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今回も短めです。文字数が揃えられない……。
まもなく食堂に到着したマリルルカは、用意された席に十人もの取りまきを認めて軽く目眩を覚えた。
いつもなら、食事を共にする自称友人方は最大五人なのである。それも昼食のみに限っている。
毎日メンバーを入れ替えて調整しているのだが、休学明けのため、彼らがご機嫌伺いに精を出したのだろう。結果、倍の人数をセーラから勝ち取ったわけだ。
「申し訳ありません」
マリルルカにだけ聞こえるよう、セーラは密やかに謝る。
連れだってきた四人とセーラ、自分を入れて、十六人の大所帯の昼食の席は、テーブルを四つも寄せてつくってあった。こんな長テーブルではろくに会話もできないだろうに、熱心なことである。
ほとんど呆れ果てて、マリルルカは微笑んだ。
「しょうがないわ。今日のところは食事を楽しむのは諦めましょう」
「……二、三日は諦めてもらうことになると思います」
「……」
さすがに笑顔が引きつった。王族と親しくするということは、こうした面倒事と始終つきあうことなのである。
「――おやおや。今日はいつにもまして人気者だね、麗しの我が従妹姫」
ふいに、悪戯っぽい声が背後からかけられた。
マリルルカは顔を輝かせて振りむく。
「テッド従兄さま!」
そこにいたのはふたつ年上の従兄、リーチェド・セドアだった。長身を包む制服は手本のようにきちんと着こなされているが、濃い褐色の髪は堅苦しくない程度に整えられている。顔だちは端正で、貴公子然とした品を醸しだしていた。だが、深い海色の瞳はいつも微笑しているような柔らかさで、近寄りがたさを少しも感じさせない。
その眼差しを受けて、マリルルカの顔に慕わしい笑みが浮かぶ。
「お久しぶりです」
「一月ぶりだね。もう旅の疲れはとれたかい」
「ええ。大丈夫」
答えを聞いて、テッドは双眸を優しく細める。
「元気そうで、よかった。……お父上のことは…」
マリルルカは一瞬息を詰め、そして小さく首をふると人さし指を唇にあてた。
「テッド……校則」
痛ましそうに眉をひそめたテッドは、双眸をふせてうなずく。
「そうだね、この話はまた今度にしよう。もし話したいことがあったら僕を呼ぶんだよ。いつでも。我が姫君のお召しなら、何を置いても駆けつけるから」
真剣な眼差しで、じっと見つめてくる。
マリルルカはほんのり火照った頬を自覚して、うつむいた。
「ありがとう……」
そんな様子を可愛らしいというように、テッドが微笑んだ。
この場面を見かけた彼の友人がからかいながらテッドを食事に誘ったので、「じゃあ、またね」と手をふってテッドは友人と連れだっていった。
彼の背を見送っていたマリルルカのそばに、すっとカノンが寄ってくる。なにやら非常に緊迫した面もちだ。片手を口のそばで立てたカノンは、声をひそめて言った。
「あの人、マリーさんの恋人ですか?」
「はあっ?」
ほっぺたの赤みなど、ふっ飛んでしまった。突然ぶしつけな質問を喰らわしてきた眼鏡君を、マリルルカは冷ややかに見やる。
「あなたに関係ないでしょう」
「えっ、ありますよ、大ありです!」
「いったい、どこにあるのよ!」
「えぇ~~、それは恥ずかしくって言えません」
もじもじと両手をもみ絞り肩をすぼめる眼鏡を蹴り飛ばしたい――ウズウズする足を不発に終わらせたのは、シュビットラン双生児の言葉だった。
「リーチェドは恋人じゃないわ」
「……とりあえず、今のところは」
さらりと答えを教えてしまった双子を、マリルルカは唖然として見た。
おとなしい姉弟は少々人見知りの気があって、初対面の相手に軽々しく話しかけることはあまりない。挨拶や当たり障りのない話は礼儀としてそつなくこなすが、友人のプライベートを持ちだして話題にすることはない。
それがマリルルカであるならば、なおさらだ。それで、怒りより驚きが勝った。
「よかったね? カノン」
「うーん、でも微妙ですよねぇ、その答えって。時間の問題って感じじゃないですか」
「まだ猶予があるということだよ」
「あ、そうか! なるほどー。僕、がんばります!」
リューンと眼鏡君がイラッとくる会話を展開している間に、カロニカはマリルルカの手の甲にそっと触れた。
「ごめんなさい。教えてはいけなかった?」
「え……いえ、別に構わないけれど……」
すまなさそうに肩を落とすカロニカを前にして、一言文句をつけたい心境だったマリルルカは思わず言葉をにごす。頼むから、迷子の子猫みたいな表情で見ないでほしい。
ただ、ひとつだけ尋ねる。
「カロニカ。もしかして……カノンと、もう知り合っていたの?」
すでに、ある程度仲良くなっていたのなら、軽口を交わすのも納得できなくはない。
だが、カロニカは目を瞬いて小首をかしげた。
「いいえ。今日、初めてお話ししたわ。彼のことは気になっていたけれど」
興味があったということか。それも珍しい。
彼女の気性から、単純に転入生だからと興味がわいたわけではないはずだ。すると、いったいこの平凡な眼鏡君のどこに気を引くところがあったのだろう。
マリルルカは好奇心を視線に乗せて、目でカロニカに訊ねる。カロニカはどう説明したらいいか迷うように、双眸を揺らした。
つかの間の逡巡。
しかし、答えを聞く前に、話題の当人が乱入してきた。
「さあ、早く食事にしましょう! お昼休みが終わっちゃいますよ」
確かにそうだ。食卓で待ちかまえる取りまきをさっと眺めて、マリルルカは小さく嘆息する。いちいち彼らの相手をして、かつ食事もしっかり摂らねばならない。とりあえず、ちょっとした好奇心は横に置いておくのが無難だろう。
「そうね、席に着きましょうか」
それにカロニカもうなずき、セーラがうながす席へそれぞれ向かう。
面倒な昼食が終わるころには、マリルルカはすっかりその好奇心を忘れていた。




