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証の花  作者: 夏和白
3 北の塔の君
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ちょっと短め、です。

……やはり、章の終わりは短くなる罠。

(彼が、北の塔の君――)


 まさかという思いと妙に納得する思いが、マリルルカの胸中で交錯する。

 北の塔の君――彼の生徒は、光神に愛され精霊を従えるゼア・ドゥーン王家の血筋。そんな並外れた一族の一員なら、この少年のような姿形をとっていてもおかしくはない。彼にまつわる噂が一気に真実味を帯びた。

 その噂のひとつを、ふと思い出す。

 この少年は少女のようにも見える繊細な容貌だが、繊弱な印象はあまりない。けれど、病状を見た目だけで判断するのは短絡なので、思いきって口を開く。

「……病弱だと聞いたことがあるわ。まだ夜は冷えるのに、出歩いても大丈夫なの」

 少年は驚いたように瞬きをしてから、ふ、と嘆息した。

「よく知っているね。でも、今は平気だよ、昔ほどひどくないから。それに夜じゃないと、自由に外を出歩けないんだ」

「どうして」

 口をつぐんだ少年は、冷たい光を地上へそそぐ月を仰ぐ。

「僕は、太陽に厭われている。陽の光をほんのわずかでも浴びると、肌が火傷したように赤くなり、熱が出て寝こんでしまう。だから、日中は外に出られないんだ」

 憧憬と諦観を浮かべる少年の瞳は、月の光に陽光を重ね見ているようだった。

 マリルルカは、いたたまれずにうつむく。当たり前の暮らしができないゆえの孤独が偲ばれ、胸を重くふさいだ。だが、そうした同情は軽く実のないものに思え、慰めや励ましの言葉はいくつもの泡沫となって消えていく。何ひとつかける言葉が浮かばなかった。

 安易に尋ねかえした自分の浅はかさが恥ずかしい。初対面なのに詮索が過ぎたのだ。

「……ごめんなさい」

 消え入りそうな声で謝罪すると、少年はマリルルカに向きなおりやわらかく微笑んだ。

「謝る必要がどこにあるの。心配してくれたから、話しておこうと思ったんだ。それに、夜の時間もなかなか悪くないよ。ほら、貴女とも出逢えた」

 まっすぐそそがれる眼差しには親しみがこめられている。

 マリルルカはその美しい眼差しから、囚われたように目が離せなくなった。頬は薔薇色に染まり、胸を打つ鼓動は痛いような早さになる。

 そうして、どれほど見つめあっていただろうか。マリルルカには長く感じられたが、実際は一呼吸ほどだったのかもしれない。その息をするのも忘れそうな一時の幕を閉じたのは、少年の方だった。

「……もう、戻らないと。世話係がそろそろ様子を窺いに来る時刻だから。本当は貴女の散歩につきあって部屋まで送りとどけたいところだけれど、いないと大騒ぎになるんだ」

 肩をすくめてみせてから、少年は一歩マリルルカに近づいた。

「心配してくれて、ありがとう。―――よい夜を」

 そう言い残すと、マリルルカの横を通りすぎた。

 マリルルカは彼の姿を追って、もと来た道をふりかえる。このまま別れてしまうのが惜しくて、まだまだ彼のことを知りたくて、とっさにその背に問いかけた。


「あなたの名前は?」


「ディグナ」


 肩ごしにふりむき、微かに微笑む。月光に照らされた一瞬の微笑は艶やかで、マリルルカの身体は熱くなり声を失う。

 茫然としている間に、少年は金の髪を揺らして小走りに去った。彼の背が月影にまぎれるまで、視線は釘付けになったままだった。

 少年が見えなくなってしばらく経ってから、マリルルカは両頬を押さえてしゃがみこんだ。

 顔が熱い。

 訳のわからない言葉を叫びだしたいような、もしくは意味もなく地面をバシバシと叩いてしまいたいような気分だ。

(何あれ、何あれ、なんなのアレは――――っ)

 自分が自分ではないみたいだった。言いたいことがちっともうまく言えなかったり、不用意に彼の事情に踏みこんだりしてしまった。心臓の音ばかりがうるさく、顔は火照るし身体は熱いしで、本気で何かおかしな病気にでもなったんじゃないかと疑う。

 けれど、そんなことはどうでもいいような気がして、ディグナと名のった少年との間にあったあれこれを思い出しては、奇声をあげないよう顔をひざに押しつける。

 心中でもんどりうっていたマリルルカの傍らに、そっと人影が寄り添った。ひざに顔を隠してしゃがみこんでいる彼女は、それに気づかない。人影は幾度か名前を呼んだが、それでも自分の世界に入っていた彼女は気づかないでいる。

 人影が中腰になり、マリルルカの肩をつかむ。

「…リー様、マリルルカ様!」

「……。えっ! セーラ!?」

 ポカンとしてから驚いて、ほとんど悲鳴のように声をあげた。

 覗きこんできたのはセーラだった。我にかえったマリルルカは、そこまでの自分の言動を思い、恥ずかしさで冷や汗をかく。もちろん心中での言動は本人以外には計り知れないので、セーラは心配そうに眉をひそめているだけである。

「マリー様、座りこんでどうなさったんですか。お気分が優れませんか」

「い、いえっ、大丈夫だから! セーラこそ、コートも着ずにどうしたの」

 寒いだろうに、ショールを夜着の上に羽織っただけだ。月光と寒さのためか青白い顔色をしたセーラは、途端に厳しい表情になった。

「コートを着る暇などございません。気がつけば、マリー様のお姿が見えなくなっていたのですから。どうして、このセーラに内緒でお出かけなさったんですか」

「起こすのは悪いかと思って……」

「お優しいマリー様のこと、それもございましょう。ですが、仰れば散歩を止められるからと、あえてお声をかけていただけなかったかと。おわかりですか、マリー様は命を狙われているのですよ。たとえ学園内だとしても、用心に越したことはないのです。一流の凶手はどんなに固く守られた場所であっても、一分の隙をついて侵入し命を奪っていく者なのですから」

「う……はい。私が悪かったです」

 下手な反論をしようものなら倍どころか十倍で説教が返ってきそうな様子に、マリルルカは早々に降参した。

 いつも無口なセーラが、説教だけはどこまでも饒舌になるのだ。しかし反省の態度を見せれば、すぐに普段の慎ましいセーラに戻る。

 今回も、マリルルカが頭を深々と下げたことで、セーラは自らを落ちつかせるよう小さく息をついた。

「……部屋に戻りましょう。マリー様がお風邪を召してはいけませんから」

「ええ。私よりセーラがね」

 立ち上がり寮へ向かう道を歩きはじめたマリルルカは、ディグナとの出逢いに混乱していて気づかなかった。

 セーラが、学生寮の方からやってきたのではないことを――。








ここまでたどり着いて、ようやく思い至ったのですが。

タグに『恋愛』と書いておいた方がいいのかなーと。


候補は、恋愛、恋愛?、恋愛(しょっぱい)、恋愛(しょぼい)。


後ろ二つが、本命です!

が、しょぼいとか、それもどうなのという本命ぶりなので、

ふつうに恋愛(?)とだけ記入した方がいいのでしょうか? うーん?


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