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第106話 朝の最初に量る袋

麦穂村で食料札を作った時、僕たちは一杯の大きさをそろえた。


運送組合では、荷物の大きさを共通の木枠で確かめた。


今回は、測定石の数字そのものを正しいと思わず、最初に同じ物を量って差を知ることにした。


基準にするのは、乾いた麦を百単位入れた丈夫な袋だった。中身を出荷せず、毎朝の最初にだけ量る。袋の縫い目へ青い糸を通し、通常の在庫と間違えないよう大きな丸札を付けた。


最初は、本物の麦袋を基準へ使うことに反対もあった。


「食べ物を測るだけに置いておくのは、もったいない」


冬に不作が来れば、その百単位も配給へ回したい。そこで袋へ『非常時は開封可』と書き、開けた場合は新しい基準を中央の重りで作る手順を付けた。


基準を守るために、人を飢えさせることはしない。仕組みは目的ではなく、食料を正しく配るためにある。


袋の中身も、特別に上等な麦にはしなかった。領内で最も多い普通の麦を、通常の乾燥状態で入れる。珍しい物を基準にすると、作り直せない。


さらに、魔法を使わない鉄の重りも用意した。


赤炉工房が作る共通重りは、領内の市場で商取引に使われている。十単位の物を十個。袋の中身と別に量れば、測定台自体の傾きも分かる。


ガントへ急ぎで五組を頼む前に、市場の検査所から一組を借りた。重りを新しく作るには費用も日数もかかる。借りた一組で手順が役立つか試してから発注する。


十個を一つずつ載せるのではなく、木枠へ固定して百の一組にした。毎朝十回持ち上げれば、腰を痛める人が出る。木枠には二人で持つ取っ手を付け、倉庫の台車で運べる高さにする。


「確認のために怪我をしては、数字が合っても困ります」


ドーガ自身なら一人で持てるが、彼の力を基準にしなかった。


毎朝の手順を三つにした。


台を空にしてゼロを見る。共通重りを載せる。基準袋を載せる。


重りが百、袋も百なら、その日の測定を始める。重りが百二なら、以後の数字から二を補正する。袋だけ違えば、袋の状態を確認する。


「計算が増えます」


北倉庫の当番が言った。


全ての袋から二ずつ引くのは面倒だ。


そこで測定石の側面にある調整輪を使った。元は職人が設置時に使う輪だが、共通重りを載せた状態で百へ合わせれば、その日の魔力の違いを吸収できる。


「当番が勝手に触ってよい物ではないと思っていました」


「毎日触れるように作るなら、動かしてよい範囲を決めましょう」


調整輪へ、中央線から左右三目盛りだけ色を付けた。その範囲で百に合わなければ、無理に回さず黄色い札を出す。大きなずれは故障や台の傾きかもしれない。


調整輪を回す前の数字も、小さな欄へ残す。毎日右へ一目盛りずつ動くなら、その日だけ合わせ続けるのではなく、部品が摩耗している可能性がある。


日付、調整前、調整後、当番。四つだけの記録にした。


最初の案には天気、気温、手袋、体調まで書く欄があった。調査中には役立ったが、毎朝続けるには多い。当番たちに一週間分を書いてもらうと、三日目から空欄が増えた。


「毎日必要なのは、後で異常の傾向を見る四つ。天気などは、ずれた日にだけ追記しましょう」


調べるための記録と、運用を続ける記録を分けた。


リゼが強い魔力を入れても、最初に共通重りで合わせると百になった。僕が弱めに入れても百。二人が続けて基準袋を量ると、どちらも百一だった。


「一だけ違います」


「袋の布と紐の分です」


ルカが、『百の麦なのに百一』では領都の担当が混乱すると言った。


そこで報告表へ、基準値を大きく書いた。『この袋は百一が正常』。数字をきれいに丸めるより、何を含んだ数字かを伝える。


在庫袋の報告では、袋込みの総重量と、袋を除いた推定麦量を別欄にした。配給に使うのは後者だが、実際に量った元の数字も消さない。後から換算方法を変えても、元へ戻れる。


「紙が二列になります」


「一列で意味を混ぜるより、二列で名前を付けましょう」


書記は三日試し、列が増えても計算時間はほとんど変わらないと確認した。


基準袋の『正しい値』を百一と記録した。きれいな百へ無理に合わせず、実物の値を使う。


五つの倉庫へ、同じ工房で作った共通重りと基準袋を置いた。製作番号を付け、年に一度、中央倉庫へ集めて互いに比べる。


年に一度では、途中で重りが欠けた時に遅い。毎月は運送費が高い。相談の結果、季節の変わり目に四回集め、落とした、錆びた、水に浸かった時だけ臨時確認する。


重りを運ぶ箱には、運送組合で使う『重い』『割れ物ではない』『二人持ち』の形札を付けた。新しい札を作らず、すでに荷運びで通じる印を使う。


ルカは、五倉庫を回る定期便の時刻へ、基準確認の日を載せた。倉庫だけで仕組みを作らず、運ぶ人の予定までつなげる。


高価な安定装置なら、設置費だけでなく保守契約が要る。重りと袋にも製作費、運送費、確認の五分が要る。両方を一年分で比べると、今の方法はおよそ八分の一だった。


安いから選んだのではない。現場の人が自分でずれに気づき、直せることまで含めて選んだ。


初日の朝、中央、北、東、南の四倉庫は、調整後に基準袋が百一を示した。


西倉庫だけ、百五だった。


共通重りは百ちょうど。測定石も台も、調整できている。人を替えても百五。袋の置き方を変えても同じ。


「西の石が、麦だけ重くするのか?」


ドーガが基準袋を持ち上げた。


「昨日より、少し重く感じませんか」


ルカが袋の底を触った。布が冷たく、しっとりしている。


西倉庫は川沿いにあり、朝霧が濃い。扉を開けると、石壁の内側に細かな水滴が付いていた。


同じ百単位の麦を入れた基準袋が、倉庫の湿気を吸い、袋ごと重くなっていた。

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