が三種類ある。全部新しくせず、共通重りで合わせられるか試したい」


僕が考えた割り当てと、二人は違った。


得意だからといって、同じ仕事だけを任せる必要はない。本人が学びたい場所と、現地に必要な支援を照らし合わせた。


ミナは薬と食品の例外を見られる。東の倉庫にも薬房がある。ルカは運送の中継を知る。山の籠への引継ぎに向く。フィンは測定石の構造を学び、リゼへ相談できる。


三人の選択をそのまま担当へした。


ただし、希望だけで現地の責任者にはしなかった。


ミナは東の薬師と組み、食料倉庫の最終判断は東倉庫長。ルカは山の運送組合と組み、道の停止は現地の道番。フィンは南の技術者と組み、測定石の安全責任はリゼ。


弟子が王都の権威を背負って現地へ命令しない。現地の人が決められるよう、質問と試験を持っていく。


期間も一人十日まで。終わらなければ、続きは本人の希望と今の仕事をもう一度確認する。若い人の成長という言葉で、長い出張を当然にしない。


三人の宿、交通、休日、報酬は、王国との契約に個別記載した。僕の契約報酬から小遣いのように渡さず、担当者として正当に受け取る。


全国案件の仕事は、四つの役へ分けた。


技術。測定石、通信盤、札の耐久性。リゼが責任者で、フィンと王都技術者が地域を持つ。


四色札そのものは紙や木でも、全国をつなぐには技術が要る。共通重り、伝書板、到着通知、雨に強い札。技術役は、便利な装置を増やす前に、手動で戻れるかも確認する。


営業。依頼範囲、見積り、報酬、次の契約。バルド社長が王都と会社を往復し、領地ごとの窓口を一人ずつ育てる。


社長は最初、全国案件を一つの大契約にしたがった。王都からまとめて払われれば管理が楽だからだ。


けれど各領地の追加支援まで一つにすると、また範囲が無限に広がる。基本導入は王国契約、地域固有の改造や研修は各領地との別契約。社長自身が見積り表を分けた。


「大きい契約を小さくするのは惜しいな」


「仕事が終わらない契約より、次を相談できる契約にしましょう」


社長はうなずき、営業役として各地へ『今回はここまで』を伝えた。


現場。倉庫、農家、運送、配給所で実際に札を使う。ルカとミナが地域担当し、現地の当番へ渡す。


現場役の報告は、成功件数だけにしなかった。読めなかった札、使わなかった欄、勝手に足された印、説明へ時間がかかった場所。直す材料を集める。


ミナは東から、『連絡先の鐘印が診療所に見える』と報告した。地域では鐘が医療の呼び出しに使われるからだ。白札へ役名の文字を大きくし、地域用に別の呼び声印を選んだ。


ルカは山から、『期限の月札を農作業の月齢と間違える』と送った。必要期限を日数の紐でも示す。


全国共通でも、地域の読み方に合わせる余地を残した。


交渉。領地間の期限、負担、責任範囲。リゼが全体をまとめ、マルテとクレイスがそれぞれ国境と王都を担当する。


交渉役は、意見を一つへまとめる人ではなかった。


誰が決められるか、どこまで譲れるか、決まらない間に何を止めるかを確認する。リゼは会議ごとに三つの問いと、今日決めない箱を持ち込んだ。


北と南が輸送費の割合で合わない時、半分ずつにせず、利益を受ける量で分けた。天候で経路が変わった追加費用は王国の予備費。誰かが善意で払う空白を残さない。


リゼは技術と交渉の両方に名があった。


「二つ抱えませんか」


「技術の地域運用はフィンと王都技術者へ渡す。私は設計変更と交渉だけ」


週の予定板で、同じ日に二役を置かない。交渉会議の日は技術質問を翌日へ。緊急停止だけ例外。


僕の役は、『全体管理者』ではなく『空白確認』とした。


毎朝、四色地図で白い地域だけを見る。報告がある緑地域は担当役へ任せる。黄色い質問も、四役のどれかに宛先があれば僕は読まない。


宛先なし、決定者なし、複数役にまたがる。この三つだけ僕の箱へ来る。


初日は十七件来た。三日目には九件。一週間後には三件。僕が速く解決したからではなく、役割表へ新しい担当を足したから減った。


僕が必要なくなるのではない。まだ名前のない仕事を見つけ、名前を付けたら渡す。その繰り返しが僕の役だった。


四色札が届かない地域。四役の間で誰も持たない仕事。質問が同じ人へ集まる場所。そこだけを見る。


「最終決定は、誰ですか」


クレイスが聞いた。


王国の配給方針はクレイスと国王。技術の安全はリゼ。契約はバルド。現場の出荷可否は各領地責任者。僕が全部の上に承認印を押さない。


決定者の一覧を、四色札とは別の役割表へ置いた。


三地域で試験が始まった。


ミナは東で、薬草の樽を食用豆の樽と分けた。四色札は同じでも、品目紙の保管条件が違う。


ルカは山で、荷車一台を背負い籠四十へ分けた。量札へ、元重量と籠数を両方残す。


フィンは南で、測定石の調整輪を共通重りへ合わせた。高価な新石を買わず、三種類とも同じ重量を示せた。


僕は王都で、三人から届く報告のうち、黄色札だけを読んだ。緑の通常報告は各役の責任者へ行く。


一週間、僕が直接答えた質問は三つだけだった。


空いた時間に、僕はクレイスと昼食を取った。彼は食事中に資料を開こうとし、僕が生活側の時間だと止めた。


「王都の仕事は、食事をしながら進めるのが普通です」


「普通にして、三日前まで寝台で眠っていませんでした」


彼は資料を閉じた。僕も自分の質問札を閉じる。


全国の仕組みを作る日にも、温かいスープを味わう時間は残せた。


以前なら、三地域の全報告を読み、僕が返事をしていた。今は、困った場所だけを見るという自分の役を守れた。


試験二週目、中央集計盤の天候円盤が、突然全て黄色に変わった。


北では季節外れの暖かさ。東では長雨。南では冷たい風。山間部では雪解けが二週間早い。


収穫予定が、国じゅうで一斉に変わり始めた。

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