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章の始めも短めになりやすい、と気づきました。
ということで、短いです。
マリルルカが復学してから、十日が過ぎた。
長期休暇明けのときのように、しばらくは講義に倶楽部にと忙しない学園生活をこなすのに追われたが、五日を経たころから旅の疲れも完全にとれて本調子が戻ってきていた。
「マリー様。お茶を用意してまいりましょうか」
机上のノートから顔をあげたセーラが、隣のマリルルカを労るように見つめる。明日の予習と課題を終えたのだろう、セーラは教科書とノートをきれいにまとめて置いた。マリルルカもあと少しで終わりそうだったので、香草茶をお願いする。
女子寮の二人部屋は、セーラと同室だ。本来ならルームメイトは選べないが、貴族の子弟などは側仕えとしての学友を伴い入学することが多く、申し出た場合、学園側も配慮してくれる。お国柄によっては、すべて人任せで成長したために着替えひとつできない子もおり、そうした慣習にまで学園が責任を持てないからという理由らしい。
セーラも、マリルルカの学友として邸から随行した。マリルルカはたいていのことはひとりでできたが、セーラがともに入学してくれたのはとても心強いことだった。主人と侍女という身分差はあっても、マリルルカは彼女を大切な友人だと思っていた。敵ばかりの冷たい邸のなかで、セーラだけがそばに寄り添いさりげなく助けてくれた。どれほど、それに救われたことだろう。できれば敬語など使わないでほしかったが、これは何度頼んでも聞き入れてもらえず諦めざるをえなかった。
食堂の厨房ではなく、寮ごとに儲けられた簡易の台所でお茶の用意をしたセーラが部屋に戻ってきたときには、マリルルカもまた予習を終えたところだった。
「ありがとう」
片づけた机の上に、香り立つお茶がそっと置かれる。セーラが手ずからブレンドした香草茶だ。このおかげで疲労から回復したと言っても過言ではない。マリルルカはあたたかいお茶をゆったりとした気分で味わった。
セーラも着席して、カップに口をつける。上下関係は改めてもらえなかったが、お茶につきあってもらうぐらいの譲歩はしてもらっているのだ。
ささやかな幸福を満喫していると、いつも無表情なセーラが珍しく表情をゆるめた。
「お元気になられて、ようございました」
マリルルカの胸がつまる。
休学中もずっといっしょに行動したセーラは、何も言わずただそばにいた。悩むマリルルカに慰めの一言もないのは、他人からは薄情に見えたかもしれない。だが、マリルルカは知っていた。言葉はなくとも、この香草茶のように気持ちを和ませるような気配りをそっとしてくれる。そしてどんなときも独りにしないでくれた。その行動は、口先の慰めなどより何倍も心をあたためてくれたのだ。
「……心配かけて、ごめんね。とても感謝してるの、ありがとう」
カップを置いて丁寧に頭を下げようとしたマリルルカを、セーラは優しく押し止める。
「とんでもありません。私は、マリー様のお悩みになんのお力添えもできていない。友人と仰ってもらっているのに、ふがいないばかりです」
「そんなことっ」
「いいえ、マリー様がお元気になられたのは、学園のご友人方のおかげだと思います。感謝は皆さまに。とりわけ、あの新しいご友人にどうぞ」
「ハイ!?」
お茶を飲んでいる最中でなくよかったと、マリルルカは心底思う。茶を吹きだすという淑女にあるまじき失態を犯すところだった。
新しい友人――それが指し示す人物は明瞭だ。転入生のカノン・フリクトである。
なんの冗談かと疑ったが、セーラは至極真面目だ。
「カノンさんとおられると、マリー様は本当に生き生きしていらっしゃいます。瞳は光り輝き頬は薔薇色に染まって、しおれかけていた蕾が瑞々しい花を咲かせたように」
瞳の輝きはにらみつけたせいで、頬の赤みは怒りで頭に血が上っていただけだ。
鈍くさい眼鏡君は二日目以降もドジやら勧誘騒ぎやらを引き起こし、そのつどマリルルカが庇う羽目に陥っていた。しかも、ザッツが事あるごとにカノンをいびるので、黙っていられないでいちいち注意してしまう。ザッツも自分も小姑のようである。
これだけイライラさせられていて、なぜその表現なのか。どっと疲れがわきでる。
「セーラ、それは使いどころを間違った表現だと思うわ。まるで、私がカノンに恋してるみたいじゃない」
「そうですか。それでもよろしいかと存じますが」
「ないから、絶対ありえないから!」
口許を盛大に引きつらせながら、セーラの中にある可能性を一切もみ消す。恋というなら、まだしもテッドの方が――。
セーラは双眸を伏せがちにし、かすかに吐息をついた。
「では、リーチェド様ですか」
考えかけていた可能性の図星を指されて、マリルルカは絶句する。
頬をそめて固まった主を見て、セーラは深く頭を垂れた。
「申し訳ありません。差し出口でした」
「……あ、謝ることじゃないのよ、セーラ。思えば、あなたとこういう話をしたことがなかったなって、少し驚いただけだから」
動揺を押し隠して、残りのお茶を飲み下す。
「そろそろ消灯ね、ベッドに入りましょうか!」
自分の恋愛話をした経験がないマリルルカは、気恥ずかしさに耐えかねて寝台にもぐりこむ。それで話はお終いになるはずだった。
「……マリー様。リーチェド様からご伝言です。明日の放課後にでも会いたい、と」
マリルルカは一瞬目を瞠り、そろそろと振りむく。セーラは茶器を片づけるために部屋を出るところだった。あわてて声をかけようとしたが、扉は閉ざされてしまう。
口をつぐんだマリルルカは、そっと胸元を押さえ夜着の下にあるものの存在を無意識のうちに確かめていた。
次話の改稿に手こずっております。
ちょっと翌日には間に合わないかも……。
なので、投稿は数日後になると思います。
毎日投稿を楽しみにしてくださっている方がいたら、
本当にすみません。
でき次第、いつもの時間に投稿しますね。




