第122話 受付だけを任せる
リゼが停止札を押し、大型魔道具の腕を止めた。
薬箱を手で下ろし、温度小札を確認する。箱の中の冷却石は十分冷たく、薬に害はなかった。
「間に合いました」
マルテは安堵して泣き、次に自分を責めて泣き始めた。
「私が買ったせいで、薬を駄目にするところでした」
「買ったことと、使う範囲を決めることは別です。今、小さな試験で見つけました」
本番の全荷物へ一度に使わず、十箱、半日、最後に例外を混ぜた。失敗は害が出る前に見えた。
薬箱の温度を記録し、診療所へも状態を確認してもらった。冷却石の表示は正常、箱内の温度上昇は一目盛り未満。薬師から『使用に問題なし』の返事が来るまで、成功とは決めなかった。
アーシュが見つけたことも、個人の注意深さだけで終わらせない。なぜ彼には見えたかを聞くと、香辛料で温度札を毎日使うため、形が目に入ったという。
形札へ慣れていない書記でも気づけるよう、低温札を箱の側面だけでなく共通札の扱い欄へ写す。実物と紙の両方を最後に指す。
「次もアーシュさんがいれば安心」ではなく、誰でも止められる場所を作った。
原因を三つに分けた。
魔道具は、各国の正式書類を正しく読んだ。
共通札の新しい形も、登録すれば読めた。
問題は、人が表示を信じ、実物の小札を見る役を手放したことだった。さらに、登録されていない呼び方や例外は、必ず今後も現れる。
「全部の判断を任せるのをやめましょう」
大型魔道具の役割を、受付へ絞った。
役割を変える前に、商会の保証が残るか確認した。腕の行き先を三倉庫から三確認台へ変えるのは設定範囲内。自動判断を切っても、機械そのものの保証は続く。
保守契約には、月一回の点検と故障時二日以内の訪問が含まれていた。交易所側は、毎朝の空箱試験と、読取不能紙の保管を担当する。
何を機械へ任せ、何を人が持つかだけでなく、壊れた後の役割も分けた。
三国書類を読み、封印番号が同じ物を一束にする。重複登録を知らせ、共通受渡札の空欄を表示する。荷物をどの倉庫へ送るかは決めない。
長い腕は、受付台から三つの確認台へ箱を動かすだけにした。
一つ目は、口へ入る物の確認。二つ目は、壊れ物と温度・水の確認。三つ目は、必要期限の確認。
各台で、人が形札と実物を指さす。終わったら三枚の小札を裏返し、行き先札を最後に付ける。
三つの台を、必ず順番に通る列にはしなかった。
鉄具は口の確認台を通らず、『食品ではない』の切欠きを受付で見る。急がない荷物は期限台で日付だけ確認し、待機列へ。温度も衝撃もない麦は、扱い台で両手印なしを指してすぐ進む。
必要な台だけを通る。ただし、どの台を省いたかが共通札へ残る。空欄ではなく、『対象外』の切欠きを使う。
最初は倉庫員が行き先を迷ったので、床へ三種類の形を描いた。色の線ではなく、丸、二つの切込み、細長い足跡。荷車から降ろせない大物は、札だけ担当者が台へ持っていく。
高齢の御者にも歩いてもらい、通路が長すぎる場所を一つ短くした。機械の腕が届く範囲より、人が安全に動ける範囲を優先した。
「人の仕事が戻ります」
書記が言った。
「同じ仕事を全部戻すのではありません。三国書類の重複確認は魔道具がします。人は、例外と実物を見る所へ残ります」
得意なことを分ける。
魔道具は、大量の文字と番号を比べるのが速い。人は、低温札が箱の状態と合っているか、見慣れない品名が何を意味するか、御者へ聞ける。
午後、同じ薬箱の写しで再試験した。
書記、倉庫員、検問官を一人ずつ交替させ、初めて使う組でも試した。説明は三枚の札と、停止条件だけ。
品名が読めない。札と実物が違う。封印番号が違う。この三つなら黄色い停止札を押す。
一組目は十箱中二度止めた。一つは本当に番号違い、一つは書記が東国語を読めなかっただけだった。後者も間違った停止ではない。通訳へ回し、確認して再開できた。
停止回数を減らすことだけを目標にしなかった。止めるべき時に止め、戻せることを見る。
二組目は番号違いを一つ見つけ、薬箱も正しく薬品庫へ送った。
魔道具は、東国の農業資材として書類を束ねる。受付台から確認台へ送る。二つ目の台で、倉庫員が低温小札を指し、温風のない薬品庫へ行き先を決めた。
次に、両手印のない陶器箱を混ぜた。検問官が箱を軽く動かし、中から触れ合う音を聞いた。御者へ確認し、両手札を追加する。
札が間違っていても、最後の確認で止められた。
大型魔道具の表示板から、行き先を決める緑の矢印を消した。代わりに、『未確認の項目』だけを黄色く示す。全て埋まっても、自動で通過させず、人の行き先札を待つ。
一日の終わり、処理できた荷車は以前の二倍ではなく、一・四倍だった。マルテが期待したほど速くない。
それでも重複登録はゼロで、薬や陶器の例外も見つかった。現場の人は、表示へ従うだけでなく、自分の確認を説明できた。
「高い魔道具なのに、受付しかさせないんですね」
マルテは銀色の大きな機械を見上げた。
「受付は、毎日全荷物が通る大事な役です。役を一つにすると、壊れた時の代わりも作れます」
購入費を、使う機能ごとに分けて見積もった。
三国書類の文字読み取り。封印番号の束ね。重複警告。腕による重量物の移動。自動行き先判断。
最後の一機能は使わない。しかし残り四つは毎日使う。特に、重い箱を持つ腕で腰を痛める人が減り、番号照合の時間も半分になった。
全てを使わないから、全額が無駄なのではない。使わない部分の値段と、残る価値を分けて記録した。
次に機械を買う時は、購入前に交易所の実物書類を十種類試すこと、例外時に止まれること、保証を保ったまま役割を限定できることを条件へする。
高い授業料だったが、次の買い物へ残せる学びになった。
魔道具が止まった日は、共通受渡札を人が束ねる。速度は落ちても、交易所全体は止まらない。
マルテは購入契約書を握りしめた。
「でも、全自動の値段を払いました。私は高価な買い物を無駄にしたのでしょうか」




