第136話 四つだけの共通札
全国の単位を一つへ変えなくても、食料を渡す時に必要な情報は少ない。
「交易所の五項目より、一つ減らします」
僕はクレイスたちの前へ、四枚の札を置いた。
量。
期限。
行き先。
連絡先。
国境では『何か』と安全も共通にした。国内の食料網では、品目は各倉庫の在庫札にすでにあり、危険や保存条件も品目札へ付いている。今回、領地間で共通にするのは受け渡しの四つに絞った。
「品目札がない村は?」
「その地域では、品目名を量札の上へ書きます。四項目を五項目へ増やすのではなく、何の札かを表題にします」
「安全条件が変わったら?」
「薬や低温品は、国境で使った扱い札を別に付けます。四色札へ全部は入れません」
王都の仕組みに不足があるのではなく、全国で必ず共通にする範囲を小さくする。地域が持っている札を、上書きしない。
四枚の裏には、元の地域記録へ戻る番号も付けた。数字がおかしい時、王都の札だけを直さず、どの倉庫の何日の帳面か確認できる。
量の札は青い秤の形。
期限は黄色い月と砂時計。
行き先は緑の道と家。
連絡先は白い二つの手。
色だけでなく形と縁の刻みも変える。青を見分けにくい人、暗い倉庫、雨で色が薄れた時にも使える。
王都の書記、倉庫員、御者、地方から来た農家へ試作品を渡した。
書記は四つ全て読めた。倉庫員は青い秤と緑の行き先を取り違えた。どちらも横長の札だったからだ。御者は黄色い月を出発日だと思い、必要期限より一日早く急ごうとした。
量札を袋のような幅広へ、行き先札を矢印の細長へ変えた。期限札には、希望と必要の二つの小窓を作り、必要側だけ縁へ切込みを入れる。
農家は連絡先の二つの手を、『荷物を渡す人』と読んだ。意味は近いが、困った時に聞く相手だと分かりにくい。片方の手へ小さな鐘を持たせた。
作った人の説明を聞かず、初めて触る人がどう読むかで形を直した。
「量は、王都単位へそろえますか」
クレイスが尋ねた。
「地元の単位と、受け渡す実物の量を両方書きます」
共通重量を量る場所も決めた。
村に重りがあれば出発地。なければ最初の中継倉庫。そこまでは地域袋数や荷車数で動かす。中継地で量った人、石の番号、基準確認日を量札の裏へ書く。
全国の全村へ重りを配るより、すでに市場や運送組合にある物を使う。重りのない村を『未対応』として待たせない。
換算表は王都が作るが、現地で一度実物を量ってから登録する。机上で『一袋は百』と決めない。季節や袋が変われば、現地が換算値を更新できる。
更新前の値も消さず、開始日を付ける。同じ年度の報告へ二つの換算が混ざらないようにした。
北領なら、大袋十。その横に、共通重りで量った総重量。山間部なら小袋二十と重量。王都の役人は袋という言葉を足さず、重量欄で比べられる。
測定石がない村は、運送組合の荷車単位を使う。『この荷車で二台』と絵を付け、最初の中継地で共通重りへ載せる。正確に測れない場所を、報告網から外さない。
期限は、希望日と必要期限を分ける。
早く欲しい日だけで国中が急ぎにならないよう、食べ尽くす日、傷み始める日、契約上の最後の日を必要期限へ書く。
行き先は、領地名だけでなく、最後に受け取る倉庫や町。途中で積み替える場所は別紙の経路札へ置く。
連絡先は、個人名ではなく役名を先にする。『北領倉庫当番』『東部配給所』。その日の担当者名を小札で替える。休みの人へ全国の質問が集まらない。
四枚を一組にし、王都の役人が『四色札式』と呼んだ。
僕は、名前だけが立派になりすぎないよう、まず三件で試すことにした。
南領の余剰麦を北へ。西領の豆を東へ。王都の乾燥野菜を山間部へ。
南領は地元の大袋百と、共通重量一万。必要期限は二十日後。行き先は北領第二倉庫。連絡先は南領出荷当番と北領受入当番。
北領側は、『王都の一袋なら何袋か』を質問しなかった。受け取る重量と、自分たちの袋へ詰め替えた後の数を別に記録する。
西の豆は、地域の樽で出す。樽二十、重量三千。東の配給所は樽を返却する必要があり、返却条件は経路札へ追加した。四色札そのものは変えない。
山間部には共通重りがない。王都で乾燥野菜を荷車二台へ積み、現地では籠へ分ける。量札には、王都重量と荷車二台の絵を併記した。
山道の入口で、荷車二台が籠四十八へ変わった。最初の予定は四十籠だったが、一人が安全に背負える重さへ分けると増えた。
量札の元重量は変えず、経路札へ『四十八籠』を追記する。王都の集計盤は重量を使い、山の当番は籠数を使う。どちらかへ合わせて、一人の荷を重くしない。
山間部の受入人は、白い連絡札へ個人名しか書いていなかった。担当者が山へ採取に出る日があるため、『村倉当番』と役名を加え、その日の人を紐札で替えた。
三件の試験だけで、量と連絡先の札は二度直された。
三件とも、元の領地報告を捨てなかった。領地の帳面は領地の単位のまま。四色札は、境目を越える荷物へだけ付ける。
王都の集計盤へ入れるのも、四色札の量と期限だけにした。地方帳面の細かな棚番号や農家名まで中央へ送らない。
一件目の麦が北へ届くと、行き先札を裏返し、受入重量と地元袋数を記録する。王都へ返すのは受入重量と完了日。詳細は北領に残る。
中央へ全情報を集めるのではなく、必要な結果だけ戻す。集計盤の入力者も、三人から地域担当十人へ分けられる見込みが立った。
クレイスは、全国を見えるようにすることと、全国の細部を王都が持つことは違うのだと気づいた。
「全国の仕組みを作るのに、札四枚だけですか」
クレイスは、少し不安そうだった。
「四枚で全部を管理しません。各地の仕組みを、受け渡す時だけつなぎます」
会議の翌日、十人の役人が僕の机へ来た。
税、品質、産地、輸送方法、予算、天候、人口、倉庫等級、護衛、承認印。
十人が、それぞれ必要な追加項目を一つずつ持ってきた。




