第121話 正しく並べる大きな腕
大型魔道具は、『三路自動仕分け機』という名前だった。
三国の書類を投入口へ入れると、魔法文字を読み、品名、期限、安全区分を表示する。荷箱を台へ置けば、長い腕が三本の通路へ自動で送る。
「注文したのは、いつですか」
「皆さんが来る二日前です」
マルテは、荷車が滞留する状況を何とかしたかった。遠方の商会から、『書類を一度に読める』『人の間違いをなくす』と勧められ、予算の大半を使ったという。
購入書には、処理できる書類の種類が小さく書かれていた。
ラウム語の定型書式、東国語の標準輸出表、南商国語の主要商会表。手書きの追記、古い書式、地方の方言は『読み取り補助対象外』。
「説明では、三国対応と聞きました」
「嘘ではありません。主要書式には対応しています。ただ、交易所に来る全てとは書いていません」
売り手が悪意でだましたわけではない。マルテも、三国対応なら全部読めると思った。『全て』の範囲を、契約前に実物で確かめていなかった。
設置職人へ聞くと、試験用の標準書類しか持ってきていない。僕たちは、交易所で多い古い書式、手書き、雨でにじんだ紙、共通札を試験箱へ加えた。
買った物を評価する時ほど、きれいな見本だけで成功させない。
僕たちの共通札とは別に進んでいた買い物だった。
「返品できますか」
「設置前なら半額。設置後はできません」
まだ投入口は固定されていない。すぐ使わない選択もある。
けれどマルテは、役に立つかだけでも試したいと言った。買ったことを責めず、範囲を限定して一日試験することにした。
本物の荷物を入れる前に、空箱と写しの書類を使う。
ラウムの冬麦は食料通路。東国の白穀は農産通路。南商国の粉用穀物は加工材料通路。
同じ麦が、また三方向へ分かれた。
魔道具が間違えたのではない。三国の書類に書かれた分類を、正確に読んでいる。
共通札の封印番号を読ませる設定を追加すると、三つを同じ荷物として束ねられた。リゼと設置職人が半日かけ、受付番号を最初に見るよう調整した。
共通札は正式な国書式ではないため、機械の保証対象外だった。リゼが勝手に内部を書き換えれば、故障時の保証がなくなる。
そこで設置職人に作業してもらい、変更内容と元へ戻す方法を購入書へ追記した。追加費用も先に確認する。
「自分で直したほうが早いわ」
リゼは小声で言った。
「でも、後でマルテさんが修理を頼める形にしたいです」
職人は、交易所の書記一人へ登録方法を教えた。新しい形札が増えるたび、遠方の商会を呼ばずに追加できる範囲も決める。内部の魔法陣へ触れる変更だけは保守依頼にする。
次の試験では、十箱中九箱が正しい通路へ進んだ。
一箱は、陶器なのに通常品へ入った。南商国の書類では、『焼成済み生活用品』とだけ書かれ、壊れ物の欄がない。共通札の両手印は付いていたが、魔道具の読み取り板が新しい形をまだ覚えていなかった。
形札を登録し直す。今度は十箱全て正しい。
「完璧です」
マルテが拍手した。
僕たちは、成功した十箱の次に、わざと難しい十箱を入れた。
日付のない古い紙。二つの品が一箱に入った混載。封印番号が手書き。雨で一部消えた数量。形札を逆向きに付けた箱。
魔道具は、六箱を正常、三箱を読取不能、一箱を通常品と表示した。
読取不能で止まる三箱は安全だった。問題は、読み取れたつもりの一箱だった。混載品の先頭に書かれた麦だけを読み、下段の陶器を無視している。
表示には自信の度合いがない。完全に読めた結果と、一部だけ読めた結果が同じ緑色だった。
リゼは、『項目数が合わない時は黄色』になる設定を追加した。それでも、未知の書式全てを先に想定することはできない。
「完璧ではなく、得意な範囲が分かりました」
マルテは少し泣いたが、試験を続けた。
現場の人も、最初は喜んだ。書類を入れ、表示された列へ箱を置けばよい。品名を三国語で読み比べずに済む。長い腕は重い箱も持ち上げる。
半日後、変化が出た。
書記は、共通札の五項目を指ささず、投入口へ紙を入れるようになった。倉庫員は、両手印や温度小札を見ず、腕が置いた列だけを見る。
一人の書記へ理由を聞くと、『機械のほうが正確だから、同じ確認をすると遅くなる』と答えた。怠けたのではなく、効率を上げようとしていた。
倉庫員は、長い腕の動きを止めると後ろの箱が詰まるため、違和感があっても後で見るつもりだった。ところが後で見る箱の置き場がない。
人が確認を省くのは性格の問題ではなく、機械を止めにくい流れになっていた。
停止札を押しても壊れないこと、再開時は同じ箱から始まることを実演した。それでも、毎箱止めて確認するなら自動仕分けの速さは出ない。
速さと例外確認をどこで分けるか、役割の設計が必要だった。
「魔道具が確認したから」
それぞれが、自分の確認を一つずつ省いていた。
試験の最後に、北の診療所へ送る薬箱が来た。
中身は、温度が上がると効き目が弱くなる液体薬。共通札には口元の未確認印、両手印、低温小札が付いている。
東国の書類では、品名が『穀物保存液』だった。麦の虫を防ぐために使う薬なので、分類は農業資材。魔道具は文字を読み、通常の麦袋と同じ列へ長い腕を伸ばした。
共通札の低温小札は正しかった。しかし魔道具は、品名分類を先に読み、温度条件を行き先決定へ使う設定になっていない。
設置職人の説明では、低温品は通常、専用の法定書式を使う。今回は農業資材の中に温度条件がある例外だった。
各国の制度上は正しくても、実物の扱いは例外になる。だから最後に箱の札を読む人が必要だった。
列の先は、乾燥用の温風が流れる倉庫だった。
アーシュが、箱に結ばれた低温小札へ気づいた。
「これは、温めてはいけません」
箱はまだ長い腕の上にあり、温風の列へ置かれる前だった。




